コロナは「アジア風邪」と「スペイン風邪」の中間

「新型コロナウイルスは今世紀最悪の感染爆発(パンデミック)か?」

米国の権威ある医学問題誌「ニューイングランド・ジャーナルオブ・メディシン」電子版に、先月末こんな見出しの記事が掲載された。

筆者はマイクロソフト社を創業したビル・ゲイツ氏。同氏はハイテク事業で得た巨額の資産で現在は社会福祉事業財団を運営しているが、医療問題への関心も高く多額の寄付を行ってきている。

ゲイツ氏は新型コロナウイルスの致死率が1%前後で季節性のインフルエンザよりはるかに高く、1957年のインフルエンザの感染爆発(アジア風邪)の0.6%と1918年の感染爆発(スペイン風邪)の中間ぐらいの危険性だと分析する。

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またその感染力も強く、通常一人の感染者から2~3人に感染しており感染が急速に拡大する。さらに、症状の軽い感染者や時には発症していない人物から感染するので、MERSやSARSよりも感染を封じ込めるのが困難だと考えられる。事実新型コロナウイルスはSARSの4分の1の期間内に10倍もの感染者を出していると指摘、「今世紀最悪の感染爆発」として取り組むべきだと警告している。(致死率、感染率は原文のまま)

ハーバード大学専門医の警告

ビル・ゲイツ氏は並外れた天才と言われるが医療問題の専門家ではないので、その指摘の信憑性が問われるところだが、ほぼ同時期にハーバード大学の流行疫学の専門家が同様の警告を発した伝えられた。

医療問題専門のウェブサイト「STAT」によると、6日ハーバード大学ケネディ・スクールでパネルディスカッションが行われ、この新型ウイルスは感染力が強い一方で処方薬がなく抗体も見つかっていないことに懸念が示された。

これを受けて、パネルの提唱者でハーバード大学公衆衛生学部の流行疫学が専門のマイケル・ミーナ准教授は「新型コロナウイルスは長年恐れていた心配が現実になったものだ」と言い、加えて「この半世紀で最も恐ろしいウイルスだ」とも述べたと言う。

つまり、ある種「世紀の疫病」が拡散しているということなのだが、その結果「世紀的影響」も覚悟しなければならないのかもしれない。

地球規模の人的、経済的影響4つのシナリオ

オーストラリア国立大学の「高齢化研究センター」は、今回の新型コロナウイルスによる地球的な人的、経済的影響を4つのシナリオで想定した。

まず、感染が「中庸」に終わり流行が「単年度」のケースでは、死者は1518万人で経済的影響は世界総生産で2兆3300億米ドル(約233兆円)減ると試算した。

さらに、感染が「深刻」で流行が「単年度」の場合は、6834万人の死者と世界総生産も9兆170米ドル(約917兆円)減という試算になるという。

ちなみに日本の影響も試算しており、「中庸」のケースで死者は12万7000人、GDPは-2.5%1400億米ドル(約14兆円)減、「深刻」のケースでは死者57万人、GDPは-9.9%5490億米ドル(約54兆9000億円)減になるという。

にわかには信じがたい予想だが、この新型コロナウイルスは「世紀的」影響を及ぼすことも覚悟しなければならないもので、ゆめゆめ「インフルエンザに毛の生えたようなもの」と軽視してはいけないということだろう。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。