動物を飼育していない小学校が増加傾向

校庭の片隅にある飼育小屋で、生き物係がニワトリの世話をする。

こういった光景は一昔前は当たり前だったが、大手前大学・中島由佳准教授の調査で無くなりつつあることが明らかになった。

調査は大きく分けて2つあり、1つは2017年7月~2018年10月に全国の小学校2062校に電話で、「動物の飼育の有無」や「飼育している動物の種類や数」などを聞いたもの。

もう1つは、2019年7月に大学1~4年生の671人に対し、出身小学校における動物飼育の同状況を聞いたものだ。調査に協力した大学1~4 年生が小学校に在籍していたのは2003年~2012年となる。

そして中島准教授は、この2つの調査を元に“2003年~2012 年”と“2017年~2018年”における小学校の動物の飼育状況を比較。「動物を飼育はしていない」と答えた割合は、“2003年~2012 年”の6.6%に対し、“2017年~2018年”は14.2%。約8%増加したことが分かった。

(画像提供:中島由佳准教授)

ニワトリを飼育している小学校は半減

具体的に飼育している動物については、「鳥・哺乳類」が“2003年~2012年”には86.4%あったが、“2017年~2018年”には49.1%と減少。

一方で「魚・両生類、昆虫」は、“2003年~2012年”は13.6%だったのが、“2017年~2018年”は50.9%となり、こちらは大幅に増加している。

(画像提供:中島由佳准教授)

飼育している動物の割合をさらに詳しく見ていくと、「ニワトリ」は“2003年~2012年”には11.9%あったが、“2017年~2018年”には5.9%となって半減。

「ウサギ」は“2003年~2012年”には26.5%あったが、“2017年~2018年”には21.1%に減少している。

一方で、「メダカ・魚類」は“2003年~2012年”には31.8%だったのが、“2017年~2018年”には55.2%となり、大幅に増加している。

(画像提供:中島由佳准教授)

こうした状況になっている理由について、中島准教授は「2004年以降に流行した鳥インフルエンザの影響があったのではないか」と分析。厚労省のHPでは、「鳥インフルエンザは、トリに対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスのヒトへの感染症」と説明している。

しかし、“鳥インフルエンザの影響”で「ニワトリ」はまだしも「ウサギ」まで減少しているのはどういうことなのか? 大手前大学現代社会学部の中島由佳准教授に詳しく話を聞いた。

児童にうつるという万が一の可能性を恐れ、飼育が減少

――ニワトリを飼育する小学校が減っている理由として「鳥インフルエンザの影響」をあげている。これはどういうこと?

日本では、鳥インフルエンザが人に感染した症例は報告されていません。

しかし、ニワトリなどが鳥インフルエンザに感染し、そこから児童にうつるという“万が一の可能性”を恐れて、飼育が減少したと考えられます。

――ニワトリ以外の動物、たとえば、ウサギを飼育する小学校も減っている。この理由としては、どのようなことが考えられる?

鳥インフルエンザの流行以降、動物の飼育において教員の負担が増大した点、また「安全・安心」の担保や説明責任が重要な世の中となったことが大きいと感じます。

動物の世話、特に“長期休暇中の世話”は、鳥インフルエンザの流行以降、児童から教員に比重が移りました。

2004年の鳩貝太郎さんによる調査では、“長期休暇中の世話”は「児童が当番で世話」が26.4%で最多だったのに対し、私の2017年~2018年の調査では「児童が当番で世話」が18%に減少。「教員が当番で世話」が57%で最多となっています。

これは、鳥インフルエンザの脅威が去った後も、アレルギーや感染への懸念、長期休暇中の学校への行き帰りでの事故などへの懸念などを排除するために、動物の飼育を避けたり、長期休暇中の動物の世話を教員が担ったりするようになったためだと思われます。

このように、心理的にも仕事量の面でも教員の負担が大きくなり、新たに動物を飼うことができにくくなった面があります。

――一方で「メダカ・魚類」を飼育する小学校は大幅に増えている。

メダカは、小学5年生の理科の教材として学習指導要領に示されているため、多くの小学校で飼われている事実があります。

今回の2017年~2018年の調査では、教材として飼われているメダカも「飼育している動物」としてカウントしました。

しかし、子どもたちにとって、教室のメダカは「理科の教材」であり、「学校で飼われていた」という意識が乏しいのかもしれません。

「学校での動物飼育」は今、曲がり角に来ている

――調査によって明らかになったことを受け、感じていることは?

今の日本では、動物を飼っている世帯は約3割で、その約80%が室内飼い。子どもたちが動物との触れ合いや世話を通して、思いやりの心を育む機会はどんどん減ってきています。

その中で、学校に動物がいることは子どもが動物と触れ合う大事な機会です。学校での動物の世話や触れ合いにより、学校で過ごす時間が楽しくなったり、人や動物への共感性が高まったりすることが、学校動物に関する研究で確かめられています。

動物との接触から生じる児童へのリスクを恐れるあまりに、学校での動物飼育がなくなっていくと、抱いて温かく、愛着を感じやすい「鳥・哺乳類」と触れ合う機会が子どもの生活から失われてしまう。

動物との触れ合いを通して、“命の大切さや思いやりを学ぶこと”と“教員の負担の軽減”。これらをどうすれば両立できるのか。「学校での動物飼育」は今、曲がり角に来ていると感じます。

――子どもたちが動物と触れ合う機会を増やしていくためにはどうすればよい?

「小学校を地域がどうサポートしていくか」が一番のカギだと思います。

学校の先生たちは、日々の多忙の中で、動物が快適に暮らせるよう、飼育にあたる児童とともに心を砕いています。

(1)動物が快適・幸せに生活できる質の高い飼育環境を確保しつつ、(2)教員の負担も軽減して、(3)子どもたちも動物との触れ合いによって命の大切さを学ぶ。

この3つを満たすためには、小学校を取り巻く地域のサポートが必要です。

具体的には、学校が保護者や地域の方たちに相談をしたり、協力をお願いしたりできる体制を作っていくこと、校区の獣医師や動物園などの施設が、動物の貸し出しや管理・世話の手助けをするなどが、考えられます。

学校を支えていくことが重要なのではないか。そう考え、道を模索しているところです。


鳥インフルの流行をきっかけに、教員の負担が大きくなったことなどから小学校の動物飼育が減っている事実の一方で「動物との触れ合いや世話を通して、思いやりの心を育む機会が減っていくこと」への懸念があるのが今の状況のようだ。

中島准教授が提案するような、小学校を取り巻く地域のサポートなどで、児童が命の大切さを学ぶ機会は失って欲しくないものだ。