対岸の火事から一転「緊張」の日々

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こうして原稿を書いている間にも、刻一刻と感染者が増えているスペイン。

1月、2月に中国、日本やアジアで感染が始まった頃、当然のことながらスペインでは対岸の火事的な、日和見的なムードが蔓延していた。それが一変したのが、3月9日ごろ。いくつかの州での全校休校宣言、企業はテレワークを命じられ、休校実施は3月11日からという告知で全国に緊張が走り、先週末3月14日には首相による緊急事態宣言、全国民に一定の例外を除き、外出禁止という厳しい政策が取られている。

緊急事態を宣言するスペインのサンチェス首相
緊急事態を宣言するスペインのサンチェス首相

スペインでもやはり、前後にはトイレットペーパーの買い占めや、スーパーでの混雑は多少あり他の国と大差がなかった。外出禁止令が発令される直前にマドリード州から別荘地へ逃げた家庭も少なくなく、これがあちこちで新たな感染源となっているのではと、国民の怒りをかったのはイタリアのケースと同様だ。

冷静に受け止めるスペイン人

とはいえ、この2ヶ月間アジアのコロナ関連映像をこれでもかと観ていたスペインでは、いきなりの厳しい措置にもそれほど大きな反対がなく、この非常事態を冷静に受け止めているように思う。

スペインは政府への不満をすぐにデモや集会の形で伝え、時によっては政府転覆も可能にしたぐらいの勢いがあるが、今回は流石に厳しい措置に反対するわけにはいかない。経済への不安は大きいが、現時点では大多数が政府の禁令を驚くほど厳格に守っている。

マスクをする習慣が元々ない国だということ、入手困難な状況もあり、マドリード市内ではマスク着用者は少数組だ。

観光名所サクラダファミリアも閉鎖
観光名所サクラダファミリアも閉鎖

17日現在では、国境も陸路はコントロールされている。スペイン人、スペイン国内居住者、国境を越えて仕事に従事するもの、やむを得ぬ事情は証明書を持参が必須で、政府から招待されている領事団や、外交団などをのぞいて、国境での往来が禁止されている。軍医や軍の救急部隊の出動、治安維持のために陸軍や海兵隊の出動準備も整っているという。

政府が定めた外出禁止の条件

政府が定めた外出禁止の条件は以下の通り。

―食料品、薬局、通院、通勤、生活必需品、キオスクの購入以外での移動禁止

―高齢者、年少者、もしくは障害者などの世話のためや付き添いのための外出は可

ージョギングや散歩など、戸外でのレクリエーションは個人でも禁止

―犬など、ペットの散歩は可

―居住地への戻るための移動は可

―コインランドリーやクリーニング店、美容院など衛星関連施設への移動は可

―銀行への移動も可。

反則者には罰金100€(もしくはそれ以上との情報も)または1年以下の禁固刑もありうる。これを受けて商店の大多数は閉店し、マドリードはこれまで見たことのないようながらんとした街になってしまった。

プラド美術館も閉鎖
プラド美術館も閉鎖

感染者11,178名(前日比2000人増)(17日現在)
死亡者 491名
十万人あたりの感染者率、23,8

2名感染確認から、1週間で100名感染拡大。100人から1000人、1000人から4000人感染拡大に4日しかかかっていないのも政府が急速な対応を迫られた背景だ。ちなみに、3月8日世界女性デーのための集会は自粛されず、実行されたことも感染の環境を助長したとも言われている。

スペイン政府の対応

17日現在、この劇的な全国一斉の隔離環境を2週間継続しても結果が出ないとも言われており、長期戦も想定内だ。イタリアやフランスなどの対応を見ながら、スペイン政府もこの緊急事態での国民の生活を保証しようと必死だ。

街には警察官の姿が目立つ 街を歩く人に外出を控えるように指示
街には警察官の姿が目立つ 街を歩く人に外出を控えるように指示

現在政府が現在検討中の方針のいくつかを紹介しよう。

―ローン支払いのモラトリアム期間を設置

―水道ガスなど基本インフラの不払いによる差し押さえ禁止

―失業保険受け取りまでの簡略化

―一時的解雇の活発化への対応

―中小企業、自営業者の社会保険料最大100%まで軽減

など、17日現在詳細を協議中で、数日内に勅令が発令される予定だ

“人のつながり”と“笑い”が困難を救う

スペインでこの状況を観察していて痛感するのは、人とのつながりの強さと、この国の「笑い」の強さだ。確かに、会えば触り合い、抱きしめ合い、挨拶も両頬にキスだし唾がかかるぐらいの距離で喋りまくるという習慣が、今回のコロナ蔓延のきっかけになった可能性は大いにありうる。が、昨日の今日で?という感じで自宅軟禁されることになったあまりに急な展開を、笑い飛ばそうという人たちも大勢いるのが頼もしい。家族友人のつながりももちろんのこと、隣人同士の付き合いがあるのも普通な生活が、こうした状況下で幸いしているのは間違いない。Solidalidad(連帯)という意識も強いお国柄、なんとか乗り切ってゆくはずだ。

緊急事態宣言が発令された日、筆者は市内の市場で買い物をしていたが、隣の初老の男性が、「家内に食料と、宝くじを買ってきて」と命じられ、家を出たという。私が「え、今宝くじ買えるんですか?食料品店と薬局ぐらいしか 開いてるの見ませんでしたよ」と聞くと、男性は「宝くじは開いてるよ。夢は生活必需品だからね」と笑っていた(現在は宝くじ売り場も閉鎖中)。外出禁止令が解除された日には、今のスーパーの買い出しの人出どころではない、尋常ではない数の人々がバルに駆け込んで大変なことになるだろう、と言って買い物客らは笑っていた。

連日、夥しい量のmemeと呼ばれる、画像や一瞬のお笑い映像がワッツアップのグループやFB 、twitterで大量にシェアされている。軟禁日数が長くなるにつれ、ブラックユーモアが増えてゆくのかもしれない、と思う。この発令が15日間以上にならないことを祈るばかりだ。

映像で見るコロナと戦うスペイン人の連帯とユーモア

現在軟禁4日目だが、初日から全国各地で夜の8時にベランダや窓から医療従事者に感謝の拍手を1分間送るというオマージュが続いている。



ペットの散歩は可でも、ティラノザウルスはダメ

自宅軟禁でもパデルができます 。



スペインでは一社一人勝ちのスーパー、「メルカドーナ」の物資の流通が、国民の安心の指標となっている。メルカドーナの流通トラックが店を目指してとぶっ飛ばす。



アンダルシアではもちろん、セビジャーナスが響く 。



【執筆:ライター&コーディネーター 小林 由季(スペイン在住)】

小林 由季
小林 由季

95年よりスペイン在住。フリーランス通訳、ライター、コーディネーター 。
フラメンコ、闘牛、シエスタ、パエリア以外のスペインを伝えたいと、
様々な媒体と方法で日本とスペインをつなぐお手伝いをしています。