新型コロナウイルスの影響で送れた開幕

新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れていたプロ野球が6月19日、ようやく2020年シーズンをスタートさせた。
当面は無観客試合や1カード6連戦など変則的な開催を余儀なくされるが、ようやく人々がスポーツ観戦という娯楽を取り戻すことができたのは、新型コロナウイルスによる混乱から立ち直る上でも大きな一歩といえるだろう。
感染者数、死亡者数ともに大きな被害を受けたアメリカでは、MLBが未だに選手会の労使交渉に難航しシーズン開幕の目処すら立っていない状況を考えれば、日米で被害状況の差があったとはいえ、こうして開幕を迎えられたことを素直に喜びたい。
シーズン自体は120試合と短縮してしまったものの、ファンならずとも今シーズンも熱いペナントレースを期待したいところだ。

MLBを代表するジョーンズがオリックスに

12球団が戦力を整えて無事開幕を迎えたわけだが、やはり所属外国人選手の出来がチーム成功の大きなカギを握っているのは間違いない。今年も数多くの外国人選手が新規入団してきたが、開幕前から実績、知名度とともに他を圧倒する存在が、オリックス入りしたアダム・ジョーンズだろう。

MLB在籍14年間で、通算1939安打、282本塁打を記録し、オールスター戦出場5回、ゴールドグローブ賞4回受賞、シルバースラッガー賞1回受賞、さらに2017年WBC優勝メンバーと、まさにMLBを代表するスター選手の1人がプロ野球に参戦してきたのだ。

そのジョーンズが遂にベールを脱いだ。楽天との3連戦にすべて「4番・右翼」で先発出場し、10打数3安打を残した。この結果をどう評価するかはそれぞれに任せるが、彼の活躍がなければオリックスの躍進はないといっていいだろう。

MLB時代から個人の成績よりチームの勝利を重要視してきたジョーンズだが、来日初安打を記録した20日の試合後は「Big time(すごく嬉しい)」と喜んだ。それだけ周囲から大きな期待を受けていることを感じ取っていたはずだ。

ジョーンズ:
「どんなに素晴らしい実績を残していたとしても、初安打はシーズンを滑り出す上でいつでも気持ちがいいものだ。残念ながら自分はいいスプリングトレーニングを過ごせなかったが、そこでの成績は関係ない。今日の初安打がきっかけになり、これから重要な場面でヒットを積み重ねていきたい」

いくら経験豊富なジョーンズと言えども、新型コロナの影響を受けこういう形でシーズン開幕を迎えるの初めてのこと。やはり調整が難しかったのか、彼が話すように、開幕前の練習試合では明らかに精彩を欠いていた。6月19日の開幕が決まり、5月25日から実戦練習を再開したオリックスだったが、4試合の紅白戦、試合の11試合の練習試合に出場し、34打数5安打と打率1割4分7厘の成績で開幕を迎えていた。
ただMLBでは20試合前後のオープン戦に出場し実戦感覚を磨き、シーズン開幕に臨むのが一般的で、それを考えればやはり準備不足の面は否めない。

さらにオリックス・ファンにとって朗報なのは、ジョーンズが打率2割8分5厘、33本塁打、108打点を残し、唯一シルバースラッガー賞を受賞した2013年は、オープン戦に11試合しか出場できず、打率2割2分6厘、2本塁打と調子が上がらないままシーズンを迎えていた。ジョーンズの真骨頂はシーズンに入ってからでないと推し量れないのだ。

もちろん来日1年目というハンディもある。その点はジョーンも冷静に捉え、今も「learning process(学習段階)」だと説明する。

ジョーンズ:
「自分は今も日々学んでいる段階だ。外国人投手の中には対戦経験がある選手もいるけど、日本人選手はすべて初対戦ばかりだ。彼らと対戦しながら、まだボールが良く見えていないとか、しっかりボールを捕らえられてないとか確認するのを続けている日々だ。だから今はいい時もあれば、悪い時もある(笑)」

2つのリーグで15チームずつあるMLBとは違い、セ・パ両リーグ6チームしかないプロ野球はシーズン中に何度も対戦することになる。ジョーンズが今後経験値を積み重ね、各投手の特長を把握した時こそ、彼本来の打撃を発揮することになりそうだ。

メジャー流を貫く調整

ところで開幕3連戦で、“メジャーリーガーらしさ”を発揮する場面があった。第2、3戦はデーゲームで実施されたのだが、ジョーンズは試合前の打撃練習と試合直前の守備練習に全く参加せず試合に臨んでいる。
実はMLBでは長いシーズンの中で体調管理をしていく上で、ほとんどのチームがデーゲームの試合前打撃練習を自由参加にしているのが常識になっている。ジョーンズは日本に来てもシーズンを見据えてメジャー流を貫いている。

ジョーンズ:
「自分はデーゲームに打撃練習するのがあまり好きではない。ここ数年は取り組んでいるプログラムがあり、それをしっかりやっている。試合のためにスイングをセーブしているんだ」

MLBで14年間戦ってきたベテランは、自分の体調管理のやり方も熟知している。オリックスも彼を信頼しているからこそ、メジャー流を容認しているのだろう。

あとは待望の来日初本塁打がいつ飛び出すかだが、ジョーンズに限っては心配する必要はなさそうな気がする。異例のシーズンになってしまったからこそ、バリバリのメジャーリーガーのバットで日本を元気にして欲しいものだ。

菊地 慶剛
菊地 慶剛

20年以上に渡り、アメリカ4大プロスポーツを取材。
2017年に日本に戻り、近畿大学で非常勤講師として教壇に立つ。テーマは「大学アスリートについて」。
もちろん記者活動も継続中。国内でラグビー、バスケ、野球など様々な競技を取材。スポーツの魅力を追い続ける。