新型コロナウイルスの拡大による影響などで、心の不調をきたす「コロナうつ」という言葉が注目されている。

自律神経研究の第一人者である小林弘幸・順天堂大学医学部教授は、メンタル不調の原因は「自律神経の乱れ」だと指摘。さらにその乱れにも3つのタイプがあるという。

モデル・加治ひとみさんとの共著『かぢ習慣 自律神経と腸活で「なりたい自分」に』(扶桑社)から、自律神経のバランスが崩れた際の体の変化やその整え方について一部抜粋・再編集して紹介する。

自律神経が乱れている人、3つのタイプ

「自律神経が乱れる」というのは、交感神経と副交感神経のスイッチングがうまくいっていないとイメージする人が多いようですが、それは少し違います。どちらかが優位なとき、もう片方が完全にオフになっているわけではありません。

自律神経が整っているというのは、交感神経も副交感神経も常に高いレベルで安定している状態を言います。そして、時間やシーンによって、どちらかが“ちょっとだけ優位”になる。それが理想なのです。

ところが、この自律神経のバランスはすぐに崩れてしまいます。その乱れ方にも、3つのタイプがあります。

イライラや寝付けない人は交感神経がフル回転し続けている可能性も(画像:イメージ)
イライラや寝付けない人は交感神経がフル回転し続けている可能性も(画像:イメージ)
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(1)イライラや不安で、寝た気がしない人

現代社会で多いのが、交感神経が高くて副交感神経が低くなってしまうタイプ。

いつも興奮状態が続いて、心と体が休まらず、その影響はさまざまな症状となって表れます。

夜、寝つけない。食べたあとに胃もたれや胸焼けがする。ちょっとしたことが気になって、考えすぎたり、不安になったりする。こういう人は、交感神経がフル回転し続け、副交感神経がうまく働いていない可能性があります。

仕事でイライラして、帰ったら家事を頑張って、ベッドではスマホをずっと見ている…まさにアクセル踏みっぱなしですよね

(2)いつものんびり、集中力がない人

ただ、交感神経が低くて副交感神経がいつも優位というのも問題です。

アクティブに活動するべき昼間に眠くなったり、やる気が出なかったりと、活力不足になってしまいます。

解決すべき問題があっても、すぐに別のことを考えてしまって思考がまとまらない人、食べてもすぐにお腹がすく人は、交感神経の働きが落ちているかもしれません。

(3)ぐったり疲れていて、無気力な人

また、交感神経と副交感神経の両方が低いという人は、ぐったり無気力になります。寝つきが悪かったり、眠りが浅かったり、途中で目が覚めたり。

日中、集中力がなくやる気が起きず、「なんとかしなきゃ」と思っても、体がついていかないのがこのタイプです。食欲がない、逆に、お腹がすいていないのに食べるのをやめられない、食事の前後に胃が痛むといった症状が出ることもあります。

まずは「起きる時間」と「食べる時間」を毎日同じに

では、自律神経を整える生活とは、何をすればいいのでしょうか。

まずは、起きる・寝る・食べる時刻を、毎日なるべく一定にすることです。「不規則な生活」は自律神経を乱す大きな原因です。

これには「時計遺伝子」が関係しています。時計遺伝子はあなたのほぼすべての細胞にあって、約24時間周期で時を刻んでいます。

不規則な生活で「時計遺伝子」は狂っていく(画像:イメージ)
不規則な生活で「時計遺伝子」は狂っていく(画像:イメージ)

自律神経は朝、交感神経が優位になり、夕方以降、副交感神経が優位になるといったサイクルがあります。このサイクルのスイッチを入れるのが時計遺伝子。時計遺伝子がちゃんと作動することで、自律神経も働き出すのです。

この時計遺伝子は、不規則な生活で狂っていきます。すると、朝になっても交感神経が活発にならず、日中ぼんやりしたり。夜になっても、副交感神経が優位にならず、なかなか寝つけなかったり。

できる範囲でいいので、まずは「起きる時間」と「食べる時間」を決めてみましょう。これだけでも心身がいい方向に回り始めるはずです。

イラッとしたら「1:2の呼吸法」で深呼吸

自律神経はとてもよくできたシステムですが、とても繊細で簡単に乱れてしまいます。その大きな原因となるのが「ストレス」です。

感情が大きく動いたとき、交感神経の働きは活発になります。「楽しい!」「うれしい!」「おいしい!」といったポジティブな感情であればいいのですが、それだけで生きていけるほど人生はイージーモードではありません。

「イラッ」「ムカッ」といったネガティブな感情は、たとえ小さなものであっても、交感神経を優位にしすぎてしまいます。それが毎日続けば、自律神経は乱れっぱなしになってしまうでしょう。

イラッとしたら「1:2の呼吸法」で深呼吸してみよう(画像:イメージ)
イラッとしたら「1:2の呼吸法」で深呼吸してみよう(画像:イメージ)

イラッとしたら、スーッと深呼吸をしましょう。副交感神経が働いて、リラックスできます。

私がおすすめするのは「1:2の呼吸法」です。

これは(1)鼻から3秒で吸う(2)口から6秒で吐く、というもの。

吐く時は、すべて吐ききるのがポイントです。

自律神経が整う習慣は、他にも、食生活や睡眠など、多岐にわたります。まずは上記の2つを試してみてください。日常の小さなアクションですが、続けていくことで必ず、人生が変わっていきます。

『かぢ習慣 自律神経と腸活で「なりたい自分」に』(扶桑社)加治ひとみ・小林弘幸著
『かぢ習慣 自律神経と腸活で「なりたい自分」に』(扶桑社)加治ひとみ・小林弘幸著

小林弘幸
順天堂大学医学部教授
1960年埼玉県生まれ。順天堂大学大学院医学研究科修了後、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。自律神経研究の第一人者としてプロスポーツ選手、アスリート、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に携わる。著書多数

小林弘幸
小林弘幸

順天堂大学医学部教授
1960年埼玉県生まれ。順天堂大学大学院医学研究科修了後、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。自律神経研究の第一人者としてプロスポーツ選手、アスリート、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に携わる。著書多数