人間は感情表現が多彩な生き物だが、注意しなければならないのは「怒り」の感情だ。
抱えたままだと言動などに表れ、爆発して“キレる”こともある。誰かに当たってしまい、周囲の信頼を失うようなことだって考えられるだろう。

とはいえ、現代はストレス社会で理不尽なことやトラブルは日常茶飯事。ある程度のいら立ちは避けられないところだが、私たちはどう対処すればよいのだろう。

怒りやストレスは我慢しすぎると、体調の悪化などにつながることも(画像はイメージ)
怒りやストレスは我慢しすぎると、体調の悪化などにつながることも(画像はイメージ)
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こうした際の対処法として、“6秒待つこと”で怒りをコントロールする方法があることをご存じだろうか。怒りと向き合う心理トレーニング法「アンガーマネジメント」の教えで、衝動的な怒りを6秒で落ち着かせるという。

数秒待つだけで怒りが収まるのなら願ってもないことだが、その根拠はどこにあるのだろう。そして6秒間をどうやり過ごせばいいのだろうか。一般社団法人・日本アンガーマネジメント協会の小尻美奈さんに、ポイントなどを伺った。

怒りの発生から理性の介入までに約6秒かかる

――そもそも、アンガーマネジメントとはどんなもの?

怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング法です。人間は怒るとつい、感情を反射的・衝動的な行動で表現してしまいます。強い言葉で言い返したり、ドアを強く閉めるといった態度で表したりしがちですね。こうした、「あんなことで怒るんじゃなかった」という怒りの感情で後悔しないことを目指しています。

教えを学んだからといって怒りがすべて消えるわけではありません。怒る必要があることは上手に怒り、必要のないことは怒らないという見極めができることで、後悔しない怒り方ができるようになるのです。

日本アンガーマネジメント協会・小尻美奈さん
日本アンガーマネジメント協会・小尻美奈さん


――怒りを覚えたときは「6秒待つ」ことが大事というが、この根拠は?

さまざまな諸説があり、協会の調査などを踏まえて6秒としています。

例えば一つには、脳研究の説があります。怒りの感情は脳内の「大脳辺縁系」で生まれ、それを「前頭葉」で抑える構図となっています。そして怒りの発生から理性の発動までには、6秒程度の時間的なズレがあると言われているのです。

つまりその間をやり過ごすことができれば、理性が働いて上手に怒ることができるのです。6秒で怒りの感情が完全に消えるわけではないので、そこは誤解してほしくないですね。


「6秒待つ」間はどうすればいい?

――6秒の間はどうすればいい?お勧めの時間の使い方はある?

いくつが方法があります。代表的なのは、感じた怒りに温度・点数を付ける方法です。怒りを数値化する習慣を持つと、自分は何に対してどのくらいの強さで怒りを感じるのかという特徴や傾向が分かるため、怒りを客観視できるようになります。

例えば、怒りの温度を0~10段階として、0が「怒っていない」、10が「人生最大の怒り」とすると、8や9の出来事は自分にとって強い怒りになっている。そこに気がつけば「相手に伝えよう」「ルールを作ろう」といった対処法にもつなげることができます。

家族や同僚といった身近な人に怒りを感じた場合、その場を一度離れる「タイムアウト」という方法も有効です。身近な人には感情をぶつけてしまいやすいのですが、物理的に離れることでそれを防ぎ、落ち着くことができます。ただ、この方法を行う場合は事前に、「冷静になれないときは一旦その場を離れることもある」などと伝えておくといいですね。

このほか「自分ならできる」など言葉で自分を励ましたり、深呼吸したり、100から3を引くという簡単な計算でも意識が怒りからそれてクールダウンしやすいです。怒りの感情は何もしなければ6秒待つことが難しく、つい反射的な行動をしてしまうものなのです。

怒りを数値化すると、自分の傾向や特徴が分かるという(画像はイメージ)
怒りを数値化すると、自分の傾向や特徴が分かるという(画像はイメージ)


――逆にやってはいけないことはある?

「他人を傷つけない」「自分を傷つけない」「物に当たらない」ことですね。

他人を傷つけないことは、暴力だけではなく言葉や態度も含まれます。言葉は想像以上に引きずることもありますし。無視や人間関係の切り離しなどの態度や行動も傷つけますよね。

自分を傷つけないことは、自傷行為をしないのはもちろんですが、怒りを我慢しないことも大切です。怒りをため込む人は多いですが、許容範囲を超えると心も体もボロボロになってしまいます。許せないことや嫌なことなど、怒る必要のあることは表現していきましょう。

物に当たるというのは、物に当たることで怒りを解消しようとしている人です。怒る必要があるときは怒っていいですが、人や自分や物に当たるのは上手な怒り方ではありません。



反射的・衝動的に怒ると周囲などを傷つけてしまうが、我慢しすぎると自分を追い込むことにもつながってしまうという。怒る必要のあることはどう見極めればよいのだろう。

3つのタイプ別に見る「怒りの抑え方」

――怒る必要のあること、ないことはどう見極める?

アンガーマネジメントでは、思考のコントロールを「三重丸」のゾーンで考えます。自分の価値観・考えと同じ「許せる」、少し違うが受け入れられる「まあ許せる」、それ以外は「許せない」の範囲で、区別できるようにしようという考え方です。

このうち「許せる」「まあ許せる」は怒らなくてもいいこと、「許せない」は怒る必要のあることです。その判断基準は「後悔するかどうか」で考えてください。怒りを我慢する人は許せない範囲のことまで我慢して、苦痛やストレスを感じていることが多いです。

怒りを感じたときは、まずは6秒をやり過ごして、その後に「三重丸」の範囲で許せるかどうかを考える。もしも許せないことであれば、怒っていることを伝えましょう。

「許せる」「まあ許せる」以外は怒る必要があることという
「許せる」「まあ許せる」以外は怒る必要があることという


――怒りの傾向にも種類があるが、対処法に違いはある?

よく見るパターンを例に説明させていただきます。

一つ目は「怒りの強度が高いタイプ」。大声やオーバーリアクションで怒りを表現し、スイッチが入ると火山が爆発したかのように怒ります。このタイプは怒りを自分でヒートアップさせてしまうので、爆発する前の些細な小さな気持ちの変化に気付くことが大切です。

対処法としては、先ほどお伝えした怒りに温度・点数を付ける方法がお勧めです。また、語彙を増やすことも役立つでしょう。むっとした、癇に触ったなどと怒りに関連する言葉を覚えていると、自分の状態や怒りを周囲に正確に伝えることができます。


二つ目は「怒りの頻度が高いタイプ」。頻繁にイライラして、貧乏ゆすりなどの態度に表れやすいですね。このタイプはリラックス、気分転換できるメニューを用意しておくといいです。

アロマをたく、ストレッチやウォーキングするといった、心地よくなれる行動を時間や場所ごとに持っておくと、リラックスできる状態が作れて、イライラも発散できます。


三つ目は「怒りの持続性が長いタイプ」。怒りの持続性には個人差があり、一晩で忘れる人もいれば、何十年と引きずる人もいます。怒りは自然な感情ですが、長く引きずると憎しみや憎悪、怨恨にも置き換わることもあるので注意が必要です。

このタイプは過去の怒りにとらわれ、意識が「今ここ」にない状態です。瞑想やマインドフルネスなどで意識を「今ここ」に集中すると効果的でしょう。また、怒りの感情はモチベーションやエネルギーにもなるので、過去の怒りをどう受け止めたらプラスになるのかという視点で考えても、過去の怒りにとわられにくくなるでしょう。

怒りの傾向で対処法も異なる。自分がどれに当てはまるか考えてみよう(画像はイメージ)
怒りの傾向で対処法も異なる。自分がどれに当てはまるか考えてみよう(画像はイメージ)


怒りのタイプによって、対処法などにも違いがあるようだ。それでは怒りを実際に伝えたいときには、どう表現したらよいのだろう。

感情的に怒るのではなく「自分が望むこと」を伝えよう

――怒りの感情を表現したいとき、伝えたいときはどうするべき?

実は、怒りの正体は自分の中にあります。こうあってほしいという理想や欲求、自分にとって当たり前の常識といった、「○○するべき」が裏切られると怒りとなるのです。

そのため、怒るときは感情のままに相手を責めるのではなく、自分がしてほしいこと、望むことを具体的に伝えましょう。「私」や「自分」を主語にして、「私はこうしてほしい」などと伝えると、怒っていることを適切に表現できます


――怒りの感情をポジティブなものにするポイントはある?

怒りは「自分の理想」があるからこそ生まれます。怒りはその理想に近づくためのモチベーションにもなると考えてはいかがでしょうか。理想を実現するために必要な行動をノートなどに書き出しておくと、実際の行動にも移しやすいです。

自己肯定感が低いと、失敗に目が向いてイライラするという悪循環に陥りがちなので、その際は成功体験の記録を付けてもよいでしょう。自己肯定感を高めると、怒りの感情も建設的なエネルギーとして生かすことができます。

怒りの裏にある「本当の感情」を理解してほしい

――怒っている人に対して、周囲の人ができることはある?

家族や同僚など身近な人が怒りっぽいときは、その人がなぜ怒っているかを理解してあげてほしいですね。怒りの感情は単体で表れるのではなく、裏には不安、心配、悲しい、後悔などの感情が隠れています。その隠れた感情が「分かってもらいたい本当の気持ち」なんです。

怒っている人を見たときは、本当の感情は何だろうと考えて、寄り添う気持ちを持ってほしいと思います。相手の怒りの原因である「~するべき」を知ることで、むやみな刺激を防ぐこともできるでしょう。


――自分が怒りっぽいと思う人に、伝えたいことはある?

「怒ることは悪いことではない」と伝えたいですね。怒りの感情は大切なものを傷付けられたときに感じます。自分の大切なものを知らせてくれるサインでもあるのです。

私はこれを大切にしている、だから怒りを感じたんだと理解して、上手に表現することができれば怒りを生かすことができるでしょう。ただ、適切なマネジメントができないと周囲や自分を傷つけたり、物に当たって解消しようとしてしまうだけなのです。

怒りを呼び起こす「~するべき」は人それぞれだ(画像はイメージ)
怒りを呼び起こす「~するべき」は人それぞれだ(画像はイメージ)


怒りは自然な感情のため、怒ることは悪いことではないが、感じたままに表現すると周囲や自分などを傷付けてしまうこともある。

怒りの感情が湧いた場合は、理性が介入するまでの6秒を乗り越えてから、自分がどうしてほしいかを冷静に伝えること。周囲の人は怒っている人を見かけたら、その裏にどんな感情が隠れているかを考えると、互いの理解に役立つかもしれない。


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プライムオンライン編集部
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