新型コロナウイルスの発生により、普段の暮らしは大きな変化を強いられました。一人一人が直面している状況は様々です。一体どのようにすれば、今の日本の現状、多様な「ありよう」を明らかにする事ができるのでしょう?

FNN編集部は去る5月14日、書籍『多数決を疑う』(岩波新書)の著者であり、慶應義塾大学経済学部の坂井豊貴教授と一緒に、オンラインイベントを開催

参加者には事前に「コロナショックと暮らし」と題した9問のアンケートに回答してもらいました。その結果を元にした坂井教授のオンライン講義のリポートをお届けします。

(本稿はダイジェスト版となります、講義全編は記事最下部のYouTubeからご視聴可能です)
(アンケートにはオンラインイベント参加申し込み者のうち59名が回答。日本全国10代~60代男女)

「程度」を聞くことで、心のグラデーションを見る

最初の質問は、自分が新型コロナウイルスに感染して起こりうる次のことについて、あなたはどれほど嫌だと感じますか? 

まず前提として指摘しておきたい事ですが、「平均的な人間」という人はいません。

皆それぞれ置かれている状況は違います。必ずしも全員が困っているとは限らないですし、困っているにしても程度は違うでしょう。その差異を明示したいのです。

調査の方針は2つあります。一つは「程度」を聞くこと。どれくらい困っているのか、あるいはハッピーなのか。もう一つは「内心」を聞いてみたい。

ここで、「聞き方」が大事になります。もしこのスライドのような聞き方をしたら、嫌か嫌ではないかと言ったら、基本的には嫌ですよね?

このように多数決でどちらか2択とすると、心のグラデーションが見えない訳です。そうなると差異が分からない、塗りつぶしてしまうんです。

また、最初におことわりをしておきますと、今回のアンケート回答数は59件とそんなに多くは無く、サンプルもランダムではありません。あくまで参考として捉えてください。とはいえ、示唆はそれなりにあり、今後の本格的な調査の設計や、論点の発見に有益だと言えます。

「親しい人にうつす」が嫌

それでは、質問1の結果を見ていきましょう。

「絶対に嫌だ」を見てみると、「親しい人にうつす」が一番多いです。自分が病状で苦しむよりも「親しい人にうつす」を嫌がる・恐れる人が多いということなんです。

「見知らぬ人にうつす」はどうか?グレーの棒グラフですが、これだと「やや嫌だ」が一番大人数になります。

つまり「自分が苦しむ」「親しい人にうつす」「見知らぬ人にうつす」というのは、それぞれ違った「嫌さ加減」を持っているわけですね。

これは結構、政策的含意があることじゃないのかなぁと思うのです。

どういう事かと言いますと、政府も社会も「ウイルスを蔓延させるのはやめましょう」と呼びかけますが、その時に「あなたが苦しみますよ」あるいは「見知らぬ人にうつしちゃいますよ」と言うより「あなたの親しい人、たとえば家族や子供や恋人にうつりますよ、それは嫌でしょう?」と呼びかける方が、おそらく呼びかけの効果が高いのではないのかと。

そのような事がこの結果から推察されます。やはりグラデーションで聞いてみないと分からないものですね。

「家族仲」が良くなった

質問3を見てみましょう。家族仲。

家族と同居しておりかつ自分や家族が自宅にいる時間が増えた方にお伺いします。
それによって家族仲に変化はありましたか?

このグラフを見てください。左側が「良くなった」、右側が「悪くなった」です。

私、実はですね、この調査デザインをしている段階では、悪くなったという答えが多いのではと思っていました。というのは、やはり報道もされているように、虐待みたいなことが起きているのではと。

ところがこの結果を見ると、全体的な傾向としては良くなっています。もちろんやや悪くなったという方もいらっしゃいますが、全体を見ると良くなった方が多い。

悪くなった人がいる中で、良くなったとは言いにくいものですが、やはりファクトとしては見つめなければなぁと思うのです。

だからといって、コロナ騒動があって良かったと言っている訳ではありません、もしかしたら、コロナ騒動以前の我々の働き方に問題があったのかもしれない、そのような問題提起をこの結果はしてくれます。

続いて質問4、ステイホーム。

緊急事態宣言で自宅にいる時間が増えた人にお伺いします。あなたは緊急事態宣言前と比べて今の暮らしのスタイルを好んでいますか?

全体的な傾向として、これはかなりばらけています。9つの質問中、一番散らばりが激しかったものです。

とはいえですが、好むの方がずいぶん多いです。

好まないよりもこの差異はちゃんと有意に出てます。統計的に明確に好む人のほうが多いと言えます。

家にいるのは慣れなかったかもしれない、結局家だと仕事しにくい、などあるのですが、好むか好まないかで言うと、好んでいるというのが多数ではあります。

こちらは最後の質問で、希望についてです。私は今回、希望についての質問をどうしてもしてみたかった。

人間、今の状態が多少つらくても、希望があれば生きていけます。でもやっぱり希望がないと、今はそれなりに上手くいってても、生きていくの辛いですよね。

というわけで、質問9「あなたが持つ自分の未来への希望について、今回のコロナ騒動が始まる前と後での変化をお答えください」

左側が増えた、右側が減ったです。

全体の傾向としては、これは増えている方が多いですね。「変わらず」が最頻値ですが、結果を見る限りではもちろん減った方もいますが、増えた人の方が多いと言えます。

「程度」を聞くことで、細かな分析も可能に

 それではここで、簡単なものですが、相関係数を計算してみました。

相関係数の解釈としては、目安ですが0.2あると弱い相関があり、0.4あると強い相関があると解釈するのが、わりと相場です。今回、全体的に相関は弱いです。

希望との相関で、ある程度の相関が見てとれたのは家族仲。

今回のコロナ騒動によって、家族で過ごす時間が増え、家族仲が良くなった人ほど、希望を強く持ちやすくなっています。

意外だったのは、経済状況との相関では無いのですね。

家族仲と希望の相関が最も強いという事は、何か今回のコロナショックが我々に教えてくれる事なのではないでしょうか。

もちろん今回の調査は母集団がおそらく多少は偏っており、過度に一般化することは出来ませんが、とはいえ問題提起ぐらいは十分に出来るものだと考えます。

(オンライン講義では他にも、「一次確率支配」や「マジョリティジャッジメント」といった分析手法を紹介しました)

「連帯」を生み出すには?

それでは最後にいくつかコメントを。まず今回の調査については、わりと色んなことが無相関でした。

そして、なかなか表立っては言いにくいのですが、今回のコロナ騒動でそれなりに暮らしが良くなった点も何か確実にあるのだろうというのが、正直な感想です。

それはもちろん、コロナ騒動があって良かったねという単純な話では無く、これまでの社会の悪かった点を映すものではと考えています。

ただし、これは現時点での良かった悪かったという話で、中長期的に良かったかどうかは、まだ分かりません。

先日、厚生労働省が発表していましたが、2020年4月の自殺率は昨年と比べるとおよそ20%減っているんですよね。おそらくなのですが、通勤・通学が無くなった事の影響が大きいのではないかと考えられています。

このようなニュースは、今回の調査結果と馴染むものです。虐待の報道もされますが、ハッピーになった多くの家族もいるわけです。

今回のコロナ騒動の総体をつかむには、ポジティブ/ネガティブ、両面評価すべきだと。両方見なければと思います。

最後は、やはり我々は皆、結構異なる状況に置かれているという事が、予想されたことではありますが、今回のファインディングです。

だからといって、世の中が分断して良いと言ってい訳ではありません。

ただ、もし我々が「ひとまとまり」になるのであれば、世の中全体がどうなっているのか、どのような違いがあるのか、その共通認識はあったほうが良いと思います。そのような共通認識があってこそ、それを土台にして連帯が生まれるのではないだろうか?という事を強く思いました。

というわけで、調査の分析については以上になります。ありがとうございました。

【本編動画】『多数決を疑おう』01~コロナショックと暮らし~
オンラインイベントの動画全編はこちらからご視聴可能です(YouTube/34分)