「コロナウイルスがいかに危険なものか人々に伝わっていない」
「これをbad flu(悪質な風邪)と言うのはもう止めてくれ」
英国のニュース放送「スカイ・ニュース」のインタビューを受けたイタリア、ベルガモ市の病院のダニエル・マッキーニ医師はこう言った。
イタリアでは、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がり病院の施設や医師、看護師も対応しきれない「医療崩壊」が起きて死者が急増している。その中で疲労困ぱいしながらも治療に当たっているマッキーニ医師は、問題の本質をこう一言で言い放ったのだ。
イタリアの「医療崩壊」については、予算削減で医療体制が脆弱化していたことが招いたものという見方が有力だが、同時に中国でウイルスの感染が広がった時に「所詮は季節的インフルエンザの亜型の『悪質な風邪』に過ぎない」と軽視して対応が遅れ、気づいた時は手遅れだったことが挙げられている。
「パニックを避けなければならないことは理解するが、このウイルスがいかに危険なものなのか人々に伝わっていなかった。ジムへ行けなくなったり、サッカーの試合を観戦できなくなることに不満をもらす人々に恐怖心さえ抱いた」
マッキーニ医師はこう言うが、このイタリアの教訓さえも他国と共有するには至っていない。
アメリカの楽観論
「コロナウイルスは予想よりも早く感染のピークを打ち、減衰をはじめる」
大衆紙「ニューヨーク・ポスト」電子版に今月8日、こんな見出しの記事が掲載された。
筆者は弁護士兼作家兼ジャーナリストという肩書きのマイケル・フメントという人物で、新型コロナウイルスで株価が暴落したり、パリのルーブル博物館が閉鎖されたりするのは「純粋にヒステリー状況」としか言えず、その間にもウイルスの拡散は収まってきているとする。
その根拠としてフメント氏は、米国では季節性の風邪で昨年は8万人死亡しているのに、このウイルスの死者は9人に過ぎない。感染力も風邪の方が強く、致死率もウイルスか風邪か原因がはっきりしないことを挙げ、これから北半球は温暖な季節に入るので5月までにはウイルスは死滅するだろうと予言する。
日本は今が踏ん張りどころだ
しかし、米国の事情はフメント氏の予言とは逆に急速に悪化しており、米国政府も「風邪説」を打ち消すのに躍起だ。
「新型コロナウイルスは季節性の風邪の少なくとも10倍の致死性があり、今後状況はさらに悪化することを覚悟しなければならない」
トランプ政権でウイルス対策のアドバイザーをしている国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ理事は、11日下院でこう証言した。
翻って日本でもこのウイルスを「季節性インフルエンザに毛の生えたようなもの」と言う人が感染症の専門家という人たちの中に少なからず居り、いまだに自説を曲げずに「ウイルスの影響は限定的なので、経済が崩壊する前にイベントの自粛などは止めるべきだ」という声が高くなっている。
しかし、マッキーニ医師はこれになんと言うだろうか。
「医療崩壊」を招かないためには、今が踏ん張りどころだと思う。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】