熊本・八代市の中山間地域に、全国から視察が相次ぐ保育園がある。大自然の中にポツンとある「あさひ森の保育園」。そこには少子高齢化が進む過疎地域における、新たな保育の在り方が見えた。
園児たちの自主性を育む保育園
この記事の画像(18枚)八代市坂本町鶴喰地区。「あさひ森の保育園」は山あいの静かな集落にある。この保育園は、1954年に農繁期の託児所としてできたのが始まり。
2021年9月、約2,300平方メートルの広大な敷地に新しい園舎が建てられた。園児49人のうち47人が八代市から約40分かけてバス通園している。
子どもたちの一日は、園庭で思い切り遊ぶことから始まる。朝の会が終わると、それぞれの年齢に分かれて散歩に出掛ける。「あさひ森の保育園」の周りには川遊びに落ち葉拾い、アスレチックができる所、さまざまな散歩スポットがある。
散歩道というより立派な山道…それでも子どもたちはものともせず進んでいく。
ーーこれは何?
園児たち:
野イチゴ
木の実を食べたり落ち葉を拾ったりと、寄り道は当たり前。
新しい園舎を建設したのを機に、園の方針を大きく変えた。その一つが、子どもたちの自主性を第一に考えること。
園児:
来週の活動を決めます
先生:
何かありますか?
園児:
はちりゅうざんのてっぺんで、お弁当食べたい
園児:
たけのこ山のてっぺんに行きたいです
ここでは、3歳になると次の週の予定を子どもたちだけで話し合い決めている。運動会や発表会などのイベントはない。
園児:
火曜日に絵の具(お絵描き)入れたらどうですか
先生:
なんで火曜日ですか?
園児:
火曜日に雨が降るからです
みんなでとことん話し合うことで、子どもたちにも変化がみられるようになった。
年長児担当・橋本志穂先生:
言葉で伝える。そういうのもできるようになったし、相手がどう考えているから、だから自分ではどういう言葉かけをしようかなと声のかけ方も変わってきた
ここの子どもたちは地域の人とも仲良し。
地域の人:
今日は寒かね
園児:
どこいくの?
地域の人:
じいちゃんのおつかいよ~
園児:
立派なダイコンだね!
毎日の散歩ですっかり顔なじみになった。こちらのおばあちゃんの畑は、子どもたちの散歩コースに。
地域の人:
かわいい盛りの子どもたちでしょ。私たちまで毎日楽しくなる。孫に会ったみたい
あさひ森の保育園・坂本顕真園長:
近所のじいちゃん、ばあちゃんたちにいろんなことを教えてもらいます。畑もそうです。「何だろか」って気づいたらタマネギだ。「じゃ僕たちもタマネギ育てたい」って言って育てています
園の畑にはタマネギ、イチゴなど近くの人からもらった苗でいっぱいになった。
渋柿をもらったので干し柿作りに挑戦。
近所の人から野菜や果物などおすそ分けをもらうことも多く、その日のメニューに追加される。
おすそ分けいただいたブロッコリーも…
給食担当・島本紀子先生:
ご近所の人からよく頂きます(もらった)ブロッコリーはきょうはチーズ焼きにします
全国から視察相次ぐ“里山保育”
2020年7月の豪雨で大きな被害を受けた坂本町。周辺の過疎化も進んできた。この集落で新しい園舎を建てることを、最初は悩んでいたと話す。
あさひ森の保育園・坂本顕真園長:
反対を受けたんです。「ここになかったら私たちは生きがいをなくす」みたいな声が聞こえるからですね。そういうところで造っているので、「子どもの声が聞こえて楽しい」って精神的な支えになっているかなと思っています
保育が専門で過疎地域の研究もしている熊本学園大学の宮里名誉教授は、この保育園の取り組みに注目している。
熊本学園大学(保育専門)・宮里六郎名誉教授:
ここの人とか自然とか森とかみんなが”保育者”で、地域の人たちは子どもたちをかわいがってくれるんだけど、この子どもたちが地域を歩きながら散歩している中で、その声とか姿がたぶん地域の人たちを元気にしている。過疎対策でいうと子どもの声そのものが過疎対策になっていて、この子どもたち見ていると、地域おこし協力隊ってあるけれど「小さな地域おこし協力隊」みたいです
あさひ森の保育園・坂本顕真園長:
里山の中で子どもが育つというのは「楽しそうだ」「幸せそうだ」とほとんどの方が感じていらっしゃって。子どもたちに考えてもらう「教えて育てる」という教育から「子ども自ら学び育つ保育」に転換しています
自然、そして、地域全体が先生となっている里山の保育園。ここではきょうも、子どもたちの元気な声が響いている。
この保育園の里山保育に、全国から視察も相次いでいるという。園では今後、さまざまな年齢の子どもを一緒にみる「異年齢保育」の取り組みや、不登校、障害のある子どもたちも受け入れていきたいとしている。
(テレビ熊本)