シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は消化器内科の専門医、阿知須共立病院の鈴木千衣子内科診療部長が、貧血の3つの原因や改善するためのポイントについて解説。がんなど重い病気のサインの可能性もあるため検診の重要性についても語る。

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貧血とは

貧血とは、赤血球が薄くなったり、ヘモグロビンの数が少なくなったりして体の中に酸素が運べなくなる病気の総称です。

貧血は赤血球の数、例えばヘモグロビンの数(濃度)で表しますが、その数が少ないことで簡単に診断ができます。
成人男性の場合はヘモグロビンが13g/dL未満、成人女性の場合は12g/dL未満、妊婦・幼児の場合は世代によって基準が変わりますが、11g/dL未満で貧血という診断がつきます。
(貧血の基準値は検査機関によって異なるため変動する場合があります)

赤血球を作る材料にが非常に重要になってくるので、鉄が足りていない状態、つまり鉄欠乏症貧血というものの頻度が貧血全体の割合が非常に多いので、「鉄欠乏症貧血」=「貧血」という風に考えられることが一般的です。

貧血の症状は色々ありますが、簡単な目安として、まぶたの裏の色が少し薄くなることで、体の中の血液の量が減っていることを簡単に見ることが出来ます。また、顔が青白くて気が付くこともあります。
あるいは体の隅々に送られている酸素が足りていない状態となるので、今まで大丈夫だった階段や坂道を上がる動作がきつくて出来なくなってしまうことで気付く場合もあります。

あるいは体の中の血液が外に出てしまう症状、吐血・血を吐くこと、喀血・痰の中に血が混じる症状、下血・便の中に血が混じる、血尿不正性器出血で出血量が多くなることが原因としてあげられます。
 

朝の集会で急に立ち上がった時にクラッとすることを「私、貧血持ちなんです」と表現される方がいますが、その多くは起立性低血圧という血圧の変動で起きる症状で、必ずしも貧血の方に全て起きる症状ではないので、区別が必要です。

貧血の原因

貧血の原因は大きく分けて3つぐらいに考えることができます。

1.鉄やビタミン不足 
血液を作るための材料が十分に摂取できていない状況があります。
過激なダイエットをした場合、あるいはお酒を飲む方がお酒を体内で代謝する過程でビタミンが消費されてしまい、血液を作る側にビタミンが有効に使われない。

あるいは手術などで胃を切除してしまった方は鉄分を吸収するための胃から分泌されるホルモンが分泌されない影響で、鉄分の吸収の力が落ちてしまいます。
これによって貧血をきたすケースがあります。

2.胃がんや大腸がんなど消化管に傷 

胃がん大腸がん逆流性食道炎潰瘍性大腸炎などのような、消化管に傷ができて血が出てしまう病気にかかっている場合、知らないうちに血液が少しずつ外に出てしまう貧血と、見てわかるほどの出血により血が少なくなる貧血があります。
女性の場合、月経の出血が多い方もこれに含まれます。

3.慢性的な病気や骨髄の病気で血が作れない
慢性的な炎症や病気がある場合、あるいは血を作るための骨髄という臓器に病気があって血が作れない方もいます。
この中には腎臓が悪くて血が作れない腎臓貧血の人、甲状腺が悪くて血が作れない人、白血病の人も含まれます。

貧血の傾向

2019年までの報告では、日本人の若い女性、大学生を中心に調べたデータがあり、20代は15%、30代は20%、40代は30%と年代が上がるにつれて貧血の有病率が上昇する傾向があります。

女性は50歳以降、閉経を迎えますので、そこから先の有病率は10%となります。
最近の若い女性はBMIが18.5未満と体重が少ない方が増えているので、体重が少ない方で鉄分などの栄養素が足りていない方は貧血のリスクがあります。

男性でも食生活が偏っている方、痩せ型で食事がしっかり摂れていない方、主にお酒をよく飲んで生活している方には年齢に関わらず貧血があります。

他にも、激しく運動することで、鉄の合成が阻害されて貧血になる方(痩せ型のマラソンランナーなど)もいますし、ご高齢の場合は胃がん、大腸がんといった「がん」からの出血で貧血をきたす方がいます。
男性は年齢上昇とともにがんの有病率が高くなるので70歳以降では貧血の有病率が高くなります。

また高齢の方は食事摂取量、特にたんぱく質が減る傾向にあり、低体重低栄養の方が増えています。
こういう方たちを「フレイル」あるいは「サルコペニア」という状態で表現しますが、この中で貧血がある方は手術の治りに時間がかかったり、入院した際元気になって退院するまでに時間がかかってしまうことがわかってきています。

そのため、お年を召されてもしっかり食べて貧血を治そう。貧血を治療しながら元気になろうという取り組みが今進んでいます。

貧血を改善するポイント

1. バランス良く食べること
月経のある成人女性は1日12mg鉄分が必要とされています。
閉経後は10mgですが、若い女性は摂れていて6~7mgというケースが多く、意識して食べないと足りません。

朝昼晩、食事を抜くことなく十分なたんぱく質を摂ることが大事です。
乳製品に鉄分が含まれているという誤解があり、「牛乳をたくさん飲むので私は大丈夫」と思い込んでいる若い方が結構多いんですが、牛乳だけでは貧血を予防できません。緑黄色野菜赤身の肉赤身の魚をいかにバランス良く摂ることが大切です。

鉄分を効率よく摂るためには緑黄色野菜より肉類の方が吸収効率が良いとされています。
同時に鉄から赤血球を作るためにはビタミンBも要りますし、鉄を吸収するためにはビタミンCも必要で、いろいろなビタミンや栄養素をまんべんなくバランス良く摂ることがカギになっています。

2. 薬を病院で相談
鉄欠乏性貧血によって一定の数値より低く、食事による改善が時間かかって大変な場合、あるいは症状が出ていて急いで戻す必要がある場合は薬を使います。

薬は、まず貧血が治ってくることを目標に服用します。血液検査上、ヘモグロビンの値が先ほどの正常値を上回ることが1つの段階。その次に体の中の貯蔵鉄が十分に蓄積されることで再び貧血の状態になることを予防します。
貯蔵鉄が十分に貯蔵されるまでの期間飲む必要があるので、その方の吸収度合い、食事の程度に応じて、2ヶ月~半年程度飲むことがあります。

貧血の薬は飲んだときにちょっとムカムカする症状が出ることがあり、薬を嫌う方もいますが、今は注射やいろいろな種類の薬があるので、しっかり病院で相談されたらいいと思います。

3. 検診の重要性
原因となる病気が隠れていないか、適切に発見して治療することが大切になります。
閉経間近になって出血量も減っているのに貧血が進んできた場合、自覚症状はないけど貧血が徐々に進んできている50~60代以降の方は、体内にがんが隠れている可能性が非常に高いので、症状がなくてもしっかりと貧血の検査を受けるべきだと思います。

不適切な生活習慣、お酒の飲み過ぎは貧血の原因となるので飲酒量を減らしたり止めることが大事です。
また、過剰な運動をしている方は運動量のコントロールが大事になってきます。

鈴木千衣子
鈴木千衣子

1995年山口大学医学部卒業。2002年学位取得。山口県山口市 阿知須共立病院内科診療部長。   資格等:日本内科学会認定医 日本肝臓学会専門医 日本消化器病学会専門医 日本医師会認定産業医 インフェクションコントロールドクター(ICD) 山口大学特定認定再生医療等委員会委員   所属学会:日本内科学会 日本消化器病学会 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓病学会日本消化器がん検診学会日本臨床栄養代謝学会(TNT修了医) 欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN) 日本リハビリテーション栄養学会 日本環境感染学会