一年納めの九州場所が幕を閉じた千秋楽の夜、元横綱・白鵬改め間垣親方はスーツ姿にピンク色のネクタイを締め、さっそうと現れた。

史上最多45回の優勝など、まさに歴史に残る大横綱。

先場所後に引退し、九州場所が親方として初めて勤務した場所だった。全てが初体験の15日間を終えたばかりの間垣親方に話を聞いた

「足りないくらい。もっと働きたい」

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――新親方としてのお仕事お疲れ様でした。

本当にあっという間というか、いろんな発見があった15日間だったと思います。

――どんなお仕事をされたんですか?

警備の仕事では新米親方は西の花道の担当なんですね。
私が西で、東の花道が鶴竜(親方)が担当という日もありました。

――それは、鶴竜親方が先に引退されたからですか?

そうです。そういう順番になります。
そして早番も担当しました。早番には『検索』といって、前の日のお客さんの忘れ物がないかチェックしたり、何か危ないものがないか見回りをしたりしました。
今はコロナですからお客さんがマスクを取ったり大声で話したりしていないかなど、館内をチェックする仕事もしました。

――今まで結びの一番を取っていた方が、引退すると突然裏方になるんですね

はい。花道には椅子があるんですが、まあ15日間、緊張でほとんど毎日立っていましたからね。
今回警備でも、幕内取組の前半、後半、十両、幕下まですべての時間を経験してみたいと思いまして、積極的に担当させてもらいました。
大鵬さんの孫(王鵬、夢道鵬、納谷)の取組も、花道で警備をしながら見ました。

開場前の午前7時に場所入りする日も

――早くから行った日もあった訳ですね

そうです、そうなんです。もう全部やってやろうと思って。(笑)

――親方になってもアクティブですね

もう足りないくらい。もっと働きたいと思います。

「現役力士はホントかっこいい」

親方になると支給される相撲協会のジャンパーに身を包み、ネクタイ姿で花道から土俵を見守った15日間。

これまでとは違う場所から見る土俵の景色は、元大横綱の目にどう映ったのだろうか?

「現役力士はホントかっこいいなと思いました。数か月前にあそこに立っていたのが信じられないくらいに。音とか体つきとか凄まじいというか凄いものがありましたね」

――寂しさみたいな気持ちは?

えー。(しばらく考えてから)確かに「膝が良かったら」という気持ちはありましたが、でも本当にやり切ったというのがあるので悔いはないですね。
 

初日は午前11時に出勤し、各部署への挨拶回り。支度部屋での監督業務や花道での警備にあたると、打ち出し後には、来場したファンへのプレゼント交換会にも参加、ファンサービスに努めた。

現役時代は横綱として午後3時ごろに場所入りしていたが、親方になると早番として開場前に場所入りする日もあったという。

生活も180度変わったが、親方としての生活が新鮮で、15日間があっという間だったという。

ーー初日にはファンサービスもされていましたが

そう、そうそれもやりました。今回は14日間、千秋楽はなかったですが、抽選で人気力士や協会のグッズを、当たった人に手渡しして写真撮影とかもしました。(笑)

晴れやかな表情で語る姿に、偽らざる想いが伝わって来る。

「ファンあっての大相撲ですから。力士はいい相撲を見せる事が仕事。高いチケットを買ってみにきてくれるのはありがたい」

現役時代は巡業などでも人一倍ファンサービスに努めていた横綱白鵬だが、親方となってその思いはさらに強くなっているようだ。
 

最大のライバル朝青龍との再会

そんな九州場所に、相撲観戦に訪れたのが第68代横綱朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジ氏だった。

現役時代は朝青龍に憧れ、その背中を追いかけて稽古に精進し、横綱に上り詰めた白鵬。

横綱となってからは幾度となく優勝をかけて死闘を繰り広げた、“宿命”のライバル同士。時には土俵上で激しくにらみ合った二人は、再会の場でどんな会話をしていたのだろう。

元横綱朝青龍と談笑

「もう本当にいろんな話ですよ。何を食べているんですか?何を着てるんですか?今後どういう夢を持っていますか?とかそんな感じです。現役中は話すことはなかったですからね。どっちかというと避けていましたから(笑)」

一方の朝青龍はこう語る。

「モンゴル語で『バイヤルフリゲ』って言ったんですけど、『おめでとうございます』っていう意味なんですけどね。
なぜかというと無事に終われたんで、最後の最後で『優勝』して引退という2文字に繋がったということに対してなんで、お疲れ様よりも『バイヤルフリゲ』って一言、おめでとうって強く言いたかった」

綱を張った者にしかわからない思いが互いの心に通い合っていた。
ライバルとしてしのぎを削った二人ならではのリスペクトが伺える。

無双状態の照ノ富士を倒す秘策は

今場所も圧倒的な強さを見せたのが、モンゴルの後輩でもある横綱・照ノ富士。
14日目には、西前頭15枚目ながらも星の差ひとつで追っていた阿炎との一番を制し、通算6度目の優勝を果たした。

この一戦を白鵬はどう見たのか?

横綱として両者と何度も戦った経験を重ね合わせながら、こう語る。

「阿炎は立ち合いよかったですね。全部を出し切ったと思います。
照ノ富士は秋場所から今場所にかけて上半身の肉体が、名古屋場所の時よりもひと回りもふた回り大きくなったような気がします。(最後の阿炎の)あの崩れ方って照ノ富士の圧力があるからなんですよ。この圧力に勝るものがないので、そこで阿炎は負けてますね」

千秋楽も勝って自身初の全勝優勝を飾った照ノ富士は、今年1年間で6場所中4度の優勝を果たすなど、完全なる一強状態。

間垣親方に、今の照ノ富士に勝つ秘策があるのか聞いてみると、「正面から行っては勝てないので、一か八か横から攻めて、走るしかないのかと思います」と答えた。

史上最多45回の優勝を誇る元横綱でもそう語るほど、今の照ノ富士は強いということなのだろう。

大横綱が土俵を去り、新たな横綱が時代を築き始めた2021年。
来年はどんなドラマが待っているのか?
すでに親方としてスタートを切った白鵬の“力士育成”にも期待がかかる。

「会場が沸くようなそういう力士を作りたいなと。そうすると必ず横綱・大関になってくれるんじゃないかと思います。強い力士を育てたいと思います」

現役時代からすでに石浦、炎鵬、北青鵬と同部屋の若手を関取に育ててきただけに、その手腕には定評がある。

引退会見で「優しさと弟子思いの親方になって行きたい」「人に優しく自分に厳しく、義理と人情を持った力士を育てたい」と語った大横綱。親方としての挑戦はすでに始まっている。

(協力:横野レイコ、吉田昇、山嵜哲矢 文:吉村忠史)