東日本大震災の後、国は自治体に対して、避難に支援が必要な人がどこにいるのか名簿を作り、避難計画を作成するよう指示した。

この計画作成のモデルケースにしようと、静岡県小山町で避難訓練が行われた。避難の対象者はたった1人だったが、車いすを押した多くの人に気づきがあったようだ。

相次ぐ災害 要支援者の”早期避難”へ

2022年8月に静岡県の伊豆半島に上陸した台風8号。松崎町で川が氾濫し、大きな被害をもたらした。さらに9月には浜松市が記録的な大雨に見舞われ、住宅に浸水被害が出た。

災害が多発する中、これまで以上に重要性を増しているのは「早い避難」だ。

台風で河川が氾濫した静岡・松崎町(2022年8月)
台風で河川が氾濫した静岡・松崎町(2022年8月)
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全国では痛ましい事態も起きている。

2018年の西日本豪雨では、岡山県倉敷市真備町で犠牲になった人のうち42人が高齢者や障がい者だった。また、2020年に熊本県で川が氾濫した際には、高齢者施設で入所者14人が命を落とした。

熊本豪雨(2020年7月)
熊本豪雨(2020年7月)

配慮が必要な人の避難をどう進めるか、対応が急がれる課題だ。

初めて見る“車いす補助具”を装着し避難

こうした中で2022年8月に小山町がある避難訓練を行った。今回、避難をする対象者はたった1人だ。

小山町で一人暮らしをする小野孝行さん(56)。19歳の時に交通事故に遭って左手足に障がいが残り、車いすでの生活を送っている。

小山町は小野さんのような避難に支援を必要とする人、一人一人にあった個別の避難計画の作成を目指している。この避難訓練を第一号のモデルケースとすることで、机上で想像するだけではわからなかった実際の問題点、改善点を浮き彫りにしたいと考えている。

訓練に参加した小野さん
訓練に参加した小野さん

小山町危機管理局 永井利弘 防災専門監:
最終的には避難行動要支援者の個別計画を作るなどして安全を図りたいと思っていますが、どのように訓練をしたらいいのか、モデルケースとして一度やってみる。うまくいかないところがあるかと思いますが、それを浮き彫りにするのが目的です

そうして避難訓練が始まった。

自主防災会メンバー:
小野さん、大丈夫ですか。避難しましょう

小野孝行さん:
お願いします

自主防メンバーなど約20人が参加
自主防メンバーなど約20人が参加

参加したのは地区の自主防災会や民生委員、ケアマネージャーなど約20人。震度6強の地震が発生して建物に倒壊の危険があり、指定避難所である近くの小学校へと避難を開始する想定だ。

まず行われたのは、車いすに装着すると介助がしやすくなる車いす補助具の装着。車いす補助具は町が所有していて、自主防災会のメンバーは車いす補助具を使うのも、目にするのも初めてだ。

自主防災会のメンバー:
この中(補助具でできた空間)に入るの?

町職員:
そうですね。小野さん、大丈夫ですかね?

小野孝行さん:
大丈夫です

町職員:
では、これから明倫小学校へ向かいましょう

補助具を装着した車いすで避難
補助具を装着した車いすで避難

避難所までの道のりは1.2km。その間には介助に力が必要な上り坂やスピードが出やすい下り坂、交通量が多い信号のない交差点など、想像していたよりも移動の支障になるものが多くあった。

また、車いすでは小さな段差やくぼみでも大きな衝撃となるため、慎重に声掛けをしながら安全を確認する必要もある。

道路の段差やくぼみに注意して
道路の段差やくぼみに注意して

町職員
段差があるので十分注意してください 

車いすの介助を交代しながら行ったためか、想定よりも早く避難所に到着した。

トイレには手すりがなく…反省会でも課題共有

続いて、トイレや水道などのライフラインの確認をしたが…。

町職員:
トイレは、実はこういう普通の状態です

民生委員:
ちょっと(小野さんが使うのは)きついんじゃない?

避難所の小学校のトイレを確認
避難所の小学校のトイレを確認

小野孝行さん:
俺だったら足を使えるから入れるけど、足が使えない人は無理だ

ケアマネージャー:
手すりはありますか?

町職員:
ないですね…

小学校には障がい者に対応したトイレがないため、避難してもトイレを使えない人がいるという問題点が見つかった。

自主防災会メンバー:
補助具すら知らずにいて、こういう便利なものがあるんだなと勉強になった。補助具があることで、かなり楽に移動してこられたと思う

別の自主防災会メンバー:
本当に災害が起きたら狭い道にがれきあったり、その時になったらもっと大変だと思うので。できるだけの人数で避難できればいいなと思った

訓練後の反省会
訓練後の反省会

反省会では、車いす補助具などの介助をサポートする物資は障がい者全員分を準備するべきではないのか、役割分担を明確にする必要があるのではないか、などの課題が共有された。

避難の不安解消「みんながサポートしてくれた」

小野さんも要支援者の代表として意見を発表した。

小野孝行さん:
水道はやはり健常者用に作られているから、車いすでは使いづらい。できれば1つでも車いすが入れるようなところを作ってくれるといいかな

民生委員:
(自分の担当地区には)車いすの方が3人いるので補助具が3つあればベストだけど、区には何もないので。1つでもいいからほしいと思った

小野さんは「これまで避難に不安を感じていた」と話していたが、実際に訓練に参加することで避難のイメージが明確になり、安心したと振り返る。

小野孝行さん:
自分に避難ができるかな、というのはありました。だけど実際やってみて、みんながサポートしてくれたから楽にできました

小山町によると、災害時に支援が必要と申し出ている町民は約700人。町は40カ所に区分けされていて、今回は最初の区での訓練だ。町は2022年に要支援者を把握し、2023年以降に個別計画を作成する予定だ。

車いすでの避難訓練
車いすでの避難訓練

小山町が動き出した、避難に支援が必要な人を守る取り組み。こうした小さな取り組みが、いざという時に命を守ってくれるはずだ。

(テレビ静岡)