熊本地震からの復旧が続く「熊本城」。当初の計画では、本格的な工事開始から20年となる2037年度に工事は完了する予定となっていたが、11月、熊本市の大西市長が工事完了を2052年度とする方針を示した。
なぜ工期は15年延長されるのか?工事の最前線を訪ねた。

工事完了は2052年度に延期…なぜ?

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2021年6月の天守閣内部公開再開以降の入場者が100万人に達したとして、11月、記念セレモニーが開かれた。コロナの感染状況によって閉園と開園を繰り返した2021年までとは違い、特に2022年の秋以降は団体客や外国人の姿も増え、城内にはコロナ前、地震前のにぎわいが徐々に戻ってきた。

その一方で…

大西一史熊本市長:
主要区域の復旧完了後、10年間は特別見学通路の撤去後の石垣の工事でありますとか…

熊本市の大西市長は、復旧工事の期間を当初の計画より15年延長する方針を示し、専門家などで構成する委員会もこれを了承した。これによって2037年度とされていた工事完了は、2052年度にずれ込むことが決まった。

そもそも熊本城には、宇土櫓など築造当時からその姿をとどめ、国がその歴史的価値を認めた重要文化財13棟と天守閣、本丸御殿大広間など、昭和から平成にかけて復元された再建・復元建造物20棟がある。

2016年の熊本地震ではその全てが被災。現在、復旧工事が完了しているのは天守閣と長塀だけ。

黄色い部分が2027年までに工事する箇所
黄色い部分が2027年までに工事する箇所

示された計画案では、2027年度までに十四間櫓、源之進櫓などを。

黄色い部分が2032年度までに工事する箇所
黄色い部分が2032年度までに工事する箇所

2032年度までに飯田丸五階櫓、宇土櫓、本丸御殿大広間などを復旧し工事用第2スロープを撤去。

以後、2037年度までに北十八間櫓や西大手門を。2042年度までに不開門や馬具櫓などを復旧し、工事用第1スロープと特別見学通路を撤去。

そして2047年度までに見学通路下の石垣を積み直したあと、最後は2052年度までに頬当御門の石垣を復旧し全ての工事が完了するとしている。

熊本市民:
致し方ないかなと思いますけど、どうにか(石垣の)専門家の方がいらっしゃるでしょうし、もうちょっと努力して集めて早くしていただければうれしいなと思っています

神奈川からの観光客:
熊本城を昔の形になるべく、できるだけ早くやっていただけたらと思っています

なぜ復旧には、そんなに時間がかかるのか。あの「奇跡の一本石垣」と呼ばれた飯田丸五階櫓を訪ねた。

熊本城総合事務所・馬渡浩司さん:
奇跡的に櫓は倒壊せずに済んだんですけど、石垣自体は大きく崩落してしまいましたので、元通り積み直しても同じ地震がきた時に崩れてしまうんじゃないかということでそこから議論が始まりまして…

景観を守りつつ石垣内部を耐震補強

2021年8月、復旧方法を話し合う委員会で飯田丸再建の道筋が示された。

熊本城総合事務所・馬渡浩司さん:
五階櫓の復旧後に内部に人を入れるという事務局案について、ご審議いただきたい

山尾敏孝委員(土木工学):
確かに素材は100年ぐらい持つかもしれないけど、接着剤が本当に100年そのまま変わらずに維持できるか

伊東龍一委員(建築学):
人を入れていいかといったときに入れ方は今後もご検討いただきたいと思います

千田嘉博委員(城郭考古学):
かなり大きな地震があったとしても、栗石層が崩れないようにできるというのは想像を絶するすごいことで

そしてこの委員会で飯田丸で石垣を積み直す際、石垣内部を耐震補強する事務局案が了承された。

実は2017年度に策定された復旧基本計画での工期は、他都市で被災した城郭の復旧が参考にされていた。

熊本城のように、上に多くの櫓が載る石垣が多面的に崩れた城は過去に例がなく、今後、どのように補強や積み直しを行っていくのかまだ決まっていない石垣がほとんど。

「耐震補強しての積み直し」決定から1年4カ月、飯田丸ではクレーンで石を積む作業が行われていた。

郡司琢哉アナウンサー:
これ(積み直しが必要な石材は)確か城内全体で10万個とか言われてましたよね

熊本城総合事務所・馬渡浩司さん:
数を数えたわけではないんですけど、被害面積から換算するとおよそそのぐらいとなりますので、10万個の中の1つが積まれていくという形です

郡司琢哉アナウンサー:
10万回、この作業をやるわけですね

実際に飯田丸で使われている補強材を見せてもらった。

大林組 熊本城土木工事事務所・清水英児工事長:
こちら当社が開発しました「グリグリッド」というものなんですけど、鋼材とアラミド繊維を組み上げて使っています

郡司琢哉アナウンサー:
簡単に言うと、これを敷くことによって次地震が起きたときにどういう効果を発揮するものなんでしょうか

大林組 熊本城土木工事事務所・清水英児工事長:
地震が起こった時、栗石の流動性を拘束して耐震性を向上させるというものになります

従来のものを改良した「グリグリッド」は網目の中に栗石を詰め、地震の際に石垣崩落の原因となる栗石の流動化を防ぐ。

固定する受圧板が石垣から目立ってしまう
固定する受圧板が石垣から目立ってしまう

ここで一つ問題となるのが、補強材を固定する受圧板が石垣表面にあり景観を損ねること。

そこでこんな対策がとられる。受圧板に周りの築石と同じ安山岩を加工して取り付けることで、目立たなくする。

もう一つ、復旧を進める上で欠かせないのが石工の確保。

石工・松岡敏雄さん:
小さかったり大きかったりしたら、高さとか横の石が入らんようになるから同じ寸法で復元していますね

新たに石を掘ったり積み直しの最前線で活躍する石工。現在は必要な人数が確保されているが、「2022年度以降、事業量を倍増させることが可能」としていた当初の計画に対して増員できる余力はなく、事業量そのものを抑える計画変更を迫られた。

熊本城総合事務所・岩佐康弘副所長:
これだけの被害を受けたお城というのは熊本城が初めてですので、今まで見えてなかったことが、やりながら少しずつ見えてきました。そういったところを改めて見直しましたらやはり当初見込んでいたより相当時間がかかる。その結果が(工事開始から)35年となっております。これから復旧を一つ一つ進めていきますので、進んでいる姿を要所要所で見ていただけたらと思います

熊本地震から6年。2022年は、熊本城復旧に向けた道筋が大きく転換された一年となった。

(テレビ熊本)

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