新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言は全面解除されたものの、状況はいまだ予断を許さない。そうした中、ワクチンや治療薬開発に期待がかかっている。各国が開発にしのぎを削る中、日本の立ち位置はどこにあるのか。政治による予算のバックアップは十分なのか。
今回の放送ではDNAワクチン開発者、ウイルス学専門家、自民党コロナ対策本部顧問を迎え、開発の現状と今後についてうかがった。

米中のワクチンをめぐる覇権争いが懸念される

海老原優香キャスター:
世界ではワクチン開発の熾烈な争いが起きています。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問:
大いに競争して開発が早まるのは大変好ましい。多くの国々が共有できる仕組みを使い、分配につなげなければ。問題は価格設定。大量生産し分配するための特許の枠組みがまだできていない。いま最も大きな課題として議論しており、今度のG7の会合で安倍総理から提案があると思う。
メディシンズ・パテント・プール(医薬品の特許プール)の仕組みを応用し、G7の国がお金を出しあって、特許権を持つ企業に特許をパテント・プールに出してもらう。ジェネリック企業による大量生産で、各国の提供体制を強化する仕組み作ろうというもの。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
日本とヨーロッパの国にとっては非常に合理的な方法。ただアメリカや中国のように戦略的要素を持っている場合は、その通りに運ぶか不安。

反町理キャスター:
医薬品が人道的なものではなく覇権争いのツールになっていると。

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
可能性はある。中国も自分たちが支援している国に出したいはず。先に開発すれば戦略物資として有利。中国が15兆円かけるという話もあり、特に米中ではワクチンが覇権の象徴になっているのでは。

5種類のワクチンと各国の現状

WHOによると、5月27日時点で世界で125件の開発案件があり、そのうち10件が人に直接投与する臨床試験まで進んでいる。
作り方で分けると、
不活化ワクチン、
ウイルスベクターワクチン、
サブユニットワクチン
RNAワクチン
DNAワクチンの5種類となっている。

また、ワクチンの安全性を確認するのがフェーズ1、少人数に投与して安全性効果を見極めるのがフェーズ2,さらに大規模の人数に投与して効果があるのかどうかを見極めるのがフェーズ3になる。

現状ではイギリスのオックスフォード大学が開発を進めているウィルスペクターワクチンが最も進んでフェーズ3に、アメリカの製薬会社が開発を進めるRNAワクチンも7月にもフェーズ3へ進む予定。

反町理キャスター:
5種類のワクチンそれぞれの特徴は。

増田道明 獨協医科大学医学部 教授:
ウイルスのタンパクを体に入れて抗体を作るのがワクチンの原則。化学的処理などでウイルス全体の感染力を失わせ、タンパクを体内に入れるのが不活化。精製したり遺伝子工学的に作ったタンパクを体内に入れるのがサブユニット。残り3つは体内でタンパクを作らせるもの。別のウイルスを改変し、新型コロナウイルスのタンパクの遺伝子を持った人工ウイルスを作るのがウイルスベクター。これを摂取すると体内で新型コロナウイルスのタンパクが作られる。また、新型コロナウイルスのタンパクのもとになる遺伝子DNAや中間産物のRNAを注射して体内でタンパクを作るというものがある。

増田道明 獨協医科大学医学部 教授

反町理キャスター:
つまり、新型コロナウイルスのタンパクを体内で作ることにより新型コロナウイルスの侵入時に体内で止めることができるため、事前の防御策になると。

増田道明 獨協医科大学医学部 教授:
そうです。タンパクだけを体に入れれば、ウイルスの抗体やリンパ球による免疫が安全にでき、本物のウイルス入ってきたときに不活化できる。

阪大が開発するDNAワクチンは

反町理キャスター:
森下さんが開発にかかわるDNAワクチンの工程表。3月に開発開始、5月に動物実験開始。9月にはフェーズ2に入る予定。一次補正で20億の予算がついた。

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
400人程度の臨床治験の費用はこれで賄える。フェーズ2までの年内の開発は加速化できる。フェーズ3、生産するとなると民間企業が中心であり予算がない。なんらかの形で予算頂きたい。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問:
1400億弱の予算をとっており、ここから国として支援する。このお金では国内開発をしっかり支援すると同時に、ほかの国で開発の成果が出たときに、そのワクチンをわが国で生産できる仕組みをつくるためにも使う。

開発の予算規模は米中に大きく劣る…

反町理キャスター:
予算規模として、アメリカは1兆700億円もの額を確保。さらに中国は国債発行で15兆円。日本の桁は1桁・2桁低くなっているが。

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
中国は自国のみならずアフリカなどで中国の地位を上げようとしており規模が大きい。アメリカはその対抗。必ずしも日本の金額が小さく意味がないということではない。

増田道明 獨協医科大学医学部 教授:
アメリカで研究した経験上、いい意味で無駄を許容していた。うまくいかない研究も単なる失敗ではなく、別の感染症対策などにつながるものととらえる。目的から外れたものも研究行政の対象となっている。日本はお国柄なのか「研究はうまくいって当たり前。うまくいけばさらにお金を、うまくいかなければおしまい」。これがお金の出方の違いの背景かと。

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
100%の成功を期待されると手を挙げる人はいなくなる。ビル・ゲイツ氏は10のうち2の成功でよいと言った。日本は国内がうまくいくようであれば、戦略的にパテント・プールを使って東南アジアに供給するべき。米中が手を出しにくい地域で、日本のプレゼンスが上がる。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問:
わが国がケチで、無駄に対してお金を出さないという印象の話になっているが、一般の医薬品開発にしても、実際無駄の多くなる投資分野だとは重々わかっています。

アビガンのメディアの取り上げが大きすぎ?

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問:
当初、アビガンの効果を示す論文が中国で出て期待と注目が集まった。開発した富士フイルム富山化学が100ほどの症例を作り、効果があれば薬事承認の手続きを相当簡略化して実施しようと考えている。しかし企業治験の結果で効果が示されなければ、十分な効果が示されないままに政府は薬事承認しない。

反町理キャスター:
総理は5月中にと述べたが。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部顧問:
臨床試験で効果があればという条件付きで言った。現実と違うじゃないかと批判するのはある意味揚げ足取り。効果がなければ承認しない。

反町理キャスター:
著名人の中にも、アビガンで治ったという方がいた。

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
それがアビガンの効果による治癒かはわからない。これだけアビガンが報道されると試験に参加する人がいなくなってしまうかも。アビガンの効果を見るためには比較のためにアビガンでない薬を使う人も必要だが、それを希望する人がいなくなる。メディアによるアビガンの取り上げ方が大きすぎるのでは。

反町理キャスター:
レムデシビルは特例承認という形で日本国内でも承認された。既存薬は多く取り上げられるが、新薬開発はあきらめたほうがいいのか?

増田道明 獨協医科大学医学部 教授:
既存薬の使用は、臨床試験の結果を待たなければ難しい。一方新薬開発は絶対に進めていくべき。レムデシビルはあくまでエボラのための薬で、新型コロナウイルスの的のど真ん中射ることができるとは限らない。本丸をきちんと落とす薬を作る努力を怠ってはいけない。どの国も進めていると思う。

反町理キャスター:
新薬とワクチンの開発、難易度はどちらが高い?

森下竜一 大阪大学大学院 臨床遺伝子治療学 寄付講座教授:
今回のケースでは新薬のほうが難しい。一から薬を作るとなると、臨床試験に入るまで3〜4年かかる。

(BSフジLIVE「プライムニュース」5月28日放送)