職場で行われる、部下や新入社員に対する「いじり」。軽くからかわれたり、ツッコまれたりと
“いじられキャラ”は愛されキャラのイメージもある。

だが、いじる側は、コミュニケーションの一環として、悪気なく行っている場合が多いことなどから、「いじり」はいじめやセクハラなどと違い、周囲が深刻度に気づきにくく、時にいじられた側を苦しめるハラスメントになることもあるという。

コミュニケーションとハラスメントのボーダーラインはどこにあるのか。「上司の『いじり』が許せない」の著者で、ジャーナリストの中野円佳さんに話を聞いた。

「いじり」はパワハラになりうる

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ーー職場の「いじり」は、パワハラに入る?

すべての「いじり」が、厚労省のパワハラの定義に必ずしも入らない場合があるため、「いじり = パワハラ」とは言えませんが、「ハラスメントになりえると認識すべき」という問題意識で、本を書きました。

厚労省が公開した「パワーハラスメントの定義」では、以下の(1)から(3)までの要素のいずれも満たすものを、職場のパワーハラスメントの概念として整理していますが、「いじり」は(3)に該当する場合もあるため、状況によってはパワハラになりうるということです。 

【職場のパワーハラスメントの要素】
(1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
(2)業務の適正な範囲を超えて行われること
(3)身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること


いじりは十分に人を傷つけ、気づかないうちにメンタルを悪化させ、最悪の場合、死にも追いやることがあります。
いじり被害を取材した人の中には休職している人も多く、心の病気に至るほど追い込まれてしまうケースが決して珍しいことではないという印象を受けました。

ーーでは、コミュニケーションとハラスメントのボーダーラインは?

業務上対等な関係であること、上下関係があっても、いじり返せたり、嫌な時は嫌だと意思表明できる関係などは問題ないでしょう。

コミュニケーションが活発なこと自体は、職場として悪いことではないが、特定の誰かをネタにしないと取れないコミュニケーションは、かなりいじめに近づいていると言えます。
職場のように権力関係が発生する場所で、本人が笑っていたとしても人を貶めるような言動を繰り返すことは危険だということを、認識のない加害者側にまず知っていただきたい。

そして、今すでに“いじられキャラ”の悪循環にはまって苦しんでいる人は、そこでがんばらなくてもいい。「辛いものは、辛いんだ」と声を上げたり、その場から脱出できるよう行動してほしいです。

東京都内の金融機関で働く女性(35)は、「正直、つらいですね。新卒から働いている会社は、体育会系のノリが残る、古い体質の職場だと思います。体型やプライベートのことで、いじられることが多いですね。胸の大きさをからかわれたり、いまだに元彼の名字で呼ばれたり…。

新入社員のころは、いじられることで顔と名前を覚えてもらい、プラスになっていた部分もあったかと思います。しかし、今は迷惑というか…笑って受け流してはいますが、できることなら“いじられキャラ”から脱出したいです」と、話す。

前述の中野さんの著書の中でも、いじりが「新入りの通過儀礼」のように行われているという体験談が紹介されていた。
「新卒の中の誰か1人をいじることで、新卒全体との垣根を取っ払う。そうやって仲間に入れる。でも先輩後輩関係はずっと続くから、その組織にいる限り、いじられる関係は持ち越されるし、場合によっては『この人いじっていいんだ』って認識されて、後輩にもいじられるようになる(元商社勤務の33歳男性)」

“いじられキャラ”から脱出するには

一度、“いじられキャラ”が定着してしまった場合、そこから脱出する方法はないのだろうか。
「1秒で不安が吹き飛ぶ言葉」著者で、オネエ口調でアドバイスをするツイッターが話題の精神科医・Tomyさんは、「対象になりがちな人には、3パターンある」と話す。

ーー職場で“いじられキャラ”になりがちな人とは?

1.とてもマイペースだけど、あまり自覚がない人
本人がとてもマイペースで、独特の価値観を持っているパターンね。問いかけたときの答えやリアクションがおもしろいのでいじられてしまうけど、自覚がないので、なぜいじられてるか不思議に思っていることが多いわ。

2.サービス精神が過剰すぎる人
その場の雰囲気を盛り上げようと、がんばりすぎてしまうパターンね。相手や周囲の期待に応えていじられてしまうの。

3.怒らない人
いじりたい人がいるときに、相手が怒り出すと白けてしまうため、絶対に怒らなさそうな人が選ばれてしまうパターンね。単純にその人が大人しいからいじられるのね。

ーーどうしたら脱出できる?

1.とてもマイペースだけど、あまり自覚がない人
自分のキャラを「いじる」対象にしない人物とだけ交流する。マイペースな人でも、いじるいじらないは別として、友人として接してくれる人がいるはず。その人とだけ交際をすればいいわ。
そういう人は、もしいじられたとしても、守ってくれる可能性があるわ。「いじられてるな」と思っても、気にせずその場から離れるのもいいと思う。

2.サービス精神が過剰すぎる人
サービスをするのをやめればいいのよ。やめにくければ「今日疲れてるのでパスしまーす」のようなことを言って、さらりと逃げる。期待に答えなくても、別に仲間はいなくはならないし、それで去る人はそもそも信頼できる相手じゃないわ。

3.怒らない人
いじる人の近くに行かない。怒るのが難しければ、そっと黙っていてもいいの。いじる対象としておもしろくなければ、いじられる頻度は減るわ。

「これはいじめじゃないから」

ーー逆に、職場で「いじり」をしがちな人は?

1.マウンティングをとりたがる人
いじる側は、言い方を変えれば、いじられる側にマウンティングをとっているともいえるわ。自分の強さを示すために、こういう行動を取ってるのかもね。
そういう人は、マウンティング、大げさに言えばパワハラにもなりかねないから、いじり自体をやめましょう。「相手が不愉快に思ってるかも」という想像力が必要よ。

2.勘違いしたサービス精神旺盛な人
本当は必要とされていないし、いじられている側も喜んでいるわけじゃないけれど、「俺のいじりで、みんな盛り上がってる」と勘違いして、サービスしてるつもりのタイプね。
いじりのネタって、やればそれなりにみんな受けたアクション取っているけど、気を使ってるだけで、そんなに楽しまれてないのよね。そもそもサービスしなくたって、自然にコミュニケーションとっていればそれでいいのよ。舞台じゃなくて職場ですからね。

3.コミュニケーションをとらなきゃいけないと思い込んでる人
「とりあえず誰かとコミュニケーションとっていないといけないんだ」と思い込んでいる人は、ネタ切れにならないように、いじりで何とかしようとするのよ。
コミュニケーションは、笑顔とあいさつができていれば、それでいいの。肩の力を入れ過ぎず、自然に出てくる言葉でいい。

ーーいま「いじり」に苦しむ人は増えている?

クリニックで患者を診ている中、増えていると感じます。
その可能性の1つとして、「いじめが悪いことである」、「あとで大きな問題となる」という認識が広がってきたこと。
いじめの代わりに「いじり」を入れることで、「これはいじめじゃないから」という言い訳をしている可能性もあります。

いじる側に愛があったとしても、いじられる側が不快と思えば、迷惑行為となるのは他のハラスメントと同じだ。
誰でも加害者になり得るからこそ、深刻な問題に発展する前に、「いじりは、状況によってはパワハラになりうる」ことは知っておいた方がいいだろう。
 

(執筆:清水智佳子)