米政界で最も注目すべきニュース
謹んで新春のお慶びを申し上げる。
新年初回のコラムなので、今年 米政界で最も注目すべきニュースを紹介しておきたい。それは「ワシントンに仕掛けられた時限爆弾」とも言える「ロシア疑惑の疑惑」捜査のことだ。この問題は、成り行き次第では11月3日の大統領選の行方を左右すると考えられる。
いわゆる「ロシア疑惑」については、すでにロバート・ムラー特別検察官が「トランプ陣営とロシアとの共謀の事実なし」と昨年5月に発表して一件落着しているが、それではなぜ「ロシア疑惑」が持ち上がり連邦捜査局(FBI ) などがトランプ陣営を追求したのか、「疑惑の疑惑」を司法省が刑事事件として捜査を行なっている。
捜査はジョン・ドーラム検察官が担当し、ウィリアム・バー司法長官とイタリアや豪州などにも足を運んできて、今やまとめの段階に入っていると言われる。
「ロシア疑惑」の震源地はウクライナ?
捜査の結果は漏れてきていないが、大筋では次のようなシナリオが考えられている。
まず「ロシア疑惑」の震源地はウクライナだったという疑いだ。
旧ソ連崩壊後に独立したウクライナでは親ロシア派と反ロシア派が激しく勢力を争っているが、親ロシア派の米国でのロビイストだったポール・マナフォート氏が2016年6月にトランプ選対の本部長になると、反ロシア派はトランプ政権が誕生することに危機感を抱き米国で反トランプ工作を始めた。
ウクライナ系のアレクサンドル・チャルーパという米国人女性が中心になり、駐米ウクライナ大使館に働きかけて大使に「トランプ候補は誤ったメッセージを世界に送っている」と米国の政治専門のニュースサイトに投稿させたり、民主党全国本部に「トランプ陣営はロシアと結託している」と警告した。
この後しばらくして、トランプ選対の外交問題顧問だったジョージ・パパドポロス氏にマルタ島出身の大学教授のジョセフ・ミフスードという人物が接触してきてローマで会うと、「ロシアがクリントン候補が不利になるメールを多数持っている」と話した。その後ミフスート教授はロンドンでロシアのプーチン大統領の姪だという女性を紹介し、ロシアに行くよう奨めたがパパドポラス氏は警戒して応じなかった。
すると、今度は豪州の英国駐在大使のアレクサンダー・ダウナー氏がパパドポラス氏に接触してきて二人はロンドンのバーで会った。パパどポラス氏はこの時大使にロシアの話はしなかったと、その著書「Deep State Target (闇の政府の標的)」に書いているが、大使はパパドポラス氏が「ロシアはクリントン候補が不利になるような情報を多数握っている」と話したと本国経由で米国に通告し、FBIなどが知ることになった。
その後一連の疑惑の発端となったミフスード氏は姿を消してしまったが、ウクライナに愛人と子供がいることが分かりこれもウクライナつながりの話になってきた。
ミフスード教授は「ロシアのスパイ」か「CIA工作員」か
同教授についてはムラー特別捜査官も調べて「ロシアのスパイ」とし推定していたが、パパドポラス氏は「FBIか中央情報局(CIA)の工作員だったと思う」と著書に書いており、米国の治安当局内の民主党支持者のトランプ陣営を陥れるための工作だったと考えている。
事実、この後FBIなどのトランプ陣営に対する警戒が強化されて盗聴なども行われたが、その許可の根拠に使われた怪しげな「スチール文書」をめぐってクリントン選対が多額の資金を提供していたり、盗聴の手続きでも多くの不正があったことが司法省の監察官の調査で明らかになっている。
「ロシア疑惑」は「ウクライナ疑惑」に繋がる?
この「疑惑の疑惑』捜査の結果次第では、米政界を騒がした「ロシア疑惑」が実は「ウクライナ疑惑」にもつながり、その背景にトランプ氏に反感を持った公安担当者と民主党の幹部がいたという構図があぶり出されるのではないかと共和党の関係者は期待している。
そうなった場合、トランプ大統領への「弾劾訴追」の根拠も崩壊するようなスキャンダルになって、民主党側を追い詰めるようなことになるかもしれないので要注目なのだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】