中国の習近平政権は「文化大革命2.0」とも評される改革の手を緩めず、今度は巨大産業集団のトップ2人の身柄を拘束した。

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大手企業トップの相次ぐ“摘発”

中国の複合企業「海航集団」は9月24日、陳峰会長と譚向東 最高経営責任者(CEO)が犯罪の疑いで公安当局の強制措置を受けたと発表した。

同社は航空、不動産、観光、金融サービスなどに関わるコングロマリットだが、放漫経営に加えて新型コロナウイルスの影響で、今年始めに経営破綻したと発表されていた。

その経営陣トップ2人に対する具体的な容疑は明らかではないが、ニューヨーク・タイムズ電子版の9月24日の記事は、「中国共産党が経済への悪影響や党の権力掌握の上で危険とみなす企業活動に対して、圧力をかけるようになってきたことがその背景にある」と分析している。

海航集団は、政治的な支援を受けて急激に発展し、その一方で浪費の限りを尽くした“中国のコングロマリット成功第一世代の象徴”とも言われたが、それが崩壊すると国民への影響も大きい。
すでに中国共産党は、格差是正を目指す「共同富裕」政策を打ち出し、民間企業に対して寛容だった従来の政策を軌道修正した。

これは同じ日、中国の最高級の茅台酒などを製造する貴州茅台グループの袁仁国元会長が、収賄罪により無期懲役の判決を受けたことや、デフォルト(債務不履行)の危機が迫る不動産開発企業「恒大集団」の運命にも関わるものだとニューヨーク・タイムズの記事は見る。

「恒大集団」本社ビル(広東省深セン 2021年9月23日)

「共同富裕」で企業を支配

「共同富裕」については、習近平国家主席が8月17日の共産党の重要会議で「共同富裕は社会主義の本質的要求だ」と述べたことを受けて、電子商取引大手「アリババ」が1000億元(約1兆7000億円)を拠出し、党が企業を支配する手段としての性格が見えてきた。

これは「先に豊かになれる者を富ませ、落伍した者たちを助ければ良い」という鄧小平氏が提唱した「先富論」と対立する考えで、「先に富める者」を輩出させた「改革開放」政策を否定することにもつながる。

チャイナウォッチャーの遠藤誉さんは「習近平主席は鄧小平氏を希薄化させようとしている」という見方をする。

習主席の父・習仲勲氏が、革命の勇士とされた人物の伝記をめぐって反党的だと鄧小平氏から批判されて失脚したからだと遠藤さんは考える。

いずれにせよ、鄧小平氏を否定することは、鄧氏が否定した文化大革命を肯定し、それを推進した毛沢東初代主席の「造反有理」つまり謀反を正当化する考えに戻ることに他ならない。

文化大革命初期に天安門広場で群衆に手を振る毛沢東氏(北京 1966年)

習主席の思想を教育課程に導入

その仮説を裏付けるように、ここへきてまず芸能界が槍玉に上がり、アイドル育成番組などが禁止された。また、未成年者へのオンラインゲームの提供は週末の1時間に限定するよう指示が出た。その一方で、中国の小学校から大学までが習主席の指導思想を教育課程に導入することが発表された。

これは、半世紀前の文化大革命の際に、芸能人が「反革命分子」として粛清されたり、学校では革命理論ばかりが教えられるだけでなく、教職員は「反動的権威主義者」と糾弾されて、中国の教育制度が破壊されたことにつながるのではないのか。

 

さらに、文化大革命の際は紅衛兵たちが「毛沢東語録」の赤い冊子を手に行動したが、習主席も2021年のはじめに「中国共産党簡史」を出版し、全国民が読むように推奨されている。文化大革命を評価する表現もあるらしいが、陰では「習中共簡史」と揶揄されているという。

中国は2021年に共産党設立100周年を迎えたわけだが、それを機に「文化大革命2.0」に本格的に着手したのか注意して見守らなければならないだろう。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】