2024年春、ドライバーの労働時間の基準が改正され、拘束時間が制限される。これにより、トラック運転手が不足するとともに輸送量が減少し、予定通りに荷物が届かないことが懸念されている。法律の施行まで1年あまりとなるなか、対応を急ぐ現場を取材した。

「運転・休息時間の基準」改正で危機!?

大学生:
実家から食料や衣類の仕送りをしてもらっているので、物が届かなくなると困る

高校生:
食べ物とかだと、買いたいときに買えないのは大変だと思う

街の人が口にする、物流が滞ることへの不安。この冬、大雪の影響で物流が滞り、品薄が発生したことが記憶に新しいが、2024年の春、この物流に危機が訪れるおそれが出ている。

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長岡技術科学大学 佐野可寸志 教授:
今までと同じ運び方をしようとすると、より多くのドライバーが必要になる

都市交通などに詳しい長岡技術科学大学の佐野可寸志教授は、残業時間を上限960時間に規制する働き方改革関連法が、2024年4月からドライバーへ適用されることが背景にあると指摘する。

働き方改革関連法は2019年に施行されたが、タクシーやバス・トラックのドライバーは準備のため、5年間の猶予期間が設定された。

それに伴い、厚生労働省が定める改善基準告示(ドライバーの運転・休息時間の基準)が改正される。これまで、年間3516時間だった拘束時間は、200時間以上減り、原則・年間3300時間となる。

2024年4月から
2024年4月から

長岡技術科学大学 佐野可寸志 教授:
1日で運転して行けなくなるところもあると思うので、荷物を中継するなど、色んなことを変えていかないといけない

輸送力減も…宅配便の個数は増

この規制により、トラックドライバーが1日で移動できる距離はおおむね500kmが限界となり、業界では「500kmの壁」と呼ばれている。

民間のシンクタンクであるNX総合研究所は、輸送能力が2019年度と比べ14%、営業トラックにして4億トン不足すると試算。

一方で、新型コロナウイルスにより、宅配便の個数は増えている。

国土交通省によると、2019年度が約43億個だったのに対し、2020年度は約48億個に。輸送能力不足の影響は試算以上に大きくなる可能性がある。

日常生活への影響が懸念されるが、こうした改革の背景には、トラックドライバーの長時間労働という問題がある。

厚生労働省の調査では、全産業の平均と比較して、大型トラックのドライバーが年間432時間、中小型トラックで382時間労働時間が長く、脳や心疾患といった過労死の数も多い実態が明らかになった。

ドライバーの長時間労働 その原因は?

県内の運送会社、新潟輸送のドライバーで食品などの県外への配送を担う上原輝義さん。

この日は、阿賀野市にある配送センターを出発し、新潟市江南区にある亀田製菓の工場を経由して、千葉県の配送センターへ向かった。

新潟輸送 上原輝義さん:
新潟に戻ってくるまでの3日間で考えると、運転時間はトータルで24~25時間。1日で計算すると、8時間くらい

仕事は道路状況によって左右され、ときには休憩時間が取れないこともあるという。

新潟輸送 上原輝義さん:
渋滞、もしくは高速道路が通行止めになって一般道を走ると運転する時間が長くなる。それが結局休憩時間を削ることになる

休憩時間が取れなくなる理由は…
休憩時間が取れなくなる理由は…

このほか、ドライバーの長時間労働の要因としてあげられるのが、運転以外にドライバーが担う荷物の積み降ろし作業や、荷物が準備されていないことにより”荷待ち”の時間が発生すること。

長時間労働の要因の一つ
長時間労働の要因の一つ

運送会社だけでは対処できない問題に、新潟労働局は「荷主対策特別チーム」を立ち上げた。

1月に亀田製菓を訪ねると、2024年から改正される法律の周知のほか、荷物の積み下ろし作業などの時間短縮への協力を呼びかけた。

新潟労働局労働基準部監督課 中山貴順 荷主特別対策担当官:
荷主の状況で、なかなか時間が短くするのが難しいというトラック業界の話もある。このままでは、トラックによる物流が立ち行かなくなってしまう

亀田製菓総務部 金子浩之 部長:
しっかり、当事者意識を持って取り組んでいきたい

亀田製菓では時間短縮のため、あらかじめパレットに積んである商品をパレットごとトラックに乗せて運ぶ「パレット輸送」を推進。会社ごとに異なるパレットの規格を菓子業界で統一化することにも取り組んでいるという。

トラックドライバーの上原さんの作業もスムーズに進み、30分ほどで荷物の積み込みが完了した。

新潟輸送 上原輝義さん:
きょうはできすぎ。早く積めた

(Q.手作業で積むと、どれくらい時間がかかる?)
新潟輸送 上原輝義さん:

4時間かかるときもあった

「仕事の魅力」高めて人材確保へ

そして、この時間短縮に向けて注目されているのが、最先端技術の導入だ。

亀田製菓SCM部 堀田弘幸 部長:
最終的に客に届けるのはトラックになるため、鉄道やフェリーといった他の輸送手段に100%シフトはできない。物流全体の効率化というところだと、自動で人手がかからず、時間が短縮できる倉庫があるのが望ましい

産業用ロボットの開発などを行うMujinの担当者は…

Mujin物流事業部 藤巻陽二郎さん:
ロボットがトラックドライバーの仕事の一部をまかなってあげることで、2024年問題の解決に貢献できているのではないかなと思う

Mujinは独自の「ロボット知能化技術」を使い、荷物の積み降ろし作業の一部を自動化。箱の重さや大きさに応じて積み分けることで、ドライバーの負担軽減を実現した。すでに導入している県内の物流倉庫もあるという。その一方で…

長岡技術科学大学 佐野可寸志 教授:
ドライバー不足というのは、ずっと言われている

今回の規制で労働時間が短縮され、収入が減ることによって、ドライバーの離職が進む可能性もある。

人材不足が叫ばれる物流業界の課題解決には、最新技術の導入だけでなく、賃金の上昇や働きやすい環境の整備など、「ドライバーの仕事の魅力を高めることも重要」だと佐野教授は話す。

長岡技術科学大学 佐野可寸志 教授:
仕事に対する対価が「必ずしも高くない」というのがあるので、もう少し物流にコストを払う意識を持つとか、労働時間をきっちり守るようにする。最初は非常に大変かと思うが、長期的にはいい方向のような気はする

持続可能な物流 私たちにできること

持続可能な物流の実現に向けて、運送会社だけでなく、私たちにもできる取り組みがある。

国土交通省によると、2022年10月1カ月間に宅配された荷物は260万個以上に上るが、このうち11.8%が配達時に受け取られず、再配達になっているという。

この1割の再配達をドライバーの労働力に換算すると、年間6万人ほどの労働力に相当する。再配達数を減らし、ドライバーの負担を軽減するためにも、国土交通省は、時間指定や宅配ロッカー・置き配などを活用してほしいと呼びかけている。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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