2023年10月からふるさと納税の制度が変更された。経費や地場産品に関するルールが厳格になり、静岡県内の自治体でも人気の返礼品を除外しなければならなくなった。その一方で、街の特色を生かしたユニークな返礼品を考案したところもある。自治体の奮闘を取材した。

魚の街・焼津市は寄付額が全国上位

焼津市の返礼品
焼津市の返礼品
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静岡県内で2022年度の寄付額1位は魚の街・焼津市だ。市内で加工されるマグロ・カツオ・ウナギなどの返礼品が人気で、2022年度の寄付額は75億円と4年連続で県内トップだ。全国でも11位に入る。

焼津市の返礼品「天然マグロのネギトロ」
焼津市の返礼品「天然マグロのネギトロ」

中でも一番人気は天然マグロのみを使用した「ネギトロ」だ。加工業者によると、キハダマグロとバチマグロを使っていて、「なるべくおいしく赤い色が残るようなネギトロを目指していて、原料や冷凍状態がいいものにこだわって作っている」そうだ。
手元に届く時は冷凍だが、解凍すると赤くなるのが自慢だという。リピーターも多く、2022年度 この加工業者には他の商品を含め約9万件の注文があった。

ふるさと納税は10月から制度が変更された。主な変更点は2つ、「経費ルール」と「地場産品ルール」の厳格化だ。
まず「経費ルール」では、返礼品や仲介サイトへの手数料や寄付者への送料なども含め、経費を寄付額の5割以下に収めなければならなくなった。
この「経費ルール」変更の影響を焼津市に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。焼津市ではこれまでもすべての経費を含め5割以下にしていて、今回の制度改正による寄付金への影響はないという。

物価高騰と「経費ルール」厳格化が打撃

ただ、家計を悩ます値上げラッシュには影響を受けているという。

焼津市ふるさと納税課の山下浩一課長は、「返礼品自体の原材料費が高騰している状況で、業者と相談していく中で、結果として寄付金の見直しをすることは2022年度からいくつかあります」と明かした。

税収を増やす手段として力を入れている自治体が多い「ふるさと納税」。生まれ故郷や応援したい自治体に寄付できる制度で、寄付をすると金額に応じて地域の名産品などの返礼品がもらえる。実質2000円で返礼品が受け取れ、手続きも簡単ということで利用者も多い。

そのふるさと納税制度が変更点のひとつ、「経費ルール」の厳格化は、焼津市は「影響はない」というものの、県内の他の自治体では事情が違うようだ。県内の35市町にアンケート調査をしたところ、「制度改正による影響で何らかの対応をした」と回答した自治体は16で半数に近かった。多くの自治体で経費を削減したり、寄付額を引き上げたり、返礼品の量を減らすなどの対応を取っている。
また物価高の影響についても、24の自治体が「値上げの影響あり」と回答した。

人気「ワニ肉カレー」が制度変更で除外

体感型動物園iZoo「ワニ肉カレー」
体感型動物園iZoo「ワニ肉カレー」

そしてもうひとつの変更点が「地場産品基準」だ。河津町はこのルールができたため、人気商品を返礼品からはずさなければならなかった。除外されたのは地元の動物園で販売する「ワニ肉カレー」だ。

iZooは河津町随一の人気施設
iZooは河津町随一の人気施設

河津町の体感型動物園 iZoo(イズー)は、は虫類を専門に扱う動物園で、町内で最も人気のある観光施設だ。施設の特色を生かして、ワニの肉を使ったカレーとハンバーグを販売し、動物園のよると「売店での売上は1~2位を争う」そうだ。
ワニの肉はタイから輸入していて、商品も河津町ではなく他の市で製造していることから、10月からルールが厳しくなり返礼品として扱うことができなくなった。

河津町役場企画調整課の横山陽紀さんは「市町によっては製造・加工する施設が少ないところが全国にはあると思うので、そういう市町が不利になっている。全国の自治体が平等にこの制度を行えるようになってほしい」と、制度変更への不安を口にする、

ワニ肉カレーが除外された「地場産品の基準」について確認しておこう。
例えばその市町の区域内で生産されたリンゴを100%使っていれば、別の市町で製造されたアイスクリームでもリンゴが生産された市町の返礼品として認められる。しかし地元産のリンゴを10%しか使っていない場合は認められない。

また海外産の肉をその市町で熟成した商品や、県外産の玄米をその市町で精白した商品も認められない。河津町のワニ肉カレーは海外産の肉を他の市で加工していた。

列車や高速道路が走る街の工夫

こうしたなか、地域の特徴を生かした返礼品を企画した自治体もある。

列車のヘッドマークを返礼品に
列車のヘッドマークを返礼品に

三島市など伊豆箱根鉄道 駿豆線沿線の3市1町は、返礼品として列車にオリジナルのヘッドマークを掲げるプランの受付を10月7日から始めた。地元を走る鉄道会社の協力で実現し、60万円を寄付すれば写真やメッセージを自由にデザインしたオリジナルのヘッドマークを、列車に約10日間掲げることができる。

60万円寄付で約10日間掲示
60万円寄付で約10日間掲示

伊豆箱根鉄道の担当者も「ヘッドマークを見るために駿豆線に足を運んでもらって、地域が盛り上がっていけばいいなと思っています」と、街の賑わいへの効果を期待する。

ふるさと納税の自販機(東名・富士川SA)
ふるさと納税の自販機(東名・富士川SA)

さらにふるさと納税の手続きが簡単にできる自動販売機を設置している自治体もある。設置場所は、ゴルフ場や旅館など様々だ。

紙の街・富士の返礼品は紙製品
紙の街・富士の返礼品は紙製品

富士市は交通量の多い東名高速道路のサービスエリアに設置していて、市外に住む人が免許証やクレジットカードを使えば2分ほどで手続きが済み、その場で返礼品が受け取れる。自販機には4000円から1万4000円までの寄付額が設定されていて、製紙工場の多い富士市らしく、返礼品は紙製品などだ。

ふるさと納税制度が導入されて15年。今後の課題について元牧之原市長で現在は総務省地域力創造アドバイザーを務める西原茂樹さんは「(ふるさと納税は)導入の主旨からすると転換点に来ていて、税制の大きな枠組みの中でもっと絞られていくかもしれない。そこは地方の自治体がもうひと踏ん張りすること、さらに利用者側は将来に備えて寄付文化を作っていく機会にする必要がある」と話す。
税収アップに向けて、自治体の工夫は続きそうだ。その一方で私たち利用者も寄付の在り方を考え直す必要があるのかもしれない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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