大分県大分市と大分空港を結ぶ交通手段として、大分県が2023年度中の運航開始を目指しているホーバークラフト。
ホーバーは過去にも大分県内で運航されていたが、利用客減少などによる運営会社の業績不振で2009年に廃止された。

なぜ今、復活となるのか。その経緯をまとめた。

進む交通網の整備・・経営困難に

1971年、大分市の西新地と大分空港との間で大分ホーバーフェリーが運航を開始。

所要時間は約30分、ピーク時の1990年には約44万人が利用した。

1971年に運航開始したホーバークラフト
1971年に運航開始したホーバークラフト
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しかし、利用客は次第に減少。

高速道路が整備され空港へのアクセスが向上して以降、さらに低迷することに。売り上げも落ち込み、2009年、大分ホーバーフェリーは大分地方裁判所に民事再生手続きを申し立てた。

当時の会社の社長は:
ホーバーは公共性の高い乗り物として、また日本で唯一のホーバークラフトを運航する会社として継続運航をしたいということで頑張ってきたが、運転資金等も大変厳しい状況になり、このような状況になりました

結局、立て直しには至らず、ホーバーは廃止となった。

2009年 利用者減少などにより廃止
2009年 利用者減少などにより廃止

2009年10月31日に運航最終日を迎えた。

乗客は:
感慨深い。地元の宝だと思っているのでなくなるのはさみしい

最後の役目を終えたホーバーを前に、乗組員などが別れを惜しんだ。

2009年のホーバー運航最終日、多くの人が別れを惜しんだ
2009年のホーバー運航最終日、多くの人が別れを惜しんだ

乗組員は:
残念。いい経験をさせてもらいました

こうして多くの人に惜しまれながら、ホーバーは38年の歴史に幕を閉じた。

アクセス向上に ホーバー復活の兆し

しかし、廃止から9年後の2018年。

広瀬勝貞 大分県知事(2018年):
空港から県都まで来るのに1時間かかるというのを何とかしたい

ホーバーが廃止された後、大分空港と大分市中心部の間での移動時間が課題に。
ホーバーでの所要時間は約30分だったのに対し、直行バスでは約1時間。ビジネス客を中心にアクセス向上を求める声が上がっていた。

こうした状況を受け、大分県は交通事業者や自治体関係者などで作る研究会を立ち上げ、海上ルートが実現できるかの検討を開始。高速船とホーバークラフトの2案で検討した結果、2020年に、所要時間が短く既存施設を利用できるといった利点があるホーバー案が採用となった。

運航開始に向けては、県が3隻のホーバーを購入し、発着場も整備する。船体の保有は県、運航は民間事業者という「上下分離方式」がとられた。

タクシー大手が運航事業者に

公募の結果、ホーバーの運航事業者は福岡県北九州市に本社を置くタクシー大手の第一交通産業に決まった。

タクシー大手の第一交通産業が運航事業者に
タクシー大手の第一交通産業が運航事業者に

第一交通産業企画調整室長 小田典史さん(2020年):
日本で唯一のものになるというところの観光資源の価値があるという判断をしている。(廃止となった)前回と違うやり方で2次交通まで考えるところまで含めたところで収支的にも勝算がある。

第一交通産業はタクシー事業に加え、沖縄で高速船の運航も手がけている。
2020年に示された運航計画では大分市と空港の間を1日18往復し、運賃は廃止前の約半額となる片道1500円にするとしている。

一方、船体はイギリスの造船会社「グリフォン・ホバーワーク・リミテッド」から3隻を購入することになった。建造が進められていて、1隻目の納品は2023年7月の予定となっている。

湾を見渡す展望台

また、大分市側のターミナルは以前のホーバー基地があった西新地ではなく、西大分地区に建設されることに。

ターミナルは西大分地区に新たに建設
ターミナルは西大分地区に新たに建設

2022年10月に起工式が行われた。大分市側では約2万4000平方メートルの敷地にターミナルと艇庫、そして立体駐車場が整備される。屋上は展望台になっていて、特徴的なスロープから上り、別府湾が見渡せるということだ。

大分市側ターミナル完成予定図
大分市側ターミナル完成予定図

ターミナルを設計した建築家 藤本壮介さん:
宇宙港となる大分空港を象徴するような、ゆるやかに上昇していく大きな姿を造っている。大分らしさを体感してもらえるような場所になっているかと思う

大分市側のターミナルの完成は2023年12月の予定。
一方、大分空港側のターミナルは2023年1月に着工、12月に完成予定となっている。

経済効果は「614億円」の試算

2022年10月には「宇宙港」をコンセプトとしたホーバークラフトのデザインも発表。
船体に星と水しぶきをイメージしたデザインが施されていて、フロント部分が異なる3隻が整備される予定だ。

デザインしたのは大分市のデザインマップで、大分県の内外から寄せられた約100点の中から選ばれた。

約100点のなかから選ばれたデザイン
約100点のなかから選ばれたデザイン

こうして進められているホーバーの復活…。

大分県は年間30~40万人の利用を見込んでいる。

また、復活すれば日本で唯一となるため、観光資源としての期待も寄せられている。
県は2021年の試算で、経済波及効果は運航開始から20年間で約614億円に上るとしている。

総事業費は当初から大幅増

そうした期待の一方、当初の予定よりも県の事業費は膨れ上がっている。

船体の購入やターミナル建設などホーバー関連の事業費は当初、75~85億円の見込みだった。しかし資材価格の高騰などで、2022年11月時点では94億円となっている。

また、ホーバーは大分市と空港の間を最短で約25分で結ぶが、大分市側のターミナルからJR大分駅など中心部までのアクセスについて、どれだけ利便性の高い手段を乗客に提供できるかも鍵を握ってくる。

観光資源としても期待されている
観光資源としても期待されている

期待されるホーバーの復活。
その一方、利用者低迷で廃止となった過去があるため、その歴史を繰り返すことなく、多くの乗客から支持を集め、採算面の課題を克服できるかを注意深く見ていく必要がある。

注目されるホーバーの運航開始は2023年度中の予定だ。

(テレビ大分)

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