米政府は2年前から武漢の研究所を注視していた

トランプ米大統領は、新型コロナウイルスが中国武漢のウイルス研究所から流出した証拠を近く発表すると言ったが、どんな証拠なのだろう。

武漢の研究所がウイルスの発生源だと主張するトランプ大統領
武漢の研究所がウイルスの発生源だと主張するトランプ大統領
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「動かぬ証拠」を示すのは難しいとは思うが、「状況証拠」ならば既にいくつか明らかにされている。

「武漢研究所の危険を警告する電報が国務省へ送られていた」(ワシントン・ポスト紙電子版 4月14日)

同記事によれば、米国政府は2018年1月以来、北京駐在のリック・スウィツアー参事官らの視察団を同研究所に派遣して実情を視察させていた。

その結果、視察団は同研究所の運営に問題があることを警告する報告を「取扱注意電報」として国務省に送っていた。

「武漢ウイルス研究所では、コウモリから採取したコロナウイルスがヒトに感染し、SARSの時のような感染拡大を招く恐れがあることを発見していた」

報告はこう伝え、さらに研究所の安全対策についてこうも述べていた。

「同研究所の科学者たちとの交流で、同研究所にはウイルス流出を防止するために必要な熟達した技術者や調査官が決定的に不足していることが分かった」

ウイルス流出の可能性が指摘される武漢市の研究所
ウイルス流出の可能性が指摘される武漢市の研究所

廃棄物の処理が杜撰な研究所も…中国はガイドラインを発表

この警告が中国側に伝えられたかどうかは定かではないが、新型コロナウイルスの汚染が拡大した2020年2月16日、中国共産党の英字紙「グローバル・タイムズ」電子版に次のような記事が掲載された。

「ウイルス研究所の疫学的運営の抜け穴を修正するためのガイドラインが発表された」

記事は、この発表は新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出したのではないかという憶測とは関係ないとしながらも、武漢大学病原体生物学科のヤン・ザンキュー副学部長の話として、中国の研究所の中には生物学的な廃棄物の処理に十分な配慮をしていないところがあると、次のような例を挙げている。

ある研究所のゴミ缶に、人や動植物に致命的な衝撃を与える可能性がある人工のウイルスや細菌、微生物が含まれていた。また、研究員の中には、生物学的廃棄手順を踏まずに実験に使った物質を下水道に捨てている。

こうした「抜け穴」を封じるために、中国の科学技術省が新たなガイドラインを示したものだという。

感染患者の治療にあたる医療従事者を激励する習近平国家主席
感染患者の治療にあたる医療従事者を激励する習近平国家主席

ウイルスの取り扱いを誤った研究者が感染したのが始まり?

さらに、英国のデイリーメール紙電子版も、複数回に渡って武漢ウイルス研究所のウェブサイトから削除された画像として、防護装備なしにコウモリを採取する研究員や、ウイルスを貯蔵している冷蔵庫の密閉材が破損している写真を掲載している。

こうした「状況証拠」をもとに、米国では今回の新型コロナウイルスの感染は、武漢ウイルス研究所で研究者(女性のインターンという説もある)が、ウイルスの取り扱いを誤って感染したことから始まったとも言われはじめているのだが、トランプ大統領はそれを「ダメ押し」するような証拠を出せるのだろうか。

新型コロナウイルス
新型コロナウイルス

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。