トルコ軍が、ついにシリア北部に侵攻した。エルドアン大統領は、シリア北部の国境地帯を実効支配するクルド人勢力を排除し、そこに「安全地帯」を設けたうえで、トルコ国内にいる360万人のシリア難民のうち200万人を帰還させるとしている。
この記事の画像(8枚)アメリカのトランプ政権は10月6日、トルコの軍事作戦には「関与も支援もしない」と表明し、シリア北東部からの米軍部隊の撤収を発表した。トルコの軍事作戦を事実上、黙認した形だ。軍事作戦はその3日後の9日に始まった。トルコ軍は初日から空爆のみならず陸軍部隊を投入し、これまでに550人のクルド人勢力(トルコは「テロリスト」と表現)を殺害したと発表している。(14日現在)
国境沿いの町を取材
FNN取材班は軍事作戦開始翌日の10日、トルコ南部のシリアとの国境の町、アクチャカレに入った。国境沿いの道路ではトルコ軍車両が砂煙をあげながら走行し、シリア側ではところどころで砲撃の黒煙が上がっていた。
トルコ軍の侵攻を歓迎する子どもたち
アクチャカレは人口11万人、トルコ国籍の有無に関わらず住民のほとんどはアラブ系だ。
トルコ語を話すものの、アラビア語なまりが強い。
町ではトルコ国旗を振る子供たちを何人も見かけた。
トルコ軍の侵攻を歓迎しているのだという。
トルコでは国民の多くが軍を支持しているが、ここ国境の町でもその様子が伺えた。
われわれは、住民に侵攻当日の様子を聞いた。
アクチャカレに住む少年:
「きのう爆弾を見たよ。煙がもくもく見えて、死ぬかと思った。この公園まで逃げてきたんだ」
子どもたちは屈託のない笑顔を見せながらも、口を揃えて「死にそうになった」と語った。
砲撃が子供たちにどれだけ恐怖を与えたかは想像に難くない。
トルコ南部の国境沿いの町では、軍事作戦開始以降、安全上の理由から休校にしている学校が相次いでいるという。
われわれはさらに、国境のこの町で生まれ育ったという男性に話を聞いた。
「朝まで一睡もできなかった」
イマーム・コジャマン氏:
「トルコ軍の軍事作戦は、まず砲弾を撃ち込んだ後に陸軍部隊が投入された。とても怖かったよ。子供たちがひどく怯えて、朝まで一睡もできなかった。だって、ずっと砲撃の音が響き渡っていたからね。シリア側に奴ら(クルド勢力)の拠点がたくさんあり、アメリカが持ってきた弾薬や武器がある。トルコ軍は、その拠点を狙ったんだ」
コジャマン氏は、侵攻当時の恐怖について詳しく語ってくれた。
トルコ軍が越境し、砲撃の瞬間や拠点を爆破するのがはっきり見えたという。
一方、シリア側からも攻撃があったという。
イマーム・コジャマン氏:
「奴らも国境の向こうからこちら側に撃ってくる。近くの家に迫撃砲弾が落ちたんだ。近所に落ちて、僕らの家に落ちないという保証はないし、本当に朝まで眠れなかった」
トルコ側の町でも犠牲者
国境沿いに住む人たちにとって、その恐怖は計り知れないものがあるだろう。われわれが取材した日も、シリア側からアクチャカレに迫撃砲弾が撃ち込まれ、赤ちゃんを含む2人が死亡した。トルコの軍事作戦は自国の国民にも被害をもたらし始めている。
イマーム・コジャマン氏:
「以前はシリア側には友達もたくさんいて、お互いに行ったり来たりしていた。でも、クルド人武装勢力が来てからというもの、治安が悪化し、関係が途絶えてしまったんだ。弾が飛んできても誰が撃ってるのかわからない。話し合うべき相手が誰なのか、もうわからないんだ」
紛争によって、人々の交流も完全に途絶えてしまった今、コジャマン氏は「解決の糸口が見つからない」と嘆く。
終わりの見えない「軍事作戦」
今回のトルコ軍のシリア北部侵攻により、シリア北部からは既に10万人以上のクルド人住民が家を追われたとされる。クルド人勢力側によれば、子供を含む民間人にも既に多数の犠牲者が出ているだけでなく、拘束されていた過激派組織「イスラム国」戦闘員の家族ら800人近くが収容所から脱走したという。
シリア北部にトルコ軍が侵攻したことに対抗するため、クルド人勢力は13日、シリアのアサド政権軍と協力することで合意、アサド政権軍は「トルコの侵略行為に対峙する」ため、シリア北部入りしたと報じられた。
さらにトランプ政権が同日、シリア北部から1000人規模の米軍部隊の撤収を決定したことから、今後シリアをめぐる構図はガラリと変わる可能性がある。
エルドアン政権が掲げる「安全地帯」設置は果たして実現するのか? それとも、シリア情勢はこれまで以上に泥沼化していくのか? 事態が刻一刻と変化する中、トルコの軍事作戦の行方に国際社会が注目している。