前身の店から数えて150年以上の歴史を持つ家族経営のスーパーが長野県東御市にある。野菜、鮮魚、総菜、どれも安さが自慢。夕方のタイムサービスには、なんと「半額」に。地域の暮らしを支える店に密着した。
理念「店はお客さんのために」
この記事の画像(19枚)店内はにぎわっている。
それもそのはず。特売のコロッケは税込みで1個21円。ほうれん草は1袋85円。サニーレタスはなんと42円。
「お手頃で助かっている」、「すごく良心的」と地域住民から親しまれている。
安さが自慢のスーパーは、7代目の阿部卓朗さん(71)と妻の美奈子さん(70)、そして息子夫婦の「家族経営」だ。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
トータル的にみると、まあまあ食べていけるぐらいで、もうかるってことにはならない。お客さんに便利さを感じてもらえればいいと思っています。近くでよかったと
安楽屋は明治元(1868)年に塩やみそなどを扱う商店として創業。戦後、鮮魚や精肉を扱う「スーパーマーケット」になった。155年続く店には代々受け継がれてきた「理念」がある。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
「店はお客さんのためにある」というのは、先代・先々代からずっと言われてきたこと
仕入れの効率化を図るため15年ほど前、個人商店などが入るボランタリーチェーンに加盟し、精肉や調味料を仕入れている。
利益減らして「格安」の値段設定
一方、野菜や魚は今も地元の市場から。
青果は阿部さんの息子の妻・登詩子さんの担当だ。客を呼び込むため、利益を減らして、格安の値段を設定している。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
(陳列などの)見てくれとかにこだわると、商品に転嫁しなくちゃいけなくなるので、経費自体はかけないようにしています
店主の阿部さんは鮮魚の担当。一番の売れ筋は刺身。
業者を通じて仕入れた魚を店でさばき、客からは安くて鮮度も良いと評判だ。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
(1パック)350円。売れます
大型店との差別化 総菜は「手作り」
昼、買い物客のお待ちかねの時間がやってきた。正午から午後3時までの「タイムサービス」だ。
日・月は総菜、火・水・木は刺身、金・土は精肉が2割引になる。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
(タイムサービスは)お客さんに来てもらうネタ。インパクトあるものが欲しいなと。楽しみに待っている人がいっぱいいるから、うれしいですね
売り場はあっという間に空になった。
総菜は一部を除き妻・美奈子さんの手作り。手間がかかっても「手作り」にこだわるのは大型店との「差別化」を図るためだ。
妻・美奈子さん(70):
同じことをやっていても生き残っていけないからやっぱり手作りがいいかなと。一人暮らしのおばあちゃんでも、すぐ食べられて、手をかけなくてもね、体に良いものを食べてもらえればいいかなと
一人暮らしでも求めやすくと、ほとんどが1パック100円台。
家庭の味と安さが人気の理由だ。
地域を支えるスーパー
84歳の女性は電動車いすで通っている。
客(84歳):
私が嫁に来た頃(約50年前)からこの辺の人みんな使ってます。生きていくにはなきゃダメだと思う。遠くのほうまで行かなくてもすぐそばにあって
75歳の土屋万里子さん。車で数分の距離に住んでいて、週5日は通う常連だ。
土屋万里子さん:
(買ったのは)暑いからビールでしょ。あとキッチンペーパー、安売りのコロッケ
3人の子どもは独立し、今は夫と二人暮らし。まだ車を運転できるが、先を考えると、徒歩でも通える安楽屋のような店が重要だと話す。
昼食には安楽屋のコロッケと前日に買ったアユを準備して、畑仕事に出た夫の帰りを待つ。
土屋万里子さん:
なくてはならない存在です。とても重宝。安楽屋さんがなくなるということは考えたくないね、いつまでもやってもらいたい
夕方、刺身や総菜が「全品半額」
夕方5時、再び客が増えてきた。
従業員:
おすしとお刺身お持ちの方、出してくださいね。シール貼ります
次々と貼られていくシール。
毎日、午後5時を過ぎると刺身や総菜が「全品半額」となる。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
残れば困るからやってるだけです。安く売ったからって、それを狙って来てくれる方がうれしい
「経営苦しいが、このまま続けたい」
大型店の出店に昨今の物価高。経営環境は厳しさを増している。
それでもにぎわいを維持できているのは地域住民、とりわけ高齢者の暮らしを想像した商売を続けているから。
その姿勢はこれからも変わらない。
安楽屋7代目・阿部卓朗さん:
店の経営は苦しいですよ。苦しくても、苦しいまま何十年もやってきた商売ですから、続けられる程度の利益があれば、このまま続けたいと思っています
(長野放送)