「ニューヨーク市民狩り」を始めたロードアイランド州知事

ニューヨークから大西洋沿いに北東へ3時間ほど車を運転すると、ロードアイランド州に達する。米国で最も面積の小さな州で、人口も100万人ていどだが独立時の13州の一つだ。

映画「真夏の夜のジャズ」の舞台だったり、ヨットレース「アメリカズカップ」の発祥地で、米国東部の避暑地として富裕層の別荘が多い。

そのロードアイランド州のジーナ・レイモンド知事が「ニューヨーク市民狩り」をはじめた。

同州の警察と州兵が家を一軒一軒捜索してゆき、ニューヨークのナンバーの車が停まっているのを見つけると住民に14日間の自主的な隔離を命じてゆく。

「ニューヨーク・リスク」という危機

「今私たちは『ニューヨーク・リスク』という危険に直面しているのです」

レイモンド知事は、ニューヨークで爆発的に感染が拡大している新型コロナウイルスが同州へ持ち込まれないように自衛しているのだと説明した。

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この措置は知事の職権に基づくもので、家の捜索だけでなくニューヨークに通じるハイウエイや空港、鉄道の駅、長距離バスの停留所にも州兵が配備され、州外からの到着客を誰何している。隔離は近隣の住民によって監視され、違反すると500ドル(約55000円)の罰金もしくは90日間の留置の罰則が課せられる。

フロリダ州も同様の対応

同様の問題はやはり富裕層の冬の別荘が多いフロリダ州にもあり、同州のロン・デサンティス知事はニューヨークから航空便で到着する客にやはり2週間の自主的隔離を求めている。

自動車やバスなど飛行機以外の乗り物で到着する者までは規制できず、またニューヨーク州に隣接するニュージャージー州やコネチカット州の住民は自主隔離の対象にはされていないので「ザル法だ」という批判が州内外からまき起こった。

そこで、でザンティス知事やレイモンド知事は出発側で規制するようトランプ大統領に働きかけてきた。

全国民に求めている行動制限のガイドラインを1ヶ月延長すると発表するトランプ大統領
全国民に求めている行動制限のガイドラインを1ヶ月延長すると発表するトランプ大統領

「ニューヨーク州やニュージャージー州は感染の中心地なので検疫してほしいと言われている。それにコネチカット州の一部もだな。2週間ぐらい検疫するか」

記者団に問われて、トランプ大統領が28日こう語ると「ニューヨーク州などを閉鎖」と一斉に報じられた。

「連邦政府による州への宣戦布告だ」

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事

これに、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が噛み付いた。

「これは連邦政府による州への宣戦布告だ!本当にやるなら裁判沙汰にする」

所詮は無理な話だったかとトランプ大統領も矛を収め、代わりに疾病対策センター(CDC)が三州の住民に対して向う14日間不要不急の旅行を自粛するよう要望することになった。

この話、裏を返せば今新型コロナウイルス に汚染されているニューヨーク圏から逃げ出そうという人たちがいかに多いかを物語るものだろう。その一方で、逃げて来られる地方はウイルスを持ち込まれるのを防ごうとして、同じ国の中で出入国拒否のようなことが起きるわけだ。

セントラルパークで急ピッチで建設が進む仮設テント病院
セントラルパークで急ピッチで建設が進む仮設テント病院

日本でも、東京圏での新型ウイルスの感染が深刻になれば、周辺都市で「東京都民狩り」とまではならないまでも「品川ナンバー」の車は白い眼で見られるようなことになるかもしれない。

 【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。