東日本大震災から12年。宮城県気仙沼市にあった菓子店は津波で流された。この菓子店の看板商品のレシピを受け継いだのは店主の親友の息子。思いを受け継ぎ、新潟県長岡市で販売されている焼き菓子を紹介する。
被災した菓子店の看板商品「テルゴ」
生地とチョコレートが幾重にも重なった焼き菓子。

購入した人:
私がもらって、すごくうれしかったので、また、贈った人にうれしい気持ちになってもらえたら
おいしくて、誰かに贈りたくなる、焼き菓子の「テルゴ」。

この焼き菓子は、12年前に起きた東日本大震災で、宮城県気仙沼市を襲った津波により全壊した菓子店の後藤照夫さんが考案した看板商品だった。

今は、気仙沼から遠く離れた新潟県長岡市にある「パティスリーVIGO」で作られている。
VIGO 河上剣斗さん:
「てるお・ごとう」で「テルゴ」というお店。そこの看板商品を名前ごと引き継がせてもらった
製造を受け継いだのは、VIGOの店主・河上剣斗さん。

この日、河上さんが作っていたのは、イチゴ味のチョコを使った春限定のテルゴ。
チョコレートの間に挟まる生地は、スポンジ・クッキー・パイの3種類で14層に重ねるため、手間はかかるが、特別な食感が生まれるのだとか。

VIGO 河上剣斗さん:
菓子作りは手間がかかるが、中でもテルゴは一番時間がかかる
大切なレシピを親友の息子へ
河上さんがテルゴを作り始めたのは2016年。実は河上さんの父・正明さんが、テルゴを考案した後藤照夫さんと東京で共に製菓を学んだ親友だったのだ。

剣斗さんの父・河上正明さん:
後藤さんは兄貴分で面白い人だった
フランスで菓子作りの腕を磨いて、1995年に宮城県気仙沼に店を開いた後藤さん。テルゴは店の人気商品だった。

剣斗さんの父・河上正明さん:
あれだけ違う素材を使って組み合わせるお菓子はない。テルゴは後藤さんが培ってきた技術の集大成

しかし、後藤さんは東日本大震災による津波で店を失うことに…
剣斗さんの父・河上正明さん:
津波で全部流された。生きているだけで十分と喜ぶしかなかった
気仙沼での店の再建を断念し、避難先の山梨県で菓子作りを始めた後藤さんは、2016年に長岡市を訪れ、自身を襲った悲劇を感じさせることなく、親友の息子である河上剣斗さんにテルゴの製造方法を教えたのだった。

VIGO 河上剣斗さん:
震災でレシピも流されてしまったが、記憶を呼び起こしながら書き直したレシピのコピーを全部置いていってくれた

テルゴの製造で、チョコレートと生地を重ね終えた河上さん。
VIGO 河上剣斗さん:
きょうの工程は終わり。チョコレートを固めてからでないと、次の工程に進めないので、テルゴは数日かけて作る

完成までには、4日かかるという。
「風化させない」テルゴで伝える思い
この日、店を訪れたのは、情報発信を通して中越にある企業や店などを応援する20代の5人組。
河上さんは、こうして訪れるお客にテルゴに秘められた物語を伝えている。
VIGO 河上剣斗さん:
少しでも後藤さんの話をすることで、東日本大震災を風化させない

テルゴを食べると…
客:
めちゃくちゃ新食感
客:
色んな食感を楽しめるのが、とても楽しい

中越地震で被災した長岡と東日本大震災の被災地をつなぐ焼き菓子。
客:
思いが詰まったお菓子を大切な人と食べる時間にするとか、すごくいいなと思った
客:
誰かに贈って、楽しんでもらうと同時に、忘れてはいけない出来事を一緒に届けるというのも、テルゴに込められているのかなと思った

後藤さんの生きた証に「層加えて…」
外側をチョコレートでコーティングして、スライスアーモンドをまぶし、丁寧に仕上げていく河上さん。


後藤さんは、2018年に病気で亡くなった。
VIGO 河上剣斗さん:
後藤さんは亡くなられたけど、つくってきた歴史をつないでいけるかなと思う

東日本大震災から間もなく12年。後藤さんが亡くなった今も尚、テルゴは笑顔を広げ続けている。
VIGO 河上剣斗さん:
後藤さんの生きた証に層を加えて伝えていきたい

震災や別れの悲しみを越えて…菓子職人の優しい心が重なる。
(NST新潟総合テレビ)