広島県の男性の育児休業取得率はここ数年で一気に高まり、2021年度は全国平均13.97%を上回る24%。実に4人に1人が育休を取得している。そうした中で10月にスタートする新たなサービスを取材した。

旅行先で1週間のんびり産後ケア

瀬戸内の穏やかな多島美が広がる尾道市・向島。

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向島に2018年にオープンした「ゲストハウスがみがみ」。ここを舞台に、これまで広島になかった子育て世代向けサービスが始まろうとしている。

このゲストハウスはもともとリーズナブルな価格で宿泊できる施設で、島を訪れるサイクリストや外国人観光客から人気の宿。秘密基地のような小部屋もあり、遊び心にあふれている。

ゲストハウス内にある秘密基地のような小部屋
ゲストハウス内にある秘密基地のような小部屋

ゲストハウスがみがみ オーナー・藤岡洋香さん:
ここで「ヤーラ」という産後ケア事業をスタートすることになりました。お母さんとお父さんが赤ちゃんと一緒にここに滞在して、将来のことを決めたりお話したり、のんびりする場所です

親子がこのゲストハウスに約1週間滞在し、瀬戸内を旅しながら子育てのサポートを専門家から受け、産後の家族の形を作っていくという場所だ。
育児に必要なものは、ミルクからオムツ、授乳クッションまですべてそろっているため、持ち物は着替えだけでOK。

ミルク、オムツ、衛生用品など赤ちゃんに必要なものを完備
ミルク、オムツ、衛生用品など赤ちゃんに必要なものを完備

滞在中、助産師や育児アドバイザーが訪問したり、パパが作り置き料理のレッスンを受講できるサービスもある。

パパのための料理講座
パパのための料理講座

その他、よもぎ蒸しサロンやアロマトリートメントなど産後おろそかになりがちなママ自身のケア、パパとママが一緒に参加できる離乳食教室やパン教室などたくさんのメニューから必要なサービスを利用できる。

2児の母の子育て経験から誕生

このサービスを考えた「ヤーラ」の井上裕子 さんは、関西電力の社内ベンチャーとして2022年6月に会社を設立。最初は、神戸市垂水区の海の見える高台の1軒家でスタートした。

ヤーラ・井上裕子 社長:
産後のご家族向けの宿泊サービスで、旅行に産後ケアの要素を少し入れたものです

生後1カ月から1歳を中心に未就学児までの家族が対象。事前に聞き取った希望に沿って、その家族に合うサービスを提供する。

滞在中の家族は、施設のオーナーや専門家の支援を受けて外部とつながりを持つ。一方、食事は自分たちで作るなど自宅に戻ってからも再現可能な生活スタイルを作っていく。

設立のきっかけは、2児の母である井上さん自身の経験だった。

ヤーラ・井上裕子 社長:
自分の出産と育児を経て、子どもがいて幸せなのに大変だなと思うことがたくさんあって。どうにか解消できないかなと思ったところからスタートしました

2つ目の拠点を故郷・尾道に

「最終的に子育てにゆとりをもってほしい」と話す、ヤーラの井上さん。神戸での設立から1年が過ぎ、故郷である尾道市に滞在期間1週間をベースにした2つ目の拠点を設けたのだ。

10月の事業スタートを前にした9月半ば、大阪市から生後5カ月の赤ちゃんと両親がモニターとしてやってきた。両親ともに、1年間の育児休業中だ。ここで1週間、ヤーラを体験する。

大阪市からやってきた小寺さん家族
大阪市からやってきた小寺さん家族

パパ・小寺修平さん:
海と山の環境があるというので、ぜひとも参加したいと思いました。子どものタオルやオムツも全部そろっているので、持ち物が少ないのが楽です

育休中とはいえリモートワークがあるというパパ。滞在中、ゲストハウスのリビングで仕事もこなす。

ゲストハウスのリビングでリモートワーク
ゲストハウスのリビングでリモートワーク

滞在した家族「移住したいぐらい」

滞在6日目、すっかり生活に慣れた小寺さん家族を再び訪問。パパが手際よく赤ちゃんのミルクを作り、飲ませていた。

パパ・小寺修平さん:
居心地がよくて移住したいなって思うぐらい。本当にちょっと計画するぐらい居心地がいいと思っていて。子育ての環境にすごく良くて、いい体験をさせてもらっています

ママ・小寺香名恵さん:
家にいるとあれこれしないといけないと思ってしまうんですけど、子どもと一緒に家族でゆっくり過ごせる場があるのはすごく大きい。ここに来られて良かったなって本当に思います

この日は、保育士が来てベビーマッサージを体験。

保育士が訪れ、ベビーマッサージを体験
保育士が訪れ、ベビーマッサージを体験

進夢(すすむ)くんは終始笑顔。

生後5カ月の進夢(すすむ)くん
生後5カ月の進夢(すすむ)くん

パパとママも幸せそう。生後6カ月のハーフバースデーを前に、記念の足型をとってもらった。

子育てを共有し、もっと“ゆとり”を

「ヤーラ」はフィンランド語で「共有する」という意味。実は、地元の人たちと子育てを共有できる仕組みもある。

向島の海岸を散策する小寺さん家族
向島の海岸を散策する小寺さん家族

この日、家族は町を散策し、カフェでランチタイムを過ごしていた。

食後の会計で出したのは「ヤーラコイン」。滞在中、5,000円分の「ヤーラコイン」が提供され、提携する店で金券として利用できる。

提携する店で金券として利用できる「ヤーラコイン」
提携する店で金券として利用できる「ヤーラコイン」

向島ではすでに40店舗以上の提携が決まっている。町の人も子育てにかかわってほしい、そんな思いで作られた仕組みだ。

ヤーラ・井上裕子 社長:
ただ滞在したというだけじゃなくて、何かあったときにまた立ち寄れるような、家族や親戚が増えたような気持ちになってもらえたらいいなと思っています。そういう場所が増えるともっと子育てにゆとりが持てるじゃないかなと思いますので、拠点はどんどん増やしていきたい

ヤーラ・井上裕子 社長
ヤーラ・井上裕子 社長

ヤーラの「尾道向島 宿泊プラン」は6泊7日をベースに希望に沿って計画され、料金は1家族あたり15万円~。男性の育休取得率やリモートワークが進む時代だからこそ生まれた、新しい子育てサービスである。瀬戸内の島で、理想的な“家族のゆとり時間”を過ごせそうだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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