在日コリアンが多く暮らす、京都府宇治市のウトロ地区。その空き家などに放火した罪などに問われた男の裁判で、8月30日、京都地裁は「偏見や嫌悪感による独善的な犯行」として、求刑通りの懲役4年の実刑判決を言い渡した。

事件を取材し、有本匠吾被告(23)とやり取りを重ねた東和香奈記者と、その背景を見ていく。

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受け答えは明瞭だが…ウトロを知ったのは事件5日前

Q. 有本被告と接見した際の印象はどうだったか。

東和香奈記者:
どんな質問にも私の目を真っすぐ見て返す、23歳という年齢よりもしっかりしている印象でした。1つ質問すると、自分の歴史認識などについて10返ってくる感じで、頭がよく、記憶力もかなりよさそうです

Q. 被害者いわく「事実に基づかない考え方に捕らわれていた」側面があるようだが、そのあたりは。

東和香奈記者:
やり取りの中で、有本被告は「韓国人は悪。そうした思想があることは否定できません」と言っていました。また、今回の放火で平和祈念館に展示予定だった資料など50点も焼失しましたが、これについても「なんとしても展示物の使用は阻止したい」と。一方、有本被告がウトロ地区を知ったのは犯行のわずか5日前で、インターネットで調べただけで憎悪感情を高めたようです

Q. 有本被告の性格はどう見たか。

東和香奈記者:
拘置所での接見や手紙で取材した印象としては、有本被告は「浅はかで疑わない」人だという印象です。インターネットで犯行の5日前に調べて、実際に在日コリアンには会ったこともなく、事実確認をしていません。またコロナで失職しており、「何で日本人より在日韓国人が優遇されているんだ」という不満を抱いて犯行に及んでいます

Q. その「優遇」というのは。

東和香奈記者:
詳細を尋ねると、事実とは異なる、実際は存在しないような特権のことでした。有本被告とウトロ記念館の副館長である被害者の金秀煥(キムスファン)さんが接見した際にも、説明されて「そうなんですね…」と納得したように見える場面もありました

判決について

京都地裁は判決文で、有本被告に対して「在日韓国人の出自を持つ人に対する偏見や嫌悪感からの身勝手な犯行動機は悪質。酌むべき点はない」と厳しく断じた。しかし、被害者弁護団はこう指摘する。

被害者弁護団:
求刑通り4年の実刑判決は評価できるが、判決文にヘイトクライムへの言及はなかった。誠に不十分だったと言わざるを得ない

Q. 弁護団はなぜこのようなことを言ったのか。

東和香奈記者:
被害者側はこの事件を通じて、同じような在日コリアンやマイノリティへの犯罪について、第2第3の被害を出さないために、司法の判断が問われていると言っていました。ヘイトクライムが悪だということを司法の場ではっきりさせないと、これからも同じようなことが起こる可能性があると。「差別」や「ヘイトクライム」という言葉を使って、判決を言い渡してほしかったというところがあるようです

Q. 「嫌悪感」というのはあくまでも感情で、そこに不当な差別があったということが明記されていないと。なぜ「差別」や「ヘイトクライム」が判決に書けないのか。

東和香奈記者:
なぜこういう判決文になったかというと、日本では法整備が進んでいないからです。日本は「人種差別撤廃条約」に批准していて、そこではヘイトクライムを「法律で処罰すべき犯罪と認めるように」となっているのですが、まだ日本では認められていません。アメリカやドイツなどの欧米諸国では通常の刑事事件よりも多く罰する法整備が進んでいますが、日本の現行法の枠内で裁判所が判断した結果、こういった判決になったのだと思います

Q. 今回の裁判を取材して、今後何が必要だと感じたか。

東和香奈記者:
ヘイトクライムについての法整備を欧米諸国のレベルにまで持っていく必要はあると感じましたが、それだけではなく、そもそも「差別はいけない」といった部分や正しい歴史認識について、日本の教育はまだ伝えきれていない部分があると感じました。法整備と教育、どちらも進めていく必要があると思います

(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月30日放送)