発信した情報が広く人に知られて欲しいーこれは少なからぬ企業や個人の願いだろう。実際にSNSで拡散されるとどうなるのか?

筆者は昨年、思いつきで書いた記事がtwitter・noteフォロワーほぼ0人の状態からnote上でバズり、結果として10万PVを超える反響を得た。その経過と結果を紹介していきたい。

「すごいことが起きてる…」それは青天の霹靂だった。6時間で800いいね。端末からはひっきりなしに通知が飛んでくる。無名のアカウントだったのに、なぜだろう。

きっかけは練習

私は作家のエージェントという仕事をしている。「作家はネットを中心に自分で発信していく必要がある」と考えた私は、プラットフォームサービス「note」にアカウントを開設した。自分を実験台にしてやり方を学んでおこうと思ったためだ。2018年5月末、私は重い腰をあげて登録した。

ほとんどフォロワーがいない状態で書き始めて2ヵ月後、ある記事がバズることになる。それは私が「note」に公開した「創作に携わる、すべての人にこれくらいのメンタリティでいてほしい」という漫画だ。もともと漫画を書いたことはなかったのだが、手元に絵が描けるデバイスがあったので思いついたのだった。

きっかけは、ある人が「裏方のくせに偉そうに発信するな」と非難されているのを見たことだった。自分の中に何か火が付いたのを感じた。これまではただ機械的に書いていたが、これは心から書きたいことだった。「誰だって発信することは自由なはずだ」と思ったら手が動いていた。出来上がった絵は非常に拙いものだったが、私はそれをネットにあげた。

遠山さんが「note」にアップした漫画
遠山さんが「note」にアップした漫画
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初めてのバズ

その瞬間、あっという間に反応が返ってきた。6時間で800いいね。今までは10いいね程度だったので、驚異的な数字だ。特にフォロワーが数万人いる方や、結構な著名人が拡散してくれたため効果は抜群だった。twitterも未投稿だったにも関わらず、破竹の勢いでフォロワーが増えていく。インターネットはフラットな媒体で誰とでもつながりうる、ということを実体験したのだった。それは自分の意見が受け入れられるということであり、同時に自分を離れてコンテンツだけが一人でに広がっていくということでもある。そこには受容に伴う安堵と喜び、そして拡散に伴う心配も当然ながらあった。

該当の漫画は最終的には5000を超えるいいね、10万PV、2019年7月にはねとらぼなどのメディアに転載され、yahooニュースにもなった。

ネットでは大逆転があり得る。無名でもチャンスはある。ただし、ネット上で既知の仲だった人が拡散協力してくれたことも事実だ。もし自分の発信を広めたいのなら、ネット上で知人を作ることから始めるのがいいかもしれない。また、知っておいてほしいのはバズは一時的な祭りであって、人々が思うほど魔法の杖ではないということだ。一度バズっただけでファンが大量に付くのは稀だ。特定商品の販売は可能かもしれないが、持続的で強固な関係を結ぶのは単発では不可能である。地道に続けることの方が重要だ。

さて、ここまで拡散されると反対意見が出てくるだろうと身構えたが、蓋を開けてみるとnoteやtwitter上では98%ぐらいは好意的な感想だった。ただし、掲載媒体を変えた時は風向きが変わった。あとでわかったことだが、この漫画は創作側と批評側のどちらの立場で読むかで意見が別れるらしい。「見る専」が多い媒体では明らかに否定的な意見が出て紛糾していた。もっとも、直接クレームが寄せられたことはなかったが。閲覧者の反応は掲載する媒体で変わると言えるだろう。媒体の使い方だけではなく、使用者がどんな特性なのか見極めたうえで投稿することをお薦めする。

みんなに好かれるのは可能か

多少不安を抱えつつも、後学のために否定的なコメントも見てみた。的を射た意見もあるが、揚げ足取り、自説の提唱、見当はずれな解釈も多数含まれていた。想像している以上にみんな自分の世界と考えの中で、物事を見ているのだと気づかされた。

発信している側はこれを伝えたいという気持ちでいっぱいで、書いたことはわかってもらえると思ってしまうが、それは甘い考えである。読み手は自分が読みたいところ・読めるところを読み、勝手に解釈するものだ。

もちろん、のちの広がりを予測していなかったがために、言葉の使い方や構成が曖昧だったという自分の拙さも影響しているだろう。そこは反省する限りだが、ネットという場所で全員の同意を得ることは不可能だと気づいた。

反対意見を抑えるために先回りしたり、マウンティングして書く手法もあるが、個人の書き手がやると大変な上、書くことが辛くなるだろう。差別や誹謗中傷・デマはするべくもなく、配慮して書く必要はあるが、自分の発信内容が全員には理解されないことも受け止めなくてはいけない。

さて私がバズで得たもの、それはフォロワーではなく、もっと書きたいという自分の思いだった。澱のように沈殿しつ、いつしか忘れていたものを書きたいと思った。しかもやったことのない漫画のジャンルで。今でも週1回は更新を続けている。いつも今回のような反応が得られるわけではない。それでも表現したいと突き動かす衝動、これこそが魔物ではないだろうか。

多くのクリエイターが理解されないと知りつつ、今日も発信し続けているのだろう。それはいわゆる承認欲求だろうか。しかし、発信者は完全に承認されないことは薄々気が付いているはずだ。何かを表現したいという熱意は、くだらない欲望と揶揄する声すら超えた何かだと、私は信じている。

遠山怜
作家のエージェント・表現家
作家のエージェントとしてプロデュース業をしながら、自身も漫画や文章を通じて創作をテーマに表現し続けている。『上馬キリスト教会の世界一ゆるい聖書入門』6刷『ウケる人、スベる人の話し方』3刷。

遠山怜の「note」https://note.mu/toyama17

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。