廃業予定だった酒蔵を立て直し、女性や若者などにも人気の日本酒を手がけている新潟県柏崎市の酒蔵「阿部酒造」。業界の未来を見据えた、飲み手を増やす取り組みが動き出している。

日本酒離れ… 一時は廃業の危機に

阿部酒造 阿部裕太さん:
ここにいらっしゃる方は、日本酒にめちゃくちゃいいイメージを持たれている方が多いと思うんですけど、実際、僕の友達とかも日本酒を飲まなくて。やっぱり、まだまだ飲む人が非常に少ないアルコール飲料だなと思っています

日本酒について話す阿部裕太さん
日本酒について話す阿部裕太さん
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東京・渋谷で行われた日本酒のイベントでこう切り出したのは、柏崎市の酒蔵「阿部酒造」の6代目・阿部裕太さん。

「圧倒的にうまい」をテーマに、酸味やコメのうま味を生かした酒造りで、日本酒好きの人だけでなく、女性や若者からも人気を集めている阿部酒造。

しかし、一時は廃業の危機に陥っていた。

阿部酒造 阿部裕太さん:
1983年くらいから、メーカーで設備投資をしていなかった。僕が戻ったのが2014年。ほぼ30年間、設備投資していないって、もう死んでいますよね

1973年、170万kLを超えていた日本酒の国内出荷量は、40年後にはピーク時の3分の1に減少。こうした背景から、1804年創業の阿部酒造は、5代目の父・庄一さんの代で廃業することを決めていた。

阿部裕太さんの父・庄一さん:
ある日、突然帰ってきて、メシを食っている時に「この蔵継ぎたいんだけど」と言うから、「え?」みたいな

もともと蔵を継ぐ予定ではなかった阿部さんは、東京のIT企業で勤務していた時に、新潟県外の日本酒を飲み、様々な味わいがあることに感動し、酒蔵に戻ることを決意した。

酒蔵再建へ「自分が造りたいものを」

阿部さんが目指したのは、新潟が全国に誇ってきた「淡麗辛口」とは違う味わいだった。

阿部酒造 阿部裕太さん:
新潟県民からすると、酒=淡麗辛口。自分の趣味嗜好とかの前に、「この酒(淡麗辛口)とは違うタイプを造りたい」というベクトルでものづくりを始めたので、割と甘めに。でも、自分の造ったタイプは当初、全然おいしくなかった

廃業寸前の蔵を立て直すため始まった阿部さんの挑戦。父親から酒造りを学ぶだけでなく、県外の酒蔵に研修に行くなど失敗を繰り返しながら、自らの思うおいしい日本酒を追い求めてきた。

その中で、日本酒の発酵に欠かせない麹造りを指導してもらったのが、当時、秋田県の有名な酒蔵で働いていた岡住修兵さん。

現在は独立し、業界も注目する岡住さんがこの日開いたのは、“悪い習慣を打ち破る”という意味の「陋習(ろうしゅう)を破る」と銘打ったイベント。

岡住修兵さん:
阿部さんのお酒は、「ザ・新潟酒」ではない。その辺の思いとかって何かあったりする?

阿部酒造 阿部裕太さん:
「淡麗辛口っぽくないもの」と言われるときも、もちろんあるが、僕自身は、ただ自分が造りたいものを造っているという感覚。酒造りの工程が多いということは、選択を常に迫られるが、「二択あるので取らない」「選択をしない」ということができるのが僕らの酒造りの面白さ

淡麗辛口というイメージが強い新潟で、異なる味わいを求める阿部さんの挑戦を岡住さんも注目している。

岡住修兵さん:
今まで日本酒を飲まなかった層、特に若年層の人たちに阿部を知ってもらうきっかけとして、その後、日本酒を展開していくという戦略的なところと思いは、まさに陋習を破っている人

アパレルメーカーと新たな挑戦!

そんな阿部さんが今行うのが、日本酒の「飲み手を増やす」取り組みだ。

2022年11月、阿部酒造の酒蔵で蔵人たちと酒の仕込み作業をしていたのは、大手アパレルメーカー・ユナイテッドアローズの鈴木貴至さん。

ユナイテッドアローズ 鈴木貴至さん:
蔵人になった気分で楽しい

仕込んでいたのは、阿部酒造とユナイテッドアローズがコラボした日本酒。

阿部酒造 阿部裕太さん:
お声がけしていただいたのは、うちが色んな造りに挑戦しているところから。うちとしても、一緒にやる以上は新しい挑戦をしたいと思っている

「コメ・米麹・水」の3つの原材料で造られる日本酒の中で、阿部酒造では、水の一部に酒を使う「貴醸酒」と呼ばれる甘い蜜のような風味が特徴の日本酒も販売。

阿部さんは今回のコラボでは、この貴醸酒を仕込みに使い、貴醸酒で貴醸酒を造る新たな酒造りに挑戦していた。

ユナイテッドアローズ 鈴木貴至さん:
貴醸酒で貴醸酒造ると、どうなっちゃうんだろうな

蔵人:
甘い酒で、甘い酒造ってね。まったく予想がつかない

狙っていたのは、新たな層へのアプローチ。

ユナイテッドアローズ 鈴木貴至さん:
阿部さんのお酒は飲んだことがないだけで、飲んだら絶対に魅了される、すごく素晴らしいお酒。そういった飲まず嫌いではなくて、ぜひ「こういう面白い世界があるよ」というのを提案していきたい

阿部酒造 阿部裕太さん:
ユナイテッドアローズさんは日本でも知名度がめちゃくちゃ高い会社の一つ。おんぶに抱っこになって、僕らの蔵を知ってもらえたらうれしい

「コラボに興味が…」実を結んだ挑戦

この仕込みから約3カ月…

阿部酒造 阿部裕太さん:
すごく貴重なお酒なんですよ

ユナイテッドアローズ 鈴木貴至さん:
普通水でお酒って仕込むんですけど、水の代わりにお酒で仕込むという贅沢なお酒。そうすると、濃厚な甘さと阿部さんならではのすっきりした後味になる

いよいよ発売日を迎え、阿部さんと鈴木さんは店頭に立って、完成した日本酒を販売。その売れ行きは好調で、次々と客が訪れた。

購入した人:
柏崎にある、気鋭の酒蔵さんだということは分かっていたけど、今まで飲んだことはなかったので楽しみ

購入した人:
アローズとコラボされるということで、興味があって来た。説明を聞いて、味とかにも興味を持ったので飲んでみたい

中には苦手意識を持っていた日本酒に興味が湧いたという人も。

飲んだ人:
甘くてスッと入る水まではいかないですけど、すごく飲みやすかった

(Q.飲んでどう思った?)
飲んだ人:

他の日本酒も飲んでみたい

阿部さんが目指す、「飲み手を増やす」取り組みは、着実に実を結んでいた。

阿部酒造 阿部裕太さん:
市場をつくっていかないと、どんどん飲む人は減っていく。「本当に頑張れば、色んなコラボもできる」と身に染みて感じたので、愚直に頑張りましょうという。それだけ

日本酒業界の未来を見据えて…小さな蔵の大きな挑戦は続く。

(NST新潟総合テレビ)

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