月給の4%の上乗せはあるが、それ以上残業代がつかないという職業があったら、就職したいと思うだろうか?

2016年の文科省による「教員勤務実態調査」では、公立小学校で3割、中学校で6割の教師が月80時間の過労死ライン超えて残業を行っていることが判明したが、どれだけ残業をしても教員は月給の4%の調整額以上の残業代はつかない。教員には労働基準法が適用されず、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、給特法)」に給与や勤務条件が定められているのだ。

「給特法のこれからを考える有志の会」の記者会見(7月26日)
「給特法のこれからを考える有志の会」の記者会見(7月26日)
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「給特法のこれからを考える有志の会」は、7月26日に文科省で記者会見を開き、教員の働き方の切実な実態と日本の未来に与える影響について訴えた。

教員の残業は「好きで勝手に働いている」とみなされている

給特法ができたのは50年以上前の1971年。教員は勤務時間が計りづらい特殊な仕事なので月々の給与を4パーセント上乗せする代わりに残業代はつかないという法律だ。1966年の調査で教員の残業時間が月8時間だったことを元に4パーセント上乗せとされたのだが、過労死ラインを超える残業をしている現在の状況でもなお、「4パーセント上乗せで定額働かせ放題」状態なのだ。

一般企業の場合、部下の勤務時間管理は、労務管理とコストの面で管理者の責任とされているが、教員はどうなのだろうか。岐阜県の公立高校の教員、西村祐二さんは、給特法の存在によって残業に歯止めが効かない実態を、会見で下記のように述べた。

岐阜県の公立高校の教員 西村祐二さん
岐阜県の公立高校の教員 西村祐二さん

岐阜県の公立高校の教員 西村祐二さん:
給特法では残業命令が存在せず、「自発的勤務」しかないということになっているので、残業の上限を超えても管理職に責任はなく、一人一人の教員の責任のようになっています。残業は、教員が「好きで勝手に働いている」ということになっていて、残業コストがかかりません。残業代が欲しくて言っているわけではなく、残業を減らし、ゼロにしたいと思っています。それには給特法の抜本的見直しが必要です。

文科省の試算によれば、もし今の勤務実態に応じて残業代を支払うとしたら、年間9000億円にのぼるという。残業代を支払う必要がなく、労務管理もしなくていいという給特法の下では、コスト意識、時間意識が損なわれ、残業を減らすことが非常に困難であるのは想像に難くない。

教員の3人に2人が「過去2年間に辞めたいと思ったことがある」

会見では、小学校での教員経験のある乙武洋匡さんから教員の勤務実態についての報告もあった。

乙武洋匡さん
乙武洋匡さん

乙武洋匡さん:
朝8時前に登校し15時に生徒が下校するまで、教員はほぼ休憩をとれません。給食中は生徒のケア、休み時間は次の授業の準備などがあり、トイレにも行けないほど。生徒が帰ったあとも学校ホームページの制作など、教員にしかできないわけではない業務にも忙殺されていました。もっと子どもと向き合いたくても、書類と向き合う時間が多かった。

会見では、名古屋大学の内田良教授から、教授らが昨年行った「学校の業務に関する調査」の結果について報告があった。

名古屋大学 内田良教授
名古屋大学 内田良教授

名古屋大学 内田良教授:
調査では、現職教員の3人に2人が「過去2年間に辞めたいと思ったことがある」と回答しました。また、小・中学校いずれも約半数の教員が「休憩時間は0分」と回答、小・中学校いずれも約3割の教員が「職場の正式な休憩時間帯を知らない」と回答しました。6人に一人が勤務時間を過少申告しているという結果でした。

文科省の調査では、うつ病など精神疾患から休職に陥る教員は毎年 5,000 人以上にのぼる。

文部科学省ホームページより
文部科学省ホームページより

文科省の発表によれば、公立の教員採用試験の採用倍率は年々下がっているが、その理由についての調査結果が、日本若者協議会の室橋祐貴さんから報告された。

日本若者協議会 室橋祐貴さん
日本若者協議会 室橋祐貴さん

日本若者協議会 室橋祐貴さん:
日本若者協議会が高校生・大学生・大学院生を対象に行ったアンケート調査で、教員志望の学生が減っている理由は、「長時間労働など過酷な労働環境」という回答が94%でした。文科省では学生に教員の魅力を知ってもらおうという「#教師のバトン」プロジェクトなどの取り組みをしていますが、アンケートには、「教員の職には魅力を感じているが残業代が出ないところでは働きたくない」という旨の回答が多く寄せられました。

日本の将来のためにこそ必要な教員の評価制度改革

約200の学校のコンサルタントを手がけたワーク・ライフバランス社の小室淑恵さんからは、行事や課外活動の廃止や外部委託、ITツールの導入などで、残業を減らすことができた事例の紹介があった。

ワーク・ライフバランス社 小室淑恵さん
ワーク・ライフバランス社 小室淑恵さん

ワーク・ライフバランス社 小室淑恵さん:
当初、業務を減らすことについて保護者の同意を得られるかについて心配する声がありましたが、例えば岡山県の勝央中学校では、保護者から学校への評価が上がったという調査結果になりました。教員に時間的・精神的なゆとりができたことで、保護者との対話が増えたことが理由だとみられます。

また、評価制度と残業代の関連と、長時間労働よる教員の睡眠不足が子どもたちに与える影響についてもコメントがあった。

ワーク・ライフバランス社 小室淑恵さん:
一般企業では限られた時間の中で成果を出すことが求められているので、管理職は部下の時間管理に責任があります。一方、校長・教頭は業務の見直しをして残業を減らす権限がありますが、それをしても特に評価されない仕組みになってしまっています。教員も同様に時間単位での成果を上げても褒められることはなく、むしろ遅くまで残っていた方が褒められるという構造があります。これは給特法によって残業によって生じるコストがないことに原因があります。9000億円と試算されている残業代に関して、財源の確保が課題という議論が省庁にありますが、本来支払われるべきものなので議論の余地はないはずです。
また、睡眠不足は、怒りやイライラの原因になるという研究結果があります。攻撃的で抑圧的になるのは本人の資質ではなく、職場の環境のせいですが、教員の睡眠不足は少なからず子どもたちに影響を与えています。教員の睡眠不足を防ぐためには、今年6月に岸田内閣から発表された「新しい資本主義の実行計画」にも記載のある「勤務間インターバル」を義務化することが有効です。
日本の将来のためには、教員の働き方をよくすることが不可欠だということは、経済界からも多くの賛同の声が上がっています。教員の大変さをなくすということではなく、日本の将来を担うイノベーティブな子どもが育つために、質の高い教育が求められているのです。

未来の日本を支える子どもたちの教育という最も重要な責務をもった教員が、長時間労働で疲弊している現実を一刻も早く改善する必要があり、給特法の抜本的な見直しが急がれる。「給特法のこれからを考える有志の会」がオンラインで行っている給特法の抜本改善を求める署名は、7月25日時点で4万1,140筆が集まっており、引き続き署名を集めている。文科省では今年、2016年以来になる教員勤務実態調査が行われる予定で、給特法見直しの大きなチャンスと見られている。