新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。連載企画「Withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第17回は、コロナ禍の中、巻き起こった芸能人の政治的発言論争について取り上げる。なぜ芸能人の政治・社会的な発言や活動はバッシングされるのか?社会貢献活動を長年続けてきた女優の東ちづるさんに聞いた。

「芸能人は楽しませるコンテンツ」?

――今回のきゃりーぱみゅぱみゅさんの政治的発言へのバッシングについて、どう思われましたか?

東さん:
まずテレビだと、タレントが報道番組の司会やコメンテーターをしていても、コメントで騒がれることはほとんどありませんが、SNS、特にツイッターに限って、こうなるのが不思議な感じがしました。私はきゃりーさんのステージや歌をみて、すごく才能溢れる方だなとリスペクトしていましたが、あの発言で凄いなあとさらにファンになったんです。

きゃりーさんの発言をきっかけに、若い人たちが政治や社会のことに興味を持ち始めて、結果的に選挙に行くことに繋がるのなら、若い人たちのためにもいい発言だなと思いました。だからあんなふうにバッシングする人たちがいることはショックでしたし、彼女がツイッターを削除した気持ちは分かります。芸能人も人間なのでとても傷つくし、周りのスタッフの意見もあったと思います。

Twitter上では「#検察庁法改正に抗議します」という投稿が数百万に及んだ
Twitter上では「#検察庁法改正に抗議します」という投稿が数百万に及んだ
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――芸能人が政治的発言をすると、バッシングされるのはなぜだと思いますか?

東さん:
まず「芸能人は楽しませるコンテンツである」という意識が強いことです。ですから芸能人が自分の考えていることを発信するのは、違うと思っている人たちがたくさんいるのですね。私もSNSで政治的な発言をする=反感を持たれると思いますし、すごく怖いですよ。日本の芸能界だと仕事に直接的な影響もあると思います。

東ちづるさん
東ちづるさん

「知らないのに発信するな」の間違い

――たとえばアメリカの映画界では積極的に政治的発言をしますが、日本の芸能界はこれまでタブーとなっていましたよね?

東さん:
よく比較されますが、ハリウッドの人たちは相当な報酬を手にしていますね。そこが私たちのシステムとは違います。日本では仕事に影響があると痛手になりますし、特にCM出演が無くなると私たちの仕事は成立しづらくなります。

――芸能人が政治的発言をすると、必ずいわれるのが「知らないのに発信するな」ですね。

東さん:
そもそも政治や社会を知らず、関心も薄いことがありますが、これは芸能人に限ったことではありません。日本は欧米と違って、子どもの頃からいまの政治を学ばない、知らないから関心が薄いのです。かといって「知らないから言うなよ」というのは間違っていると思います。きゃりーさんの場合も、彼女は何も知らなくてやみくもにいったわけではなくて、彼女の知っている範囲のことと彼女の直感、生活感覚から危ういと感じていったのだと思います。直感は凄く大事ですし、コロナ禍で私たちの政治への直感は研ぎ澄まされたと思います。

有権者、納税者として意見をいうべき

――また「芸能人は影響力があるから発信するな」と批判する人もいます。

東さん:
私もすごくいわれます。そんなに影響力があるとは思いませんが。そもそも影響されるのは、その人の問題であって芸能人の問題ではありませんよね。私たちはいろいろな人に影響されて生きていますが、影響されつつも自分の考えや言葉を持たなければいけないのです。問題はそこですよね。「影響あるから発信するな」という人は、問題をすり替えていると思います。

――「政治家も1人の人間なのだから批判するな」という意見はどう思いますか?

東さん:
全く間違っていますね。政治家は権力者です。私たちは有権者であり納税者であり、未来の有権者であり納税者です。だから関心を持って、意見してもいいのです。間違っていても、詳しく知らなくても、おかしいと思うことはおかしいといわないと。先日高校生たちに講義しましたが、終わった後「きょうの話を家族や友達に話してね」といったら、「意識高い系と敬遠される」というんです。ですから私は、「知らない人には『私も知らなかったんだけどさ』と話し方を変えてみようか」といったのですけどね。

「政治家は権力者、芸能人は有権者であり納税者。だから関心を持って意見してもいい」と東さん
「政治家は権力者、芸能人は有権者であり納税者。だから関心を持って意見してもいい」と東さん

芸能人の社会活動は売名行為?

――東さんは女優でありかつ一般社団法人「Get in touch」の代表として、社会活動もされている芸能界でも稀有な方ですが、芸能人がなぜ社会貢献?といわれることはありませんか?

東さん:
最近は減りましたね。社会活動を始めた頃は、売名行為だの、好感度上げたいの?だの、選挙に出たいの?と言われました。いまでもこういう活動をしていると、日本の芸能界では「そっちに行っちゃった人」といわれるみたいです。社会活動は基本的にボランティアですから、収入にはならないプライベートな活動です。ゴルフや映画を観るような。でも社会活動をしていると、「バラエティはもう出演されないのですか?」とよくいわれます。たぶん、社会的活動をする人は聖人君子的な真面目な人だと思っているのではないですかね。ですから私たち「Get in touch」は、あえてエンターテインメントで社会活動をするという風にしているんです。

――「そっちに行っちゃった人」ですか・・苦笑。どういう意味なんでしょうね。

東さん:
私も教えてほしいですよね(笑)。まだ80年代ですが、私が骨髄バンクの活動をしていたとき、海部首相(当時)夫人も同じ活動をされていて、お会いしたときに「ブッシュ大統領夫人も骨髄バンクの活動をしていて、アメリカでは社会的地位のある人、ハリウッドの人たちも皆そうなんですって」と。その時、そういう時代が日本にも来ると思ったんです。私は社会活動をしているからこそ、社会や政治がすごく気になります。やらなければいまほど関心は無かったかもしれません。

福祉現場に「おすそわけしマスク」

――東さんは先日、フジテレビの「Live News it!」に出演されて、マスクや寄付を募って福祉の現場にマスクを届けるプロジェクトの話をされていました。今回新しいマスクプロジェクトに取り組んでいるそうですね。

東さん:
「#福祉現場にもマスクを」という活動を4つの団体で立ち上げたのですが、株式会社中部日本プラスチックさんから「大量にマスクを入手できるので社会貢献したい」というお話がありましたので、これも福祉現場に届けたいと。ただ、これをそのまま「美談」にするだけではもったいないなと、プロジェクトを「おすそわけしマスク」という駄洒落的なネーミングにしました。皆さんに55枚マスクを買ってもらうと、5枚を福祉現場に「おすそわけ」するプロジェクトです。マスクは5月25日に中国から100万枚届いて、すでに福祉施設から20万枚以上の申し込みが来ています。

――寄付というと日本人にはどうしてもハードルが高く感じてしまうのですが、「おすそわけ」だとちょっとやってみようかなという感じがしますよね。

東さん:
マスクプロジェクトは、マスクを届けることも重要ですが、あらゆる人が幸せになる権利がある、そのために福祉があるということを発信していきたいと思っています。今、主役を「マスク」から「福祉」に移行する企画も進めています。そのためにはチャーミングなタイトルや、クスリと笑える仕掛けも大切だとメンバー全員が考えています。

55枚マスクを買うと5枚を福祉現場に「おすそわけしマスク」
55枚マスクを買うと5枚を福祉現場に「おすそわけしマスク」

経済は大事だが経済中心は危うい

――さて最後になりますが、東さんがコロナ禍の中で感じていること、気付いたことは何ですか?

東さん:
皆一緒だと思うのですが、生活や仕事のスタイルは変われると実感しましたね。最初は戸惑いましたけれど、不便なところも楽しめると気付いたし、コロナで物理的に離されて、人と人とのつながりが無ければ仕事も遊びも活動も出来ないことにあらためて気づきました。コロナの前はほぼ毎日外に出ていたのですが、自粛になってから外出したのは食料調達だけ、10日に1回でした。意外と自分に外出欲が無かったのが凄い発見でしたね(笑)。

――アフターコロナの新しい日常に期待されるのは何ですか?

東さん:
元の生活に戻ろうとしたくないですね。これまで経済を軸に生きてきたので、仕事や収入が無くなると凄い焦燥感ですよ。だけど畑をしながら仕事している人は結構余裕だと聞いて、「そうか、私は仕事以外に生産していなかったんだな」と(笑)。「東京にいる意味が無かった」と引っ越す人もいますし、これまでの生活を変えるにはとてもいい機会だなと思います。経済はとても大事ですが、経済中心の回り方は危ういと。そこは政府にも考えてほしいなと思います。Go Toキャンペーンも悪くないだろうけど、そこを一番に考えるとまた私たちはつらい目にあいそうな気がしますね。

――コロナと共生する新しい日常は、生活や仕事をあらためて考えますね。ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。