バイデン大統領は救世主?賞賛の嵐に警告

「少し酔いを覚ましたらいかが、お願いだから?」

米国の政治に特化したニュースサイト「ポリティコ」の論評欄に、21日(現地時間)掲載された記事の見出しだ。

「ポリティコ」はトランプ前大統領に対して厳しい論調を貫き、「進歩派」と考えられてきたので意外だったが、米国の主要マスコミで、バイデン大統領の登場を賛美しているのが度を過ぎていると皮肉まじりに警告する。

「ワシントン市の土木部は、バイデン大統領就任をめぐるマスコミの賞賛と承認、それに崇拝の流れを市内からポトマック川に向けて流す迂回水路や排水溝、トンネルなどを造るべきだ。そうでないと、市内の低地の住人は就任式当日のマスコミの賞賛の洪水に溺れてしまう危険があるからだ」

その上で、まずCNNを俎上に載せて、バイデン大統領の政治経歴や家族環境など、全て美化して“救世主”のように伝えるのは如何なものかと指摘する。

大統領就任式で聖書を手に宣誓するバイデン大統領
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また、CNNと民主党支持を競うMSNBCテレビも、売れっ子のキャスターのレイチェル・マドーさんが「就任式を通して(うれし)涙が止まらず、ティッシュの箱を抱えていた」と言ったのも党派性丸出しのコメントだったと批判している。

クリントン氏は目をつぶり…演説の評価は

「ポリティコ」は取り上げなかったが、トランプ寄りとされたフォックス・ニュースで独り前大統領に批判的だったキャスターのクリス・ウォレス氏が「1961年のケネディ以来、就任演説を聴いてきたが、バイデン演説はこれまでで最高のスピーチだった」と言ったのも“酔い”のなせる業ではなかったのか。

初演説では「全てのアメリカ国民の大統領になることを誓う」と述べた

バイデン新大統領の国民の融合を訴えた演説は、私には美辞麗句を並べただけのようにも思えたが、タイム誌電子版21日掲載の記事もこう表現している。

「テレビで見る限り、就任演説は退屈気味だったと言わざるを得ない」

退屈だったかどうかはともかく、就任式に出席したビル・クリントン元大統領が、日差しを浴びて気持ちよさそうに目を閉じて居眠りをしているような様子がテレビ中継のカメラに捉えられており、必ずしも聴衆を奮い立たせるような演説ではなかったとも言えそうだ。

ヒラリー氏と大統領就任式に出席したクリントン元大統領。手前にはペンス前副大統領、ブッシュ元大統領の姿も

マスコミは厳しくなければならない

バイデン賞賛の嵐はテレビだけでなく新聞記事にも見られたが、その1つでもあったワシントン・ポスト紙は、21日の電子版に自戒を込めたかのような次のような見出しの記事を掲載した。

「マスコミが、バイデン氏のホワイトハウスが正常に戻ることを喜んでも良いが、それで追及の手を緩めてはならない」

同記事は、20日に行われたバイデン政権初の記者会見について「それは極めて平常だった。というよりも不気味なほど平常だった」と評価する一方、記者団が平常な質疑を交わすだけの記者会見に満足しているのは危険だとも指摘する。

「マスコミは厳しくなければならない。それは(トランプ政権と対峙したような)過去4年間とは違う厳しさが求められる」

ホワイトハウスでの記者会見(1月22日)

記事は遠回しながら、マスコミがバイデン政権に手放しの好意を抱き続けていると批判精神を失い、本来の役割を果たせなくなるのではないかと懸念している。

こうした意見がマスコミから出てきたのは歓迎すべきだが、逆に言えば米国のマスコミがいかに党派性に偏っているかがバイデン大統領誕生で浮き彫りにされたということだろう。

それでも、米国民は周知の事実なので驚かないだろうが、マスコミは「中立公平」なものと信じている日本の読者・視聴者は、米国のマスコミ報道には心して接しないと間違えることになるのではないか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】