アジアで消えゆく北朝鮮労働者

東南アジア各国で、外貨を得るために出稼ぎに来ていた北朝鮮の正規労働者が次々と姿を消している。国連安保理の制裁決議を受けて、アジア各国が北朝鮮労働者の送還に本腰を入れたためだ。

最も早く対応に乗り出したのはタイだった。
2019年11月29日夜、タイ入管当局はバンコク市内にある北朝鮮運営のレストラン「平壌ヘマジ食堂」を摘発した。そしてオーナーの北朝鮮の男(43)を、許可なく外国人労働者を住まわせた入管法違反の疑いで拘束。シェフやウェイトレスとして住み込みで働いていた北朝鮮の女6人も拘束した。このレストランは日本人観光客にも人気の店として知られていた。民族衣装を着た20代のウェイトレスが、流暢な日本語と軽快なダンスを披露し、「恋するフォーチュンクッキー」など日本語で歌うショーがあることでも有名だった。タイ入管が店に踏み込んだとき、レストランは営業の真っ最中だったという。摘発後、この北朝鮮レストランは閉店に追い込まれた。

摘発された北朝鮮運営のレストラン(タイ・バンコク)
拘束された北朝鮮からの労働者ら

多額の投資するも資金回収できず

また北朝鮮と歴史的に深いつながりがあるカンボジアでも北朝鮮経営施設の閉鎖が相次いだ。首都プノンペンなどで営業していた北朝鮮レストラン6店舗は次々と閉店に追い込まれ、従業員らが深夜、ひっそりと店舗から立ち退く様子も確認された。また、世界遺産アンコールワット遺跡群で知られる観光地シエムレアプでも、北朝鮮が運営に関わっていた「アンコール・パノラマ博物館)が営業停止に追い込まれた。この博物館は、北朝鮮が2400万ドル(約26億円)を投じて2015年に開業したもので、北朝鮮スタッフが常駐していた。多額の投資をして開業した施設が、資金回収を待たずに閉鎖に追い込まれるのは、北朝鮮にとっては大きな痛手である。

営業停止した博物館(撮影:三輪悟さん)
営業停止を知らせる張り紙(撮影:三輪悟さん)

こうした動きは、2017年12月に採択された国連安保理の決議に基づいたものだ。決議は2年以内に出稼ぎ労働者を北朝鮮に送還するよう加盟国に義務付け、2019年12月の期限に向けて、東南アジア各国が制裁を厳しく履行したことが伺える。

北朝鮮の不法労働者の存在

このように東南アジアでは、就労ビザを正規に取得して働いていた北朝鮮労働者の多くが送還されたとみられている。しかし、ビザを持たずに不法に働く北朝鮮労働者は多く存在する。それを裏付ける事件が2020年1月に起きた。

2020年1月3日、カンボジアのシエムレアプ州警察は、国内は非合法の「オンラインカジノ」を運営する組織が入るビルを摘発した。そこでIT技術者として働いていた男ら16人を拘束した。警察による事情聴取の結果、16人は北朝鮮から出稼ぎにきていたと判明。男らは観光ビザで去年9月に入国し、ビザが失効した状態で働いていたことが分かった。
警察は罰金刑を科した上で、男らに出国命令を出した。警察担当者は地元メディアに対し、「カンボジアは国連加盟国であり、制裁決議を守る必要がある」と、今後も履行を徹底していくことを強調した。

拘束された北朝鮮の不法労働者(地元メディアより)

このケースでは、地元警察当局が国内で非合法であるオンラインカジノの拠点を摘発し、たまたまそこで働いていたのが北朝鮮からの労働者だった。

彼らが出稼ぎ先として工場や鉱山、レストランなどで働いていることで知られるが、実はこのようなIT技術者も多い。サイバー攻撃に力を入れる北朝鮮のIT技術は相当高度で、北朝鮮によるサイバー銀行強盗の疑いがある事例もいくつか指摘される。中国にもIT関係の北朝鮮労働者が相当数いるともいわれる。不法労働者は国連制裁期限を過ぎた今も、各地で働き、北朝鮮に外貨を送金している可能性が高い。

本来、制裁決議は北朝鮮が核やミサイルを開発するための資金源を断つためのものである。そのためには、外貨獲得を目的とした不法労働者の摘発を含めた厳しい措置が関係各国に求められている。

【執筆:FNN バンコク支局長 佐々木亮】

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