今年度から全国すべての小学校で「がん教育(授業)」が正式に始まる。2021年度からは中学校、2022年度からは高校と続いていく。

今や、がんで亡くなる人は35万人(2018年)を超え、がんで亡くなる確率は男性で24%、女性で15%と推測されている。

いつ誰が突然、がんになるか分からない、がんという病が身近な時代。だからこそ、確かな知識を身に付けておく必要があると訴えるのは、『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の著者で、国際医療福祉大学病院内科学教授の一石英一郎さん。親子でがんを学ぶ意義、そもそもがんとは何か、話を聞いた。

子どものメンタルを守るためのがん教育

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がんにだけはなりたくない。がんのことを勉強するのは怖い。そう考えている人も多いだろう。まず、子どもたちががんを学ぶ意義について、一石さんは「親ががんになって苦しむ子どもたちが少なくない現状がある」と話す。

がんの発症が急激に増えると言われる「がん年齢」は40代以上。例えば、20代後半で子どもを授かった親は、子どもが20歳を迎える前に、「がん年齢」にさしかかる。

国立がん研究センターの調査報告(2015年)による推計でも、親ががん患者である18歳未満の子どもの総数は8万7000人に上る。「そのうちの半数が小学生」と一石さんは指摘する。

そして、突然がんを宣告された親の動揺が子どもたちにも伝わることで、子どもの精神面に大きなダメージを与えかねない。

「がんは突然降りかかってくるものです。がんと宣告されて慌てて勉強すると、間違った判断をしてしまいがちです。予習をしておくとことで正しい判断ができると思っています。予習がいざというときの備えにつながります」

子どもの「がん教育」をきっかけに、親もがんを学ぶ機会につなげたい。かつては、漠然と怖いイメージがあり、“不治の病”と言われていたがん。しかし、近年の研究やビッグデータ、AIなどからどんな病なのか分かってきたからこそ、教育に採用されるようになったからでもあるという。

そしてもう一つ、一石さん自身の経験からも来ている。小学2年生の時に、母親ががんになり、父親の動揺や生活環境の変化などを体験してきた。「子どもの時は、漠然とがんってすごいことなんだ…と感じました」と振り返る。

「がんに対して恐怖を抱いた」とも言い、だからこそ、子どもたちも「がん」というものがどんな病なのか、正しい知識を身に付ける必要があると話した。

「がん」はどんな病なの?

「がん」というものが、研究などによりだんだんと分かるようになってきたというが、そもそもどんな病なのだろうか。

「一言で言うと“身から出たサビ”です。もともとは自分の細胞や遺伝子。例えるなら、変身するときに仮面ライダーじゃなくてショッカーになっちゃった感じです。そこで暴走したのが“がん”。もともと自分のものなので、戦略や手の内が分かっているからこそ、かいくぐって悪さをしてしまう。もともと味方だったため、やっつけるのも大変なのです」

もちろん、がんになる要因は生活習慣や遺伝的要因、家族歴も含まれる。親子でがんを学ぶ過程で、親や祖父母、兄弟といった身近な人がどのような病気にかかったことがあるのかを知ることにもつながっていく。

そして、身近な人にがん罹患者がいたら、「がん検診を受けよう」という意識にもつながっていく。一石さんは「身内にがんの人がいる方は積極的にがん検診を受けて欲しいです。しかし、実際に日本のがん検診率は低いまま。親子でがんを知ることで、子どもから『検診行っている?』と心配してくれれば、『検診に行こう』という意識向上につながっていくと考えています」。

正しい、間違いを知ることも大事

「がん」そのものについて知ることも重要だが、“がんを遠ざける方法”もあり、そういった知識を知ることも重要だという。

まず、がんの原因は「細菌・ウイルス」「生活習慣」「遺伝的原因」と大きく3つに分けられる。そして、国立がん研究センターをはじめとする研究グループが、日本人を対象としたこれまでの研究から日本人のがん予防について重要なのは6つの要因だと報告し、「日本人のためのがん予防法」を定めている。

・禁煙
・節酒
・食生活
・身体活動
・適正体重の維持
・感染

一石さんは「感染以外は自分でコントロールできます。お酒は“百薬の長”と言われていますが、飲酒量と発がん率が比例するという論文があります。日本人はお酒に弱いので、飲酒量と食道がんへの罹患が比例するのではと考えられています。禁煙や節酒、食生活などによって“がんが予防される”ということを知るのも『がん教育』の一つです。しかし、この6項目に気を付けていれば“がんにならないわけではない”ということを知ることも教育の一つです。現実を知ることも勉強です」と話す。

これから「がん教育」が学校でも行われるようになっていくが、一石さんは「専門的な内容になるので、学校の先生が教えづらいという現状があります。有識者を呼んで授業を行うことに個人的には賛成ですが、なかなか体制が整いません」と、まだまだ課題もあると指摘する。

しかし、こうした課題がありながらも、がんを勉強することは、食生活の見直しや自身の健康管理などについて、親子でどう生きていくか“生き方”を見直すきっかけにもなると一石さんは言う。

「2人に1人ががんになると言われる時代です。これから先、身内でがんになる人も出てくると思います。もちろん、家族以外にもがん罹患者と接する機会もあると思います。学ぶことで、“がんの人を差別してはいけない”ことを知るきっかけにもなるでしょう。また、がん患者は、これまで通り接してほしいと思っていることが多いです。『がん教育』はそういった偏見や対応などを学ぶことができ、それはこれからの社会で必要になることだと考えています」

一石さんは早期発見や5年生存率が伸び、「がんは不治の病から一生付き合う病」と話す。『親子で考える「がん」予習ノート』は、専門的なことが詳細に書かれていながらも、「がん」について正しく理解し、子どもの疑問に答えるための参考書にもなりえる。そして、一石さんは、「必要以上に恐れずに、生きていくためにがんの知識を身に付けて、もしがんを罹患しても向き合って生きていってほしい」と語った。

一石英一郎
医学博士。国際医療福祉大学病院内科学教授。世界の著名ながん研究者が名を連ねる米国癌学会(AACR)の正会員(Active Member)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得している。著書に『日本人の遺伝子 ヒトゲノム計画からエピジェネティクスまで』(角川新書)、『医者が教える最強の温泉習慣』(扶桑社)など。