こう着状態が続くリニア新幹線の工事。静岡県が県内工事を認めない大きな理由は大井川の流量減少問題だが、工事で出る土砂の置き場もJR東海の予定地に反対だ。2023年5月の会議では、双方の隔たりが改めて浮き彫りとなった。
会議で浮き彫り 静岡県とJR東海の“壁”
![リニア工事の環境への影響を話し合う国の有識者会議(2023年5月)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/700mw/img_cf73649ec1ce93356ddd0572a5a69b4855130.jpg)
リニア工事での環境への影響を話し合う国の有識者会議が2023年5月16日開かれ、工事で出る土砂の処理方法などについて意見が交わされたが、土砂の置き場所については進展がみられなかった。
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リニア新幹線が通る南アルプストンネルの静岡工区は約8.9kmで、約370万立方メートルの土砂が発生する見通しだ。
![発生土置き場が予定される大井川・燕沢(静岡市)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/2/700mw/img_e24b4a72601628ed18f96a16078bdb561337137.jpg)
JR東海はこのうち約360万立方メートルを大井川上流の燕沢に永久に存置する計画だ。東京ドーム3個分で、高さは70m、ビル23階分になる。
![「要対策土」置き場が予定される大井川・藤島沢(静岡市)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/a/700mw/img_3afee49d477592aab5aa3b35730c4dff67853.jpg)
ヒ素など自然由来の重金属を含み対策が必要な土「要対策土」約10万立方メートルは、燕沢には置けないため、JR東海は燕沢より下流にある藤島沢に置く計画だ。
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16日の会議でJR東海は、この藤島沢に置く「要対策土」について、二重の遮水シートで流出を防ぐことなどを説明した。今までに新幹線や道路のトンネル工事で出る「要対策土」の置き場で、数多く採用された実績のある方法だそうだ。
しかしこの「要対策土」を置く場所について、静岡県は2022年施行した盛土条例に違反するとして認めていない。
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JR東海 中央新幹線推進本部・澤田 尚夫 副本部長:
対話と言うか話を含めて対応を考えていきたい。現段階では引き続き、藤島沢に置くことを前提でいろいろな取り組みをしていきたい
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静岡県・森 貴志 副知事:
(Q.交渉次第では認める可能性ある?)交渉というか、「条例に適合しない」と考えています
他県の事例でつのる心配
![ユネスコエコパークに指定された南アルプス](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/700mw/img_62d9386429c8c9bbe9b7a5e261a6b716824684.jpg)
JR東海の計画について、静岡県は、「遮水シートの寿命などが明らかにされておらず、南アルプスがユネスコエコパークに指定され、生活用水・産業用水の水源地になっていることを理解した計画になっていない」としている。
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実際に2022年3月には岐阜県の残土処分場へ搬入されたトンネル工事の発生土から、岐阜県の検査で環境基準を超えるヒ素やフッ素が検出され、処分場の事業者に撤去を指示した。
熱海土石流を教訓に厳格な盛土条例
![土石流が川を流れ下り28人が死亡(2021年7月・熱海市)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/8/700mw/img_382fa8918964cd93701c04b24eb8b12a812107.jpg)
静岡県が盛り土に高い関心を示すのには理由がある。
2021年7月に熱海市で土石流が発生し、関連死も含め28人が死亡した。
![源頭部の盛り土が崩れた(2021年7月・熱海市)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/700mw/img_ecb51b3fc3b7da28a3efcacc00a6effe773944.jpg)
土石流の源頭部の盛り土が流れ下って大きな被害が出たが、県や熱海市は、この盛り土を事前に食い止めることができなかった。遺族や被災者が、行政や盛り土の所有者の責任を追及する裁判を起こしている。
![条例施行に伴い「盛土対策課」を新設(2022年7月)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/700mw/img_dff279a704f89d3ec64c4b3ba47e81ac1063215.jpg)
土石流災害を教訓に、静岡県は盛り土に厳しいルールを設けた。2022年7月に施行された「静岡県盛土等の規制に関する条例」だ。条例を運用する新たな部署「盛土対策課」も新設した。
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この条例では、「土壌の汚染を防止するために満たすべき環境上の基準に適合しない土砂で、盛り土を行ってなはならない」などと定めている。
リニア工事の土砂も、ヒ素やフッ素などが基準値を満たしていないものを含む場合は盛り土に使えない。
生活環境への影響を防止する措置をして、知事が適切と認めれば盛り土に使える。二重の遮水シートはこれをクリアできるかもしれない。
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でも、もうひとつ越えなければならないハードルがある。
汚染防止対策を施せば、どこに盛り土をしてもいいわけではない。「要対策土」の場合、土地の造成など事業の許認可を受けた区域で採取した土砂は、その事業区域内に盛り土しなければならない。事業区域外に運び出すことを静岡県は認めない。汚染を拡大させないためだ。
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リニアのトンネル工事で出た「要対策土」は、今のJR東海の計画では、掘削場所から直線距離で約13キロ離れた藤島沢に運ばれる。それが、静岡県が「条例に適合しない」という理由だ。
![発生土置き場を視察する川勝知事(2020年6月・燕沢)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/e/700mw/img_4ef9bfc23814025cfa3ba46b0eb102691285502.jpg)
大井川の“流量維持” と、南アルプスの“環境保全”。
どちらかひとつが欠けても、静岡県はリニア新幹線の工事を認めない。
(テレビ静岡)