記者会見への手話通訳者の設置進む
新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけで、聴覚障害者への情報提供についてもバリアフリー化が進んでいるが、岡山の取り組みが今、世界から注目を集めている。
パソコンの画面を熱心に見つめているのは、聴覚に障害がある佐藤美恵子さんと庄田正子さん。
見ていたのは、岡山県がインターネット上で公開している知事の記者会見の動画。
5月25日から、これまでの字幕だけでなく、手話通訳もついた状態で見られるようになった。
岡山県聴覚障害者福祉協会 手話対策部 庄田正子部長:
文字だけでは、私たちはわからない。理解力はまちまち。手話だと内容がつかめるし、情報を獲得できて安心。
岡山県聴覚障害者福祉協会 佐藤美恵子事務局長:
専門用語がたくさん出てきて(文字を)見ても分からない。手話だと即時にきちんと内容が把握できるのでいい
手話は、健常者が話す日本語とは文法が違ったり、手の動きなどで単語の意味をとらえるので、聴覚障害者が文字情報だけを見て理解するには難しい場合がある。
このため、岡山県や倉敷市などに対し、手話による正確な情報提供を求め、記者会見に手話通訳者を置くよう要望していて、各地の自治体で実現し始めている。
岡山県聴覚障害者福祉協会 佐藤美恵子事務局長:
聞こえる人も聞こえない人も平等。手話を見て(耳で聞くのと)同じ情報を得られたらいい
いち早く“遠隔手話通訳”を記者会見に導入
そんな中、岡山県内で、いち早く記者会見に手話通訳を付けたのが総社市だった。
記者会見する市長の横にあるモニターに手話通訳者が映し出された。
岡山放送 篠田吉央キャスター(手話リポ):
総社市では、記者会見の手話通訳を遠隔で行っています
手話通訳者がいるのは、会見場後方のブース。
市長の発言を生中継で手話通訳するもので、2020年4月、全国でもまだ珍しいこの遠隔手話通訳を記者会見に導入した。
総社市福祉課・上西智子さん(手話通訳者):
本来は、話している人の横に立って手話をするが、新型コロナウイルス感染防止の目的で、離れるソーシャルディスタンス(社会的距離)が必要
総社市・片岡聡一市長:
コロナは災害。一番困ってうろたえるのは、障害がある方。ろうあ者にとっては、マスクが大障害になります。ですから遠隔地手話通訳者に活躍してもらって、情報を均等に平等に、最速スピードで届けたい
遠隔手話通訳の活用は国際機関も注目
手話でのコミュニケーションは、手の動きだけでなく、表情や口の形からも多くの情報が伝わる。
感染防止のためにマスクを着けると、情報量は制限される。
このため、香川県や倉敷市のように、手話通訳者が透明なマスクやフェイスシールドを付け対応している自治体もあるが、総社市が始めた遠隔手話通訳の活用は、岡山県知事の記者会見で取り入れられたほか、今、国際機関からも注目を集めている。
タイに本部がある国連アジア太平洋経済社会委員会。
国連職員の秋山愛子さんは、ここで障害者に関する業務を担当している。新型コロナウイルスの感染拡大が障害者に与える影響を世界に発信するほか、障害者の権利について各国に訴えている。
国連アジア太平洋経済社会委員会 社会問題担当官・秋山愛子さん:
一番重要なメッセージは、誰も取り残さない社会。誰も取り残さない発展を続けていくということです。例えば情報へのアクセスとか、医療へのアクセスとか、さまざまな領域で障害者の権利を保障する、個人の尊厳を大切にするという視点から、政策提言を事務総長自らが発表しました
ーーつまり、きちんと非常事態でも情報が得られるというのは、人としての権利にもつながるのでしょうか?
国連アジア太平洋経済社会委員会 社会問題担当官・秋山愛子さん:
これは、2008年に発効した障害者権利条約にもはっきり書かれていることです。情報を得られないことは人権侵害である
各国の有識者と意見を交わす中で知った「遠隔手話通訳」による記者会見は、新型コロナへの対応として有効だと感じたという。
国連アジア太平洋経済社会委員会 社会問題担当官・秋山愛子さん:
(感染から)手話通訳者自身の安全も守らなくてはいけないという側面があるのと、アジア太平洋の多くの国では、ロックダウン(都市封鎖)などで記者会見が行われている場所に行けないという現状もあると思う。そしてもう一つは、手話通訳の絶対数が、アジア太平洋でものすごく少ないので、そういう意味では、遠隔手話通訳で自宅などでやった方が、通訳の場を提供できるということもあると思うので、国連としてもぜひ、アジア太平洋、世界に広めていきたい、先進的な取り組みだと思っている
聴覚障害者と通訳者、双方に寄り添った遠隔手話通訳による記者会見。
新型コロナをきっかけに、聴覚障害者への情報保障への意識が高まることが期待される。
(岡山放送)