4月7日に発令された緊急事態宣言は、5月14日に39県が解除され、21日には関西3府県の解除が決まった。

新型コロナウイルスの感染拡大時には、この病気を心配するあまり不安や不眠が続く「コロナうつ」が話題になったが、緊急事態宣言の解除で安心しすぎると、今度は「荷おろしうつ病」と呼ばれる症状の増加が懸念されているという。

「荷おろしうつ病」とはどういうものなのか?マスク不足やトイレットペーパーの買い占め、厳しい外出自粛が求められた生活から解放され、日常生活を徐々に取り戻しつつあるのに、なぜメンタルを病んでしまうのか?
心療内科医師で数々の企業の産業医でもあるワーカーズクリニック銀座院長の石澤哲郎さんに話を伺った。

頑張っている時は「積み重ねた無理」に気づかない

――緊急事態宣言の解除で「うつ」が発生しやすくなる?

メンタル不調者が増えることが懸念されています。心療内科医の間でも、産業医の間でも、これから注意しなければいけないという話が出ています。

例えば、学生なら入試や試験で頑張っているときは調子を崩さないけど、試験が終わったら体調を崩す方はよくいらっしゃるでしょう。一般の仕事をしている方であれば、長時間労働で何十時間も残業している間は平気で、それが終わると調子を崩す方はよくいらっしゃいます。
もっと分かりやすい例としては「五月病」があります。新入社員の方や異動された方など、4月は頑張っていても5月のゴールデンウイークで気が抜けると、体が積み重ねた無理に気付いていろんな不調をきたします。これらはすべて「荷おろしうつ病」と同じことでしょう。
 

――「コロナうつ」とはなにが違う?

「荷おろしうつ病」と全く違うわけではなく似通っている部分もあります。
「コロナうつ」というのは普段のいろんなストレスに加え、たくさん発信される“新型コロナ”の悪いニュースに影響されて「家族がかかったらどうしよう」「死んでしまったらどうしよう」「このまま仕事がうまくいかなくなって会社がつぶれてしまったらどうしよう」などと、いろんな不安が引き金になって抑うつ症状をきたすことです。

人間は、変化すること自体にどうしてもストレスを強く感じてしまうんですね。例えば、いわゆる「マリッジブルー」では、結婚は非常にうれしいのに、それでも環境が変化することで調子を崩してしまいます。小中高生の場合は、夏休みが明ける区切りの8月31日や9月1日になると学校に行くという変化がきっかけとなり、調子を崩す子が現れます。
 

――「燃え尽き症候群」とはなにが違う?

これも似ている部分と違うところがあります。
「燃え尽き症候群」というのは、辛い状況に最初の1~2カ月は耐えるんですが、頑張っているうちにエネルギーが減り、最後には燃え尽きるように調子を崩します。
 

変化を急な「崖」のように感じると耐えきれなくなる

――「荷おろしうつ病」の予防法は?

なかなか難しい質問です。
「荷おろしうつ病」になる方というのは、極端に考えやすいところがあります。頑張るときは誰よりも頑張ろうとして、自粛するときも一歩も外に出ないという気持ちで生活します。それが解除されると、張りつめていた気持ちが切れてしまって、がくっと調子をくずしてしまいます。

実際の生活はそんな急に変わるわけではなく、すぐに全てのお店に行けるわけでも、急に飲み会をするわけでも、在宅勤務の人が全員オフィスワーカーに戻るわけでもないでしょう。また第2波がくるという予想もあります。

自粛が解除されたからといって、いきなり以前の生活に戻るわけではないのですが、その変化を急な「崖」のように感じてしまうとどうしても耐えきれなくなってしまうのです。いきなり元の生活に戻す必要はないので、「崖」ではなくグラデーションのように、徐々に元の生活に戻せばいいんだと認識していただくことが大事なポイントだと思います。

多くの方は、何年も今の仕事を続けていて、“新型コロナ”の前は普通にこなしていたでしょう。緊急事態宣言が解除されても、以前の生活に戻るだけという考え方もできます。あまり「頑張るぞ」「今まで自宅で休んでいた分取り戻さなくちゃいけない」と考えるのは良くないところがあります。

これからは、まったく「大丈夫」だと考えるのも良くない面があり、逆に大変な日々が続くと考えすぎるのもよくありません。その間のほどほどのラインで心身の健康を保っていただくというのが大切なポイントだと思います。
 

この記事の画像(3枚)

生活の変化をできるだけ小さく。リズムを立て直す

――「荷おろしうつ病」だけでなく、一般的な「うつ」の注意ポイントは?

一般的な「うつ」や、「コロナうつ」「荷おろしうつ病」になる方は、情報を集めすぎて逆にその情報に振り回され、精神的に不安定になってしまう方がいらっしゃいます。“新型コロナ”のニュースは1日中放送されているので、よく患者さんには朝と夜に30分ぐらいニュースに触れれば十分だと申し上げています。それ以上ネットなどで調べても、本当かどうかわからない情報に引っかかり、もっと不安になってしまうかもしれません。

また、今まで在宅勤務でこれから普通に出社する方によくお話しするのは、生活の変化をできるだけ小さくするためリズムを立て直してくださいということです。在宅勤務では、8時半に起きれば9時の始業に間に合うなど、リズムが変わってしまいます。そこで以前と同じ時間に起きて顔を洗ったり、日中お仕事するときは以前着ていた服装に着替えたり、女性ならお化粧もしてください。身だしなみを整えることで「self esteem=(自分を尊重する感情)」、自分はやれるんだという気持ちが高まります。

それから、自分一人だけで考えていると、どうしても極端な考えにはまりやすいんですね。今は人との接点を作らないことが求められていますが、ZOOMやSNSでもいいのでいろんな方と話をしてみるのも大切な事だと思います。いろんな人と話しすると、自分の考え方が偏っていたり極端だったりすることに気が付いて、もっと肩の力を抜いていい事に気が付けると思います。

――自分が精神的に疲れているか見極めるには?

うつ病の診断は、抑うつ症状が2週間以上続くことが基準の一つになっています。2週間はちょっと長いですが、悪い症状が続いたら注意したほうがいいでしょう。

悪い症状として、一番注意していただきたいのは睡眠です。夜しっかり眠ると、翌日はリフレッシュできて、ストレスにも耐えられるんですが、眠れなくなると疲れが残ってどんどん悪い方向に進んでしまいます。

もう1つ重要なのは、趣味など好きなことが楽しめているかどうかです。「うつ」は気持ちが落ち込む病気と捉えられがちですが、実はそうなるのは最後なんです。
それよりも先に、以前は楽しめていたことが、楽しめなくなります。医学的には「興味・喜びの喪失」といって、趣味・スポーツ・ゲーム・マンガなど、好きだったものが楽しめなくなったら要注意です。

石澤哲郎院長

これらのポイントを参考に、どうしてもつらくなったら医療機関に相談することをお勧めする。
“新型コロナ”について「正しく怖がることが大切」と盛んに言われたが、特にこれからは「怖がり過ぎない」「頑張りすぎない」ほどほどの生活が大切になってくるのかもしれない。
 

【関連記事】
精神科医推奨の“コロナうつ”対策!こころのコンディションを整える5つの生活術
「コロナうつ」が急増 心の健康どう守る?ハーバード大准教授が勧める7つのポイント