トランプ大統領未だ弾劾訴追されず

「トランプ大統領が弾劾訴追さる」と報道したのはフェイクニュース(偽ニュース)だったのかもしれない。

確かに、米下院では18日の本会議でトランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾訴追決議二案を賛成多数で可決した。しかし、それだけでは大統領を弾劾訴追したことにならないと専門家が言い出した。

ハーバード大学法学部のノア・フェルドマン教授がその人で、ブルームバーグ通信電子版に20日投稿し「弾劾訴追は下院の採決だけでは成立しない。訴追状が上院に送られて初めて有効になるのだ」と主張し、米政界に波紋を呼んでいる。

12月4日下院の司法委員会で証言するハーバード大学法学部のノア・フェルドマン教授
12月4日下院の司法委員会で証言するハーバード大学法学部のノア・フェルドマン教授
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弾劾大統領を“さらし者”にする作戦の効果は?

実は18日の採決の後、ナンシー・ペロシ下院議長(カリフォルニア州)は下院の訴追が上院で公平に裁かれるかどうかを見極めるためとして上院への訴追状の送付を止めている。

上院での弾劾裁判に民主党に有利な証人の喚問などを実現するためのかけひきと見られているが、民主党の一部には「どうせ送付しても共和党多数の上院の裁判で無罪になるのならば、このまま送付しないでトランプ大統領を『弾劾大統領』とさらし者にしておいた方が大統領選で有利だ」という意見もあり、年明けからこの問題の取り扱いが注目されている。

実は、投稿したフェルドマン教授は今月初め開かれた下院の弾劾聴聞会に出席し、次のように証言していた。
「権力の乱用は大統領がその地位を個人的に利用しようという時に発生します。この問題は米国人の基本的な問題として関わってきます。というのも個人的な目的でその地位を利用しようという大統領を弾劾できないとすると、私たちは君主制か独裁者の下にあるということになるからです」

つまり同教授はトランプ大統領を弾劾すべきだという立場なのだが、手続き上このままでは大統領を弾劾したことにならないと言うのだ。

「下院が弾劾訴追を採決しても訴追状を上院へ送付しなかったり、弾劾委員が上院へ赴いてそのことを告げなくとも直ちに憲法違反にはならない。しかしそれは憲法の弾劾条文の精神に背くことになる。大統領を弾劾する時には、上院で大統領が自らを弁護する機会与えらることを憲法は保証してているからだ」

「われわれは悪いことは何もしていない」と強気のトランプ大統領
「われわれは悪いことは何もしていない」と強気のトランプ大統領

「私は弾劾大統領ではないぞ」

前回1998年にビル・クリントン大統領がインターンとの不倫問題で弾劾訴追された時は、下院は直ちに上院へ訴追状を送付し弾劾裁判の手続きが始まっている。

当時と比べて今回は党派性の強い弾劾の手続きを経ているので予断を許さないが、このフェルドマン教授の指摘によって民主党の訴追引き伸ばし作戦が影響を受けることは間違いない。

それよりも、トランプ大統領は今後ことあるごとに「私は弾劾大統領ではないぞ」と公言するのではなかろうか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。