3月28日土曜日、安倍首相は2020年度予算の成立を受けて、新型コロナウイルスに関して改めて国民に直接呼びかける記者会見を行った。「急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」とした2月29日の1回目の会見、「諸外国と比べて、増加のスピードを抑えられている」とした3月14日の2回目の会見に続いて、今回はどんな言葉が安倍首相の口から出るのか、一言一句に注目が集まった。

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開口一番「日本も対岸の火事ではない」危機感訴え

14日の2回目の首相会見では冒頭、「新型コロナウイルス感染症に関する特別措置法の改正案が昨日、成立いたしました」と切り出したが、今回の第一声は次のような言葉だった。

「新型コロナウイルス感染症が世界で猛威を振るっています。感染者は50万人を超えました。最初の10万人に達するまで、60日以上かかりましたが、直近ではわずか2日で10万人増加しており、まさに爆発的なペースで拡大しています」

そして、数百人規模で連日死者が出ている他国の状況を示し、日本も「対岸の火事ではない」と強い危機感をあらわにし、「日本でも短期間のうちに同じ状況になっているかもしれない。それくらいの危機感をもってほしい」と訴えた。

リーマン時を上回る経済対策 全国民一律ではなく対象絞り現金給付へ

安倍首相はさらに、新型コロナウイルスの影響に対応するための緊急経済対策について言及した。これまで政府は対策のとりまとめに向け、19日から7回にわたり中小企業事業者やフリーランス等から現在の経済状況と必要な経済対策についてヒアリングを行ってきたが、安倍首相はそれらも踏まえて次のように語った。

「来月のバス予約は前年比で9割減、航空業界も既に年間の営業利益がすべて吹っ飛ぶくらいの減収となっています。宿泊や飲食業界でも、売り上げが8割・9割減ったところも多い。音楽業界では、イベントが中止となり、売り上げがゼロどころかマイナスだという話もありました。先行きが見通せない中で、中小・小規模事業者の皆様からは、まさに死活問題であるとの悲痛な声がある一方で、歯を食いしばってこの試練を耐え抜くよう頑張っていくとの決意もうかがうことができました。政府として、こうした窮状を徹底的に下支えし、地域の雇用・働く場所はしっかりと守り抜いてまいります」

その上で安倍首相は経済対策について、今後10日間程度でとりまとめる方針を説明し「リーマンショック時の経済対策を上回るかつてない規模の対策を講じる」と強調した。当面は雇用維持を最優先とし、中小企業や小規模事業者向けの給付金制度創設などを行う方針を示した。

国民に対する現金給付については、「ターゲットをある程度置いて、思い切った給付を行っていくべきだ」と述べ、全国民一律ではなく対象を絞って実施する方針を表明した。消費税の減税を求める声があることについては、「消費税は若者からお年寄りまで全世代型社会保障改革を進めていく上においてはどうしても必要な税だ」と述べ、減税に否定的な考えを示した。

収束の鍵“治療薬”の進捗を言及 一方新学期の学校再開時期見直しも?

感染拡大防止の鍵となる治療薬の開発状況をめぐっては、新型インフルエンザ薬「アビガン」について「新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認するにあたって必要となるプロセスを開始する」と表明、「ウイルスの増殖を防ぐ薬で、症状の改善に効果が出ているとの報告もある」と強調し「希望する国々と協力しながら臨床研究を拡大し、増産をスタートする」と明らかにした。

さらに、エボラ出血熱のために開発した薬「レムデシビル」については「日米が中心となって国際共同治験がスタートしている」と語り、すい炎の治療薬「フサン」にも新たに言及し「観察研究として事前に同意を得た患者への投与を始める」と述べた。

一方、今回の会見で、これまでの方針を軌道修正したのが、学校の再開時期についてだ。4月の新学期からの小中学校等の再開については、改めて専門家会議を開き、意見を聞く方針を明らかにし、再開の判断について「変わることはあり得る」と述べたのだ。

記者からも2度「専門家会議の判断次第では、学校再開するという方針がかわるということもありうるという理解で良いのか」と問われる場面もあった。政府は20日、春休みに入るまでの学校の一斉臨時休校要請を延長しない方針を決め、文部科学省が24日に再開に向けた指針を出している。安倍首相は「(専門家会議で)議論いただく段階と、今(の見解)とが同じとは限らない。その段階でご判断をいただきたい」と説明した。

恐ろしい敵と不屈の精神で“長期戦”の覚悟を 収束時期は「答えられない」

前回の会見と比べ、今回は国内外での感染状況に関する言及が多く見受けられた。前回は、「人口1万人当たりの感染者数を比べると、我が国は0.06人にとどまっており、韓国、中国のほか、イタリアをはじめ、欧州では13か国、イランなど中東3か国よりも少ないレベルに抑えることができている」と述べていたが、今回は次のように述べた。

「欧米の例から試算すると、わずか2週間で感染者数が、今の30倍以上に跳ね上がります。そうなれば、感染のスピードを極力抑えながら、ピークを後ろ倒ししていくとの我々の戦略が一気に崩れることとなります。まだ欧米に比べれば、感染者の総数は少ないと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちが毎日見ている感染者の数は、潜伏期間などを踏まえれば2週間ほど前の新規感染の状況を捉えたものに過ぎません。つまり、今すでに爆発的な感染拡大が発生していたとしても、すぐには察知することができません。2週間経って、数字となって現れたときには、患者の増加スピードはもはや制御できないほどになってしまっている。これがこの感染症の最も恐ろしいところであり、私たちはこの恐ろしい敵と不屈の覚悟で戦い抜かなければならないのです」

そして、繰り返し、違う言葉で念を押した。

「繰り返しになりますが日本は欧米とは異なって現状ではまだぎりぎり持ちこたえています。しかしそれゆえに少しでも気を緩めればいつ急拡大してもおかしくない。幸い、オーバーシュートを回避できたとしても、それはまさに水際の状態がある程度の長期にわたって続くことを意味します。この闘いは長期戦を覚悟していただく必要があります

また、コロナウイルスの収束時期については、次のように述べた。

「ではいつこのコロナとの戦いが終わるのか、収束するのか。今答えられる、現時点で答えられる世界の首脳は1人もいないんだろうと、私も「そうです」と答えることは残念ながらできません

今回初めて使われた“最悪の事態”「緊急事態宣言」は現実味・・・?

今回の会見は、前回の会見と比べて何が違うのか。今回は、“最悪の事態”という言葉が初めて使われた。2回目の首相会見(3月14日)では、国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れが生じれば総理大臣が「緊急事態宣言」を行うことが可能となる、特別措置法が成立したことを受けてのもので、「現時点で緊急事態を宣言する状況ではないと判断している」と安倍首相は述べていた。しかし今回は「きょう、今の段階では、『緊急事態宣言』ではないが、状況というのはまさにギリギリ持ちこたえており、瀬戸際の状況が続いている」とし、「最悪の事態も想定しながら、感染拡大防止に全力を尽くす」と訴え、含みをもたせた内容となった。

政府がこのように最大限の危機感を示した背景には、20~22日の3連休で人出が増えたことに対する引き締めという意味合いがあると言えるし、欧米諸国での急速な感染拡大や、ここ数日の都内での感染者数の拡大を踏まえ、「緊急事態宣言」の発出が現実味を帯びてきている状況があるためだと言える。

ただ、政府内には「『緊急事態宣言』を出すと日本経済がまわらなくなる」と慎重な姿勢を示す声もあるために安易に宣言に踏み切れないのも事実で、そんな中での最大限の危機感の訴えとも読み取れる今回の会見だった。

では前回の“瀬戸際”から今回“ギリギリの状態”になった表現が、今後どのように変わるのか、ギリギリを超えるのか踏みとどまるのかは、今後の感染者数の推移次第であり、会見2週間後の4月上旬の感染者数となって明らかになるだろう。今後、政府がどんな手を打ち出すのか、安倍首相の言葉がどう変化するかを注視していきたい。

(フジテレビ政治部総理番担当 阿部桃子)

阿部桃子
阿部桃子

ニュース総局政治部 平河クラブ 自民党茂木幹事長担当。1994年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、2017年フジテレビ入社。安倍元首相番や河野規制改革相など経て現職。