長崎県の高校駅伝競走大会が行われた11月5日、その前日に五島列島の小さな島からフェリーで佐世保市にやってきたのは、宇久高校陸上部の7人の高校生。

7人がこの県高校駅伝大会に出場しようと決めたのは、わずか2カ月前のことだった。

アクシデントによって晴れの舞台を失った陸上部のただ1人の3年生のため、急きょ駅伝チームを編成したメンバーに密着した。
全校生徒わずか24人 3年生引退後、陸上部は1人に
上村盛将選手(3年):
駅伝大会に出場します
竹村颯太選手(1年):
盛将さんのために、一生懸命走りたいと思った
大塚誠也選手(2年):
最後の盛将兄ちゃんの活躍できる場所にしたい
下級生たちは、陸上部唯一の3年生である上村盛将くんのためにチームを立ち上げたのだ。
五島列島の最北端に浮かぶ島、佐世保市の宇久島。上村くんはこの島で理容室を営む両親のもとで育ち、2019年に島唯一の高校・宇久高校へ入学した。

――宇久高校でやりたいことは?
上村盛将選手(当時1年):
陸上が好きなので、部活動が楽しみです

島の高齢化と人口減少の影響で、当時の宇久高校の全校生徒は24人。陸上部の部員は上村くんを入れても2人しかおらず、3年生が引退したあとは1人になってしまった。
また、男子生徒にとってのもう1つの部活動であるサッカー部も6人に減り、11人が必要な公式試合には出場できなくなっていた。

大会に出場するためには、最低でも7人が必要なのだ。
それを知った上村くんは一度、陸上部を離れサッカー部へ入部した。「サッカー部の先輩たちを最後の大会に出場させたい」と考えたからだ。サッカー部にとっての最後の舞台、それは県高校総合体育大会(高総体)。
上村盛将選手(当時1年):
高総体が終わるまでは、サッカー部に協力しようかなと。勝たせたいなと思って
最後の大会前に左足を骨折…後輩らが駅伝大会出場を決意
結局、2020年は新型コロナウイルスの影響で県高総体は中止になったが、上村くんが加わったことで、サッカー部は代替試合に出場することができた。

その後、上村くんは陸上部に復帰し、自身にとっての最後の舞台となる2021年6月の県高総体800メートル走などへの出場を目指し、練習を重ねていた。
しかし、大会直前に左足を疲労骨折するアクシデントに見舞われてしまった。
上村盛将選手(3年):
本当に何も考えられないくらい頭が真っ白になって。目標も失ってしまって、という感じだった
上村くんは高総体の出場を辞退し、後輩のサポートにまわった。

その様子を見ていた後輩6人は、11月に行われる駅伝大会への出場を決心した。先輩である上村くんの最後の舞台を作りたいという思いからだ。
しかし、6人は砲丸投げや短距離の選手ばかりで、最大10kmを走る駅伝には慣れていなかった。さらに6人中5人は、まだ1年生だ。

永松蓮選手(1年):
正直、長すぎるからちゃんと走れるか不安ですね。盛将さんが高総体で走れなかったから、最後まで皆でつなげるように頑張りたい

メンバーはこの2カ月、必死にトレーニングを重ねた。
上村盛将選手(3年):
1、2年生が協力してくれないと、自分が明日走るという機会はなかったので感謝しています

自己ベスト更新「悔いはない」 仲間との絆を胸に新たな夢へ
そして、大会当日。
駅伝メンバー:
頑張るぞ!
1区10キロを走った上村くん。

38人中26位。タイムは36分21秒だった。これまでの練習での自己ベストを大きく更新する走りを見せた。
――きょうの走りは?
上村盛将選手(3年):
120点、満点です。もう悔いはないです。全力を出し切りました

その後も6人の後輩たちがタスキをつないでいく。上村くんは必死に応援した。
大塚誠也選手(2年):
盛将兄ちゃんのいい思い出になると思う

竹村颯太選手(1年):
まだ感謝の気持ちを伝えきれていないと思う。2022年の高総体に向けて、もっと練習して結果で気持ちを伝えたい
上村盛将選手(3年):
タスキをつないでくれてありがとう
タイムは2時間43分53秒、順位は38校中35位だった。全力で走りきった選手たちは、すがすがしい表情を見せていた。
上村盛将選手(3年):
仲間たちや先生に助けられたことを忘れずに、これからの自分の夢に向かって頑張っていきたい

上村くんは高校卒業後、両親と同じ理・美容師を目指して福岡の学校に進学する。仲間との絆を胸に、新たな夢に向かって走っていく。
(テレビ長崎)