中東での停戦は長続きしない

「停戦とは、武器弾薬を補給するための時間稼ぎのことを言う」

中東の紛争を取材するときによく聞かされた言葉だ。

内戦など限定的な戦闘の場合なら、停戦状態が保たれるのはせいぜい一週間程度だ。その間に双方は武器弾薬を補給し、市民も食料を買い込んで新たな戦闘再開に備える。

国際的な紛争の場合は、停戦監視団のような組織が介入すれば砲声が轟かない日が多少は続くが、中東では停戦は長続きしないと言うのが常識だ。

今回停戦合意したガザ地区でのハマスとイスラエル軍との衝突も、 2005年に同地区がパレスチナ自治区となって以来ほぼ毎年繰り返していた。

5月10日に始まった攻撃の応酬では、ガザ地区で243人、イスラエル側で12人が死亡した
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平穏だったのは、2021年にかけての数年間だけで、この間に何があったかといえば米国のトランプ政権が中東各国とイスラエルの和解をもたらす「アブラハム協定」を推進していたことで、パレスチナ問題が再燃する余地がなかったからだとも考えられる。

パレスチナ勢力内での地位を高めたハマス

そのトランプ政権が去るのを待っていたかのように再開された今回の武力衝突、とりあえず双方が停戦に合意したものの、いずれ戦闘が再開されるのは避けられないというのが大方のアラブ識者の見方だし、米国の権威ある外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』電子版には、停戦前の19日に次ような見出しの記事が掲載されていた。

「ガザでの戦闘は、より暴力的な時代の幕開けに過ぎない。(中東問題の解決策)二国家解決案の模索は終わった)」

筆者はパレスチナ政策調査研究所のハリル・シカキ所長で、今回の武力衝突のきっかけとなったエルサレムの聖地アル・アクサモスクでのイスラエル側との衝突の際、パレスチナ自治政府の主流派が手をこまねいていた時に、過激派武装集団ハマスの勢力がいわば「命を賭して」戦ったことがパレスチナ人民の圧倒的な支持を得ることになり、今後の自治政府の運営に大きな影響力を持つことになったと分析する。

それは、イスラエル側との対立の激化であり、パレスチナ自治政府のアッバス議長が進めていたイスラエルとの「二国家解決案」の「死」をも意味するとしている。

ネタニヤフ首相も強硬策で延命

一方イスラエル側でも、強硬派のネタニヤフ首相にとって大きな「勝利」だったと言われる。

停戦を発表するイスラエルのネタニヤフ首相

ネタニヤフ首相のリクード党は、2021年3月の総選挙で過半数を取れず、反対派が結集して連立内閣結成が確実視され、ネタニヤフ氏は12年間続いた首相の座を失うのも時間の問題と言われていた。

しかし、今回の武力衝突でハマスに対して執拗な攻撃を命じたネタニヤフ首相に対して国民の支持が集まり、反対派の足並みが乱れてリクード党との連立を模索する動きも出てきてネタニヤフ氏は政治生命を延命しそうだという。

そうなると「ハマス対ネタニヤフ」という強硬派の対決の構図は変わらないわけで、やはり今回の停戦は「一時しのぎ」に過ぎないと言うことになる。

もしこの停戦を長らえるためにできることがあるとすれば、ハマスに対するイランなどからの武器援助と米国製武器のイスラエルへの供与を遅らせることぐらいか・・・

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】