高齢化が進む地方の市町村では、車を運転できなかったり、交通機関が不十分なために移動が困難な高齢者が増えている。さらに、地方では医療施設や医療従事者の不足も問題となっているという。

そうした課題を解決するために医療機器大手のフィリップス・ジャパンが、長野県伊那市と連携して移動診療車を使用したオンライン診療の実証実験を12月12日に開始することを発表した。

車両は、同社とトヨタ自動車やソフトバンクの共同出資会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」がトヨタのハイエースをベースに共同で開発。車両内には、医師と話すテレビ電話用モニター、心電図モニター、脈拍計、心拍計、簡易ベッド、などを搭載している。

提供:フィリップス・ジャパン
提供:フィリップス・ジャパン

診療車にはドライバーと看護師が乗り、移動することが困難な高齢の患者の自宅などを個別に訪問。看護師が車内で患者の血圧などを測定するとともに、病院内にいる医師がオンラインで診療するというわけだ。

しかし、本格的に実現すればたしかに便利そうだが、車両内では実際にどのような診療が可能なのだろうか? そして実証実験後の展開は? フィリップスジャパン担当者に聞いてみた。

「移動困難な住民の診察機会の確保」「医師の負担軽減」が急務

――移動診療車を開発した経緯は?

伊那市は、以下に示した4つの「背景」により、特に「1.交通弱者の診察機会の確保」や「2.業務効率化による医師の負担軽減(医師一人当たりの診療患者数の増加)」の検討が急務でした。この課題を解決するために、ヘルスケアモビリティ領域への参入を宣言したフィリップスとMONETが議論を重ね、課題解決に資するサービスを開発しました。

【背景】
1.伊那市は、面積 約668キロ平方メートル(県内で3番目に面積が大きい)で、人口68,230人、世帯27,573戸(平成31年2月1日現在)であり、人口密度は100人/キロ平方メートル 程である。
2.人口の約3割を占める高齢者や、公共交通機関が乏しい地区に住む住民は、日常的に移動しづらく、医療サービスにアクセスしづらいことが課題である。
3.特に高齢化に伴い、慢性期医療への需要は高まっていくが、慢性疾患の患者は、主に定期再診と投薬が必要であるため、診療所等への移動や、待ち時間等が負担である。
4.加えて、医師が都市部に集中する偏在問題が深刻であるため、医療施設や従事者の業務効率化・負担軽減が求められている。


看護師が乗車 医師とテレビ電話により診察

――移動診療車によるオンライン診療はどのように行われる?

看護師がヘルスケアモビリティ車両に乗り、ドライバーと共に患者宅を訪問します。
患者は、車両に乗り込み、車両内のテレビ電話により医師が病院から患者を診察できるようにし、看護師が医師の指示に従って患者の検査や必要な処置を行うことを想定しています。

提供:フィリップスジャパン

――どこまでの診療が可能?

オンライン診療の保険適用範囲である「慢性疾患(糖尿病など)」を対象にしています。
今後、オンライン診療の保険範囲の改定に伴い、診療対象を広げていく予定です。

――実証実験では、どんなことをする予定?

以下機能について、実証事業を始めます。
・医療従事者が、患者と合意したスケジュールで車両を予約するシステムの運用
・医療従事者の職種を横断した情報共有クラウドサービスの導入・運用
・病院/クリニックにいる医師と車両に乗り込んだ患者とを繋いだオンライン診療
・看護師による診察補助

今後は、地元開業医との連携やオンライン服薬指導を想定

――今後の展開は?

今後については、伊那ヘルスケアモビリティ事業の実証期間中(2021年3月まで)と、実証期間以降で分けて考えています。実証期間中は、オンライン診療や情報共有クラウドサービスをモビリティと組み合わせた際の「提供価値」を証明していきます。さらに、本車両を活用したオンライン服薬指導なども検討していきます。

実証期間以降は、実証期間中に提供したサービスを起点に、更なるサービスの高度化を目指していきます。

地元開業医との連携強化に加え中核病院との連携を通じ、事業のモデルケースを確立させていくとともに、国内外への展開を目指していきます。

提供:フィリップスジャパン

多くの自治体が関心を持っている

――伊那市以外にも、すでに手を挙げている自治体はある?

名称は非公表ではございますが、多くの自治体が関心を持っています。また、自治体だけでなく、多くの企業も、類似事業のパートナーシップに関心を持っていただいています。

対面で診察することが珍しい時代になるかもしれない(画像はイメージ)


通院で大変なのは、病院までの移動時間と診察までの待ち時間。この問題を解消できて嬉しいのは、何も地方に住む高齢者だけではないだろう。さらに医師にとっても、訪問診療による移動がなくなるなど、業務効率が進むはずだ。

実証実験を通じて課題などを見つけ、さらなるオンライン診療のサービスが広がっていくことに期待したい。