予算案から「母親」が消え「出産する人」へ

米国の「言葉狩り」がさらに加速し、バイデン政権の予算案から「母親」という単語が消え「出産する人」に書き換えられていた。

それが明らかになったのは22年年度の予算を審議する上院財政委員会でのことで、六日ジェームス・ランクフォード議員(共和党・オクラホマ州選出)と保健福祉省のハビエル・べセラ長官との間で次のような問答が交わされた。

ランクフォード議員:「予算案の中で言葉遣いを変えたことに気づきました。”母親”というべきところを”出産する人(birthing people)”としていますが、この”出産する人”の定義を教えくれませんか?」

ランクフォード議員(事務所HPより)
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べセラ長官:「その言葉遣いについては調べてみますが、子どもを産む人を指すことを言っているのだと思います。他に説明のしようがないのですが・・・

ベセラ長官(保険福祉省HPより)

ランクフォード議員:「私は、本来”母親”とあるべきところが”出産する人”に書き換えられているのを読んで、ちょっと困惑しているのです。これは今後こういう風にするよう指示されたことなのですか、それとも新しい規則なのですか、いずれにせよどんな目的なのですか?」

べセラ長官: 「それは多分・・・、いずれにせよこの予算案でその言葉が使われた理由を調べなければなりませんが・・・、単に予算編成作業を反映したものだと思いますが・・・」

ランクフォード議員:「言葉は常に大事にしなければなりません。”母親”を”出産する人”と呼ぶのは侮辱的なことだと認めませんか。5月の母の日に”ハッピー出産の人”というカードを貰うことになるのですから、お母さんにとって侮辱的な表現だとは思いませんか?」

べセラ長官:「議員、この後この言葉を塾語学的に分析してお答えしますが、我々は言葉遣いに正確でありたいだけなのです」

問題の表現は、バイデン政権の2022年度の保健福祉省関連予算案の中で、妊産婦死亡率を引き下げる必要を強調する次のような文書の中にあった。

「米国の妊産婦死亡率は先進国の中で最も高くなっている。特に黒人や原住民、その他の有色人種の女性の死亡率の高さは受け入れるわけにはゆかない。この妊産婦の死亡、特に人種の異なる出産する人の間での不均衡を終えるよう援助しなければならない」

バイデン政権の関係者は、この言葉を使うことについて公式には釈明していないが、全米妊娠中絶権擁護連盟(NARAL)はかねてこの言い換えを支持し、こうツイートしていた。

「”出産する人”と言えば、誰もが含まれている。簡単なことだ。妊娠を語るときは性別に中立でなければならない。女性が独りで妊娠して出産するわけではないからだ。生殖の自由は"皆んな”のものだ」

つまり、「出産」は「母親」という女性だけの問題ではなく、妊娠に関わった男性を含めて論議すべきだということなのだろう。

「言葉狩り」が加速するアメリカ

その是非はともかく、米国ではバイデン政権の誕生以来社会正義に「woke(目覚める)」動きが盛んで、特に旧来の言葉遣いを糾弾する「言葉狩り」が勢いを得ている。

米下院でも、新会期の始まりに当たってナンシー・ペロシ議長(民主党・カリフォルニア州)が議会内で性差別につながるような表現を禁止した。「父、母」は「親」に「叔父、叔母」は「親のきょうだい」などと言い換えるよう規則を設け、議会の祈りの最後に「アーメン(男性)アンド・アーウーメン(女性)」と締め括って話題になったこともある。

ナンシー・ペロシ下院議長

「出産する人」も、その「言葉狩り」の流れの中の一つと考えられるが、ランクフォード議員のように保守派はこれを政治問題化しようとしており、米政界の波乱要素になりそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】