「相談者の方には、『あなたが親を“毒親”だと思ったら、そうなんじゃないかな』って伝えています」と話してくれたのは、母娘関係カウンセラーの加藤なほさん。彼女自身も母親の存在に悩まされ、その経験を著書『ワタシの母は、毒親でした。』の中で綴っている。

加藤さんが、母親を“毒親”だと感じたきっかけとは?そして、悩みやトラウマをどのように乗り越えていったのか?「母は毒親でした」と、言えるようになるまでの道のりを聞いた。

恋愛がうまくいかない理由は「親」にあるかもしれない

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20代半ばの頃、加藤さんはつき合っていた恋人からDVを受けていたそう。命からがら逃げるように別れた後、ふと「なんで、あんなひどい目に遭わないといけないんだろう」と考えた。

「過去の恋愛を振り返っても苦しい経験ばかりで、私が変なのかもしれないって思うようになったんです。自分を知るために心理学を勉強しようと思って、学校に通い始めて、授業の中で『アダルトチルドレン』『共依存』って言葉を知ったんですけど、私のことじゃん!!って衝撃を受けましたね」

「アダルトチルドレン」「共依存」をキーワードに、さまざまな書籍を読み漁る日々が始まる。その中で出会った1冊が、アメリカのスーザン・フォワードの著書『毒になる親』。

「その本には『“神様”のような親』『コントロールばかりする親』『残酷な言葉で傷つける親』のように、親のパターンがいくつか載っているんですけど、うちの母が割と当てはまったんです」

思い返せば、子どもの頃に母を好きだと感じたことはなかったかもしれないという。教育ママだった母の方針で、週6日習い事に通わされた。ヒステリックな人で、よく「だらしない」「あんたは何もできない」と言われた。時に、叩かれることもあった。

「『毒になる親』の内容がストンと腑に落ちて、理由がわかった安心感とこの先の人生真っ暗だ…って絶望感が入り混じって、複雑でしたね。そこからは母に対する怒りが湧いてしまって、1年間くらい母を罵倒し続けていました。『お前のせいだ!』って。母も言い返すタイプで、言い争いの声はご近所迷惑だったと思います(苦笑)。怒りを超えて殺意を覚えるようになった時は、やばいかもしれないって感じました」

殺意を行動に移してしまうことを恐れ、実家を出ることを決意する。

「お母さんの基準を引き継いでるね」

実家を出て、母の存在を感じなくなると、怒りは収まっていった。しかし、夢に母が出てくることがあり、不快な気持ちがよみがえる。

「解消するための情報を得たくて、毒親に関するサイトを見たり、毒親育ちの方のブログを読んだりしていたんですけど、徐々に親じゃなくて私自身を変えなきゃいけないことに気づき始めるんですよね。母の影響を受けた結果、自分を好きになれていないことが最大の問題ではないかって。でも、自分を好きになる方法がまったくわからないんです」

自信をつけ、自分を好きになる方法を見つけるため、心理カウンセラーに相談。そこで、気づきを得る。カウンセラーから「なほさんは、お母さんの基準を引き継いでるね」と言われたのだ。

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「中学時代、テストで90点以上を取らないと母に叱られたから、89点でも『やばい、どうしよう…』ってビクビクしてたし、何事においても9割以上を目指す完璧主義みたいになってたんです。カウンセラーの方から『お母さんが決めた基準を取り入れたのは誰?』って聞かれて、私が自分で基準を設けていたことに気づいた時に『その基準を自分で下げていかなきゃね』って言われました」

それまでは100点満点のテストで、90点以内の10点分しか丸をつけられなかった。しかし、50点以上取れたら十分と思うことができれば、50点分も丸をつけられるようになる。基準を下げて自分を認めることが、自信をつけて自分を好きになる方法なのだと知った。

「私は自分に対して厳しすぎたことを知りましたね。母からよく言われた『だらしない』『あんたは何もできない』って言葉を、胸の奥にいる自分自身に言っていたんです。自分をやさしく労わってあげないといけないんだなって、大きな発見でした」

自分を好きになる方法を実践し、徐々に自分を肯定できるようになると、母の見え方も変わってきた。

「数年ぶりに会った母は変わってなかったけど、私の感覚が変わったからか、どこにでもいるおばちゃんなんだなって思えたんです。“毒親”というメガネを外せたというか、感情をコントロールできるようになったんですよね。人は変えられないので、関係をいい方向に持っていきたいなら、自分を変えるしかないんです」

そして、「自分と向き合ったことで、母の気持ちが見えるようになったことは大きかった」と、話してくれた。 今は母を罵倒することはないどころか、2人で食事に行くこともあるそう。自分が変われば、相手の見え方も変わり、コミュニケーションの取り方も変わっていく。

親も「自分自身」と向き合うことで変わっていける

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現在は、自身の経験を活かし、カウンセラーとして活動している加藤さん。親との関係で悩む人に向けて「親と向き合わなくてもいい」と、発信している。親を変えるのではなく、自分自身と向き合う必要があるから。

「親に感謝できなくてもいいし、親に怒りを覚えてもいい。ただ、その理由は自分の中にあることを知ってほしいです。自分の気持ちを大切にしながら、自分の記憶の中にいる親と向き合うことで、少しずつ悩みやトラウマを消化できるはず。自分の傷は自分で治癒するしかないけど、怒ったり泣いたりしながら自分や記憶の中の親と向き合えば、見えている世界が変わっていくと思います」

一方で、カウンセリングを通じて、親の目線も知ることができたという。相談に訪れる人の中には、子どもから“毒親”という烙印を押されたことで、苦しんでいる親もいるのだ。

「親の愛情って非常にややこしいし、万人が持っているものとは言えないかもしれません。ただ、子どもから『あんたは毒親だ』と言われてしまった方の話を聞くと、愛がないとは思えないんです。『仕事や家事、子育てに必死で余裕をなくして、つい手が出てしまった。でも、やりたいわけではない…』って話を聞くと、この人なりの愛なんだなって。子どもが欲する愛と親が与えたい愛のズレが大きいと、“毒親”になってしまうんだと思います」

親も同じように、自分自身と向き合っていくことで、子どもとの関係が改善することがあるそう。

「子どもに縁を切られて、孫に会えなくなった方が相談にいらしたことがありました。その方にも記憶の中の親や子どもと向き合ってもらって、物事の捉え方を変えていったんです。子どもとの関係も少しずつ再構築していって、最後には『会わせないって言われてた孫の世話を任されるようになったの』って報告されて、感動しましたね」

近すぎる距離感に悩んでしまう親と子ども。自分自身を見つめ直すと、また笑い合える日が来るかもしれない。加藤さんの話は、そう感じさせてくれる。

加藤なほ
母娘関係カウンセラー、メンタルコーチ、HahaCo Labo 母娘関係研究所代表。ブログ「毒親(毒母)に育てられて」が、同じような悩みを持つ女性の目に留まり、2013年より女性限定の「親子関係・生きづらさについて語るおはなし会」を始め、カウンセラーとして独立。おはなし会は、NHK「クローズアップ現代+」「あさイチ」などのテレビ番組や朝日新聞、読売新聞など、多数のメディアに取り上げられている。生きづらさを抱えた女性が自分らしく幸せな毎日を送るためのセミナーやコンサルティングを行い、カウンセリング経験は延べ2000回以上となる。

HahaCo Labo 母娘関係研究所:
https://ameblo.jp/healingcafe77/

取材・文=有竹亮介(verb)