今は東京で会社勤めをしているが、将来は実家の家業を継ぐべきなのだろうか?

渋谷のITベンチャー企業で働く前田洋平さんも、そろそろ「後継ぎ」に決着をつけなくては、という思いを抱えながら日々を送る一人だった。

ある日、通勤中に「#(ハッシュタグ)東京せがれ」というコミュニティを立ち上げ、継ぐ人、継がない人、悩んでいる人がカジュアルに情報交換できる場を作ってはどうだろう?と思いつき、その日の夜にFacebookでコミュニティを作成。

2018年7月に立ち上がった#東京せがれは、SNSや口コミで参加者を増やしながら、30代前後の“せがれ”男女を中心に、これまで数回のイベントを開催してきたと言う。

#東京せがれで議論されるリアルな後継ぎ問題。いったいどのような内容なのだろうか? 発起人の前田さん、そして「継いだ」株式会社丸山製麺取締役の丸山晃司さん、今まさに「悩んでいる」関根さんに話を聞いた。

左から関根さん、丸山さん、前田さん(渋谷のラジオ「渋谷社会部」より)
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ーー「後継ぎ」の当事者たちが、カジュアルに情報交換できる場「#東京せがれ」ですが、立ち上げの経緯は?

前田さん:私は普段は渋谷のインターネット企業に勤めていて、事業承継に関するサービスの責任者をしています。また、実家の岐阜県で父親が事業をやっており、「継ぐ・継がない」は自分ごとでもありました。

ただ、この「#東京せがれ」に関しては、ちょうど昨年の自分の誕生日だったのですが、通勤中にそのワードがふと天から降りてきて、その日のうちにFacebookでグループページを立ち上げました。


ーー丸山さん、関根さんが「#東京せがれ」に参加したきっかけは?

丸山さん:私の実家は大田区で製麺業をしています。家業を継ぐことは以前から周りに話していたのですが、前田さんとの共通の友人がいて、その人が「こんな事やってる人がいるよ」と#東京せがれの活動を教えてくれて、参加することになりました。

関根さん:私の実家は埼玉県の小川町という所で自動車部品のメーカーを経営していて、今まさに「継ごうかなあ」と迷っている状況です。前田さんと同じ会社で働いているので、この活動を知りました。「後継者」や「後継ぎ」という同じ課題を抱えている人に普段はなかなか出会う機会が無いので、このような場でざっくばらんに話してみたいなと思い参加しました。


ーーどのようなイベントを開催しているのでしょう?

前田さん:
前回は高円寺にある銭湯「小杉湯」で開催しました。実際に「せがれ」の方が継いだ銭湯です。とても素敵な銭湯なのですが、その回は彼が継いだ背景を軸にしながら、銭湯の中でトークイベントを開催しました。

ミートアップの様子(高円寺・小杉湯、写真:#東京せがれFacebookページより)

前田さん:せがれの人たちは一辺倒ではないんです。100人いれば100通りのせがれのスタイル、親子の関係、会社のカタチがあり、こうしたサンプルを知ることで、個人の選択にいい影響を与えるのではないかと思っています。

ーー丸山さんは実際に継がれた訳ですが、現実はいかがですか?

丸山さん:
前提として、製麺業界全体としては、会社の数が減ってきていたりと、厳しい環境ではあります。私は30で家業に戻ると決めていたので、それまでに一番成長できる業界はどこだろうという観点で就職活動をし、新卒で渋谷にあるVOYAGE GROUPというインターネット企業に入り、約8年ほど経験を積みました。

そのような経緯もあり、今はフードテック系のスタートアップ企業とコラボレーションした商品を開発したり、異業種の同じ「せがれ」同士で協業を模索したりと、製麺業界に新しい施策を持ち込むようなチャレンジをしています。

ーーワクワクするお話です。関根さん、「迷っている」立場としては、このようなお話を聞いてどのように思われますか?

関根さん:私の実家も業界としては縮小していますので、その中で新しいチャレンジをするのは勇気がいるし、ハードなことで、本当にすごいと思います。


ーー丸山さんはせがれコミュニティの中でも、一目置かれる存在?

関根さん:それはありますね(笑)参考になりますし、自分の家業にも生かして行けたらと思います。埼玉県小川町はもともと「紙すき」で有名で、その技術をもとにして自動車のパーツ製造を始めたのです。なので「何でも紙にする事ができる」という根本の発想に戻って横展開を考えたら、何か新しい事ができるかもしれない。


ーーなるほど、面白い発想ですね。そのようなアイデアは現社長であるお父さんともよく話されるのですか?

関根さん:
最近になって、ですね。私自身、社会人としての経験を経て、自分で経営をするという事に興味が湧いてきたからというのもあります。父親からは「何か新しい事にチャレンジしたかったら、その為の資金は貯めてあるから好きに使っていいんだぞ」と言われました。

ーー完全にウェルカムモードじゃないですか(笑)

関根さん(左)、丸山さん(中央)、前田さん(右)

ーー本業の方でも事業承継のサービスを担当されている前田さんとしては、この「事業承継」や「後継ぎ」といった業界に、どのような課題を感じていますか?

前田さん:
全国の自治体もこの課題にとても熱意を持って取り組まれている事を承知しています。その上でですが、たとえば「事業承継セミナー」と言うと、四角い会議室で、参加者はご年配の方々が大多数で、と堅いイメージがあると思うのですが、それは何か違うのではないのかなと。

後継者として当事者である若い世代も参加しやすいような場を作る事で、良いアイデアが出たり、地方の課題解決につながったりするのではと考えています。#東京せがれには#ハッシュタグを付けていて、主催者が誰という事は問題ではなく、共感してくれる人が次第に集まって、自律的、有機的に活動が広がっていく事を願っています。

丸山さん:私の属する製麺業界で言いますと、皆さん「このままじゃダメだ」という思いはあるのですが、では何をしたらいいか?新しい一歩を踏み出すのが難しいんですね。私はたまたまインターネット業界の経験がありますので、ネットの視点で新しいことを持ち込んでみて、「これはいけるね」となったら、業界の皆でアクセルを踏み込んでいく、というやり方もあるのではと考えています。


ーーそれでは最後に、今後の展望をお聞かせください

関根さん:私はですね、年内には継ぐか継がないかを決断します。おそらく、継ぐことになるとは思うのですが。。

一同:おおっ(笑)

丸山さん:私は継いだ身に恥じないよう、製麺業界ひいては日本を代表する食の領域で成果を残したいという気持ちを新たにしました。特にスタートアップとのコラボレーションについては積極的に取り組んでいきます。

前田さん:私からは最後にまとめのメッセージという事になりますが、事業承継問題というのは“オヤジ”ではなく“せがれ”の問題なんです。次はあなたの番なんですよ、と。継ぐ人も継がない人も悩んでいる人も、みんなで一緒になって解決していければと思っています。

(進行:FNN.jp編集部 寺 記夫)