広島市に本社を置く食堂運営会社・ホーユーの経営悪化に伴う給食停止問題が表面化して約1カ月。問題の背景には何があるのか。給食業界を取り巻く現状と課題に迫った。

人件費の増大に頭痛める給食業界

広島市のホーユーの経営が悪化し、各地で学校の給食や食堂の営業が止まった問題は全国で20を超える都府県に影響が及び、静岡県内でも特別支援学校等10施設で被害が確認された。

ただ、給食業界がいま苦しい状況に置かれていることはあまり知られていない。

いづみ食品・中野正勝 社長
いづみ食品・中野正勝 社長
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事業所向けの仕出し弁当の販売のほか、県からの委託を受け特別支援学校2校で給食を提供している浜松市西区のいづみ食品の中野正勝 社長は「給料自体がそれほど高くない業界なので、最低賃金が上がることで人件費も上がる。最近は毎年、最低賃金が上がっているので」と嘆く。いづみ食品では人件費だけで毎年5%ほど固定費が増えているという。

採算度外視の過度な価格競争が横行

静岡県では県立学校の給食の契約は原則3年間。公告に応じた業者の中から、提示額が一番低い業者と契約する一般競争入札が採用されている。しかし、近年は県外の業者が規模拡大のため安価で入札に参加するケースが増えていて、日本給食業経営総合研究所の井上裕基 副社長は「他社から契約を取りたいがために利益度外視で価格設定をしてしまったり、契約内容を提案してしまったりしたことで、首が回らなくなってしまっているという背景もある」と指摘する。この言葉を裏打ちするかのように、帝国データバンクが給食業者に行った調査によると、2022年度は実に34%の業者が赤字だったことがわかる。

県立学校の給食契約イメージ
県立学校の給食契約イメージ

こうした中、病院や高齢者施設などを経営する社会医療法人 駿甲会は、これまで各施設で作っていた給食を1カ所で調理する、いわゆる“セントラルキッチン方式”を3年前に採用。厨房に調理師などを配置する必要がなくなり、以前は10人以上がいたスタッフ数は3人程度に。法人全体の給食事業に要する経費は年間1億5000万円以上の削減につながったという。

セントラルキッチンへの切り替えた駿甲会
セントラルキッチンへの切り替えた駿甲会

“安くて当たり前”ではいけない給食

物価の高騰や人手不足など、経営を取り巻く環境は厳しさを増す一方で、前出の井上副社長は「給食というのが食のインフラであることが明確になった。止まってはいけないし、止めることは出来ないということを我々も消費者側も改めて認識する機会になった。従って、安ければいいという価値観を消費者側は改めなければいけないし、給食を提供する事業者側も適正な利益を得なければという認識に改めなければいけない」と話す。

日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長

“給食は安くて当たり前”という風潮がある中、事業者の努力や思いを受け止め、業界全体の見直しを図っていくことが、ホーユーと同じ事態を二度と起こさせない第一歩となるのかもしれない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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