鹿児島県内で新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは2020年3月。以来、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置、県独自の警戒宣言など、感染の波が訪れるたびに行動制限が行われてきた。
中でも観光業界は行動制限の影響を大きく受けた業界のひとつで、2020年の県内の観光消費額は1565億円と前年の約半分にまで減少した。

”行動制限なし”でも売り上げは完全に戻らず
2022年8月3日、鹿児島県は「BA.5対策強化宣言」を発令。医療のひっ迫の回避と経済活動の両立が狙いで、行動制限はない。

コロナ禍以降初となる、行動制限のない夏。鹿児島県の温泉地のひとつ、指宿市の旅館「いぶすき秀水園」を取材すると、夏休みに合わせて県内外から観光客が訪れていた。
鹿児島・志布志市から訪れた家族:
砂むし温泉、唐船峡のそうめん流しに行ってきた。感染対策をしっかりしながら、できる範囲のことができればいい

熊本から訪れた夫婦:
夫婦の吉方位ということで。人混みには行かないように神社参りをして帰ります
観光業界にとって頼みの綱は、県の需要喚起策「今こそ鹿児島の旅」。鹿児島県民と沖縄県を除く九州在住者が対象で、この旅館ではコロナ前の6割程度の売り上げを何とか維持している。

行動制限はないものの売り上げは完全に戻らない中、旅館ではもう一つの懸念材料があった。
いぶすき秀水園 湯通堂洋 副総支配人:
2020年5月に借り入れ、返済の猶予期間は3年と決まっているが、今後もっとお客さまを増やして売り上げを上げていくことが課題

コロナ禍以降、事業を維持するために金融機関から借り入れた運転資金。無利子で3年間返済が猶予される特例の貸し付けだが、その返済が迫っている。
経済の専門家は、コロナ融資の現状について次のように話す。
鹿児島国際大学経済学部 松本俊哉 准教授:
コロナ禍が始まった当初、3年間実質無利子で融資を行ういわゆるコロナ融資を受けた企業の中で、据え置き期間が終わり返済が始まっているケースがある。国は貸し渋りや貸し剥がしを行わない追加融資など、柔軟に対応するよう金融機関に要請している

鹿児島県によると、コロナ関連で融資を受けた企業のうち約半数ですでに返済が始まっているというが、感染の再拡大が観光需要の回復に水を差す。

いぶすき秀水園 湯通堂洋 副総支配人:
需要喚起策はあったが、100%活用できたかというと、感染状況に影響されたことが大きい
新たなツアーに客室改装 生き残りをかけた模索続く
薩摩半島南部、南九州市のバス会社。貸し切りバスや旅行事業を主体にしているが、売り上げはコロナ前の2割程度。小型高級バスの貸し出しやオンラインツアーの販売を強化して、何とか現状を耐え忍んでいる。

この会社でも30人ほどいる従業員の雇用を守り、事業を続けるためにコロナ関連の融資を受けている。

南薩観光 菊永正三 社長:
2020年にコロナ融資の制度をフルで活用させてもらった。今後、追加の借り入れに頼るかというと、財務上負債が大きくなり難しい。観光産業への直接支援策を議論してもおかしくない時期ではないか

厳しい状況が続く中、会社が2023年の春に計画するのは、クルーズ船を借り上げた富裕層向けの新たな旅行商品の販売。世界自然遺産の島、屋久島や奄美大島などをクルーズ船でめぐるツアー代金は1人あたり68万円から245万円で、停滞する状況を打破したいと考えている。

南薩観光 菊永正三 社長:
成功させるためにリスクはあるが、リスクなきチャレンジはないと思うので頑張っていきたい
指宿市の温泉旅館「いぶすき秀水園」では、コロナ感染拡大で客足が鈍る中、客のニーズに合わせて宴会場を個室に改装するなど、生き残りをかけた模索が続く。

いぶすき秀水園 湯通堂洋 副総支配人:
鹿児島がファーストチョイスで選ばれるように、宿泊業としても魅力ある宿づくりが必要。県内の魅力をもっともっと広めていければと思う
2023年の夏には県内企業の約8割で貸付金の返済が始まり、さらに厳しい状況を迎える。コロナ収束の見通しが立たない中、鹿児島の観光は正念場を迎えている。
(鹿児島テレビ)