冬季スポーツの祭典・北京パラリンピックが13日に閉幕した。今大会の日本勢は、メダル7個(金4、銀1、銅2個)を獲得。その裏側では冬山の変わりやすい天候に対応しようと天気予報が役立てられていたという。

冬季パラ日本男子最年少金の裏側

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7日、冬季パラリンピッククロスカントリースキー男子20kmクラシカル立位で日本人男子最年少となる金メダルを獲得した川除大輝、21歳。川除はレース後の会見でこんなことを口にしていた。

「気温が上がってくることは予想をしていた」

特に3月は、スキーをするうえで気温の上昇により雪上コースの状態は刻々と変化する一番難しい時期。そんな環境の中、川除の快挙の裏には、天気予報が関係していたという。

ノルディックスキー日本代表の荒井秀樹チームリーダーも、その要因を挙げる。 「ワックスの選定やスキー板の選定にとって、ウェザーニューズさんの情報というのは、大変我々にとって支えとなっています」

「天気×スキー」日本のチーム力

民間気象会社のウェザーニューズの天気予報とクロスカントリースキーにいったいどんな繋がりがあるのだろうか。ウェザーニューズのスポーツ気象チームのリーダー浅田佳津雄さんに話を伺った。

「我々は予報を常に提供していますけれども、現地の観測をチームの皆さんにご協力頂いて、ワックスの選定のための情報を提供しています」

今大会はウェザーニューズがコロナ禍の規制で現地に行けなかったため、チームスタッフが大会1週間前から会場で、レースが行われる時間帯の気温や雪の温度を計測。ウェザーニューズは送られてきたデータを分析し、当日の雪の温度や雪質を予想した。

ジャパンパラクロスカントリースキー選手権(2021年)

クロスカントリースキーは「雪の上のマラソン」とも呼ばれ、クラシカルでは両方の足のスキー板を平行にして、走るように滑る。気温が上がって溶けた雪に足をとられることもある。生まれつき手と足の一部の指がないためストックを使わない川除は、推進力はキック力でしか生み出すことができない。

「一本の板に滑るグライダーワックスと、滑らない止まるワックス(グリップワックス)を塗る、相反するスキー板を仕上げなければいけないんです」と荒井秀樹チームリーダーが語るように、ストックを持たないクラスの選手の板を仕上げることが一番難しい。

ジャパンパラクロスカントリースキー選手権(2021年)

板の両端には滑るワックス。坂を登るときなど推進力を生み出すために、スキー板の真ん中には滑りにくいグリップワックスを塗り、雪面を捉えて走る。そのワックスを雪の温度によって調整しているという。

勝敗を分けた天気とワックスの読み

ウェザーニューズ浅田佳津雄さんはこう続けた。

「これは1日前、3月6日のスタート時間の気温はこの時間帯だと大体0度から−1度くらいを推移していますが、この時に雪の温度は−6.2度くらいだったという情報を一つの参考にして、翌日レース本番どれくらいになるのかということの話し合いをしています」

迎えた7日。この日の20kmはレース時間が1時間弱と全ての種目の中で最も長く、予想するのが一番難しいとされる。大会会場の張家口のコースは人工雪。気温が上がるたびに雪温も上昇し溶け出すと、湿った「グサグサ雪」になる。前日同様、「気温、雪温ともに上昇する」と予測した日本代表は「雪面が緩む」とにらみ、滑りにくいグリップワックスを厚く塗った。

レース序盤からトップに立つと、後半で後続を引き離していく川除。10km地点で49秒08だった2位との差が、15km地点では1分15秒05までに広がった。最後は52分52秒08でフィニッシュし、2位に入った中国選手に1分30秒以上の差をつける走りを見せた。

「日本のチーム力を感じました」

レース後、川除は晴れやかな表情で感謝の言葉を口にした。 「グリップワックスは後半までしっかりと止まって、考えていた後半突き放すというところもできたので、ワックスはすごい良かったと思います。いろいろ情報を共有して、最終的にはどのワックスでいくか調整したので、日本のチーム力を感じました」

荒井秀樹チームリーダーも「ウェザーニューズの予想が今回も見事的中させてくれました。選手にとってもワックスチームにとっても心のよりどころにある」と、ウェザーニューズの貢献度の高さを強調した。

実は大会組織委員会も天気予報を発表している。しかし7日の早朝。組織委員会が公式発表したスタート時間(11時)の予想気温は1℃。ウェザーニューズの予想は0℃。実際は-0.1℃。公式のものより正確に近い気温を予想できたことが金メダルへの後押しとなった。

ウェザーニューズとの信頼関係

ノルディックスキーでウェザーニューズの情報を取り入れているのは、世界でも日本チームだけ。日本は平昌パラリンピックからタッグを組み独自で大会会場のデータを予想している。今大会リモートでも支援がうまくいったのは、平昌パラリンピックから築いてきた信頼関係があったからともいえる。

クロスカントリースキー長濵一年ヘッドコーチも「川除のスキー技術だけでは金メダルは取れなかった。20kmに照準を絞り、様々な取り組みを行ってきた成果」と総括した。

ノルディックチームとウェザーニューズ、まさにチーム一丸でつかんだ金メダルだった。

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