目的は「政権の座から引きずり下ろすこと」
トランプ大統領に対する弾劾は「クーデター」に他ならないようだ。
米下院では13日から弾劾のための公開の聴問会が始まるが、この弾劾のきっかけをつくった「内部告発者」の代理人の弁護士マーク・ザイード氏は、トランプ大統領が就任直後の一昨年1月30日に次のようなツィッターを発信していた。
「クー(デター)が始まった。一つ(選挙)は失敗したので代わりに二つで戦う。反逆と弾劾だ」

大統領選でトランプ氏がヒラリー・クリントン候補を破ったことは、民主党支持者にとって到底受け入れられないことだったようで、ザイード氏に限らずトランプ大統領を政権の座から引きずり下ろすことを公言したものは多数いた。

ワシントン・ポスト紙も一昨年1月9日(大統領就任式の11日前)の論評欄に「トランプを執務室から追い出すには」という同紙コラムニストのリチャード・コーエン氏の次のような一文を掲載していた。
「ドナルド・トランプは嘆かわしい一人芝居を演じている。彼は大言壮語の嘘つきだ。彼はまた無知で怠け者でペテン師で、本物の人種差別主義者か偽物のそれかどっちかだ。彼の自己愛は私の憎悪でバランスが取れるほどだ。その彼が合衆国大統領にならんとしている。憲法上のクー(デター)が目前に迫っている。(以下省略)」
「そこまで言うか」と思えるほどの悪口雑言だが、民主党支持者は当然としてオバマ政権時代から行政に携わってきた官僚、さらにオバマ政権のリベラルな政策を支持してきたマスコミにとって、破天荒なトランプ大統領を受け入れることは到底できなかったことだろう。
トランプ大統領を陥れる「反逆」の数々

そこで、次の選挙を待たずにトランプ大統領を陥れる「反逆」がいくつも図られた。司法省のロッド・ローゼンスタイン副長官(当時)はトランプ大統領就任数ヶ月後に、隠しマイクで大統領の暴言を録音して「その任に非ず」と合衆国憲法25条を適用して罷免することを部下の前で公言したり、同じローゼンスタイン副長官はいわゆる「ロシア疑惑」をめぐって民主党支持者のロバート・ムラー特別検察官に捜査をさせた。
その間に、CNNを始め多くのマスコミも応援団のように大統領を否定的に伝えていったが、前出のザイード氏は2017年7月にはこうもツィートしていた。

「ショッキングなことではない。トランプが大統領の任期を全うできなくなるような動きの中で、CNNの役割がカギを握ると私は予言する」
「クーデター」のための役者が揃った
その「ロシア疑惑」は今年5月にムラー特別検察官が「容疑なし」とした報告書を発表して「クーデター」の理由にはできなくなったが、代わりに浮上してきたのが「ウクライナ疑惑」だった。
今回の主人公は民主党員で現役の中央情報局(CIA)のウクライナ問題の分析官。トランプ大統領がウクライナ大統領に捜査を依頼したバイデン前副大統領の部下だったという人物で、「クー(デター)が始まった」とツィートした弁護士が代理人になり、民主党でもトランプ嫌いの急先鋒のアダム・シフ下院議員(カリフォルニア州選出)が聴問会の議長を務めるとあって、文字通り「クーデター」のための「役者が揃った」と言える。

「クーデター」を辞書で引くと「国家への一撃の意、非合法的手段に訴えて政権を奪うこと。通常は支配層内部の政権移動をいい、革命と区別する」とある。米国では弾劾は合衆国憲法で認められているから「非合法的手段」とは言えないかもしれないが、国民の意思を反映する選挙で選ばれた指導者をただ「嫌い」なだけで追及して罷免しようとすればやはり「クーデター」だろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
