岐阜県多治見市に、世界の街をイメージした色とりどりのカヌレが並ぶお店があります。手掛けるのは、54歳で店をオープンした女性パティシエ。海外で気付いた「自分らしさ」を大切に、60歳の今も新たな挑戦を続けています。
■世界の街を表現した「旅するカヌレ」
岐阜県多治見市。豊かな緑の中にたたずむ「ラボラトワール アコ」には、彩り豊かなフランスの伝統菓子・カヌレが並びます。

客:
「カヌレが好きでいろいろな店で食べますが、この店の食感と味が好きです」
別の客:
「初めて食べる人は未知の世界だと思います」
評判のカヌレを手掛けるのは、瑞浪市出身の河合亜古さん(60)です。
河合さん:
「うちのカヌレは世界の街の名前を付けています。その街にカヌレがあったら、こんな味になるんじゃないかって。ケベックはカナダの都市で、メープルシロップとしてケベック産を使用しているので。シシリーはイタリアのシチリア島で、そこのピスタチオを使用しています」

世界の都市の名前が付いた、色鮮やかなカヌレ。そこには、ある思いが込められています。
河合さん:
「カヌレで世界旅行をしてほしい。実際にその街に行くのは難しくても、せめてカヌレでその街を想像してほしいです」
■手作業で生み出すこだわりのカヌレ
午前6時半。河合さんの1日は、生地の仕込みから始まります。
この日、最初に作るのは看板商品「パリ」。フランボワーズのチョコが目を引く、華やかなカヌレです。
なぜ「パリ」という名前なのか。それは、河合さんがパリで出会ったフランボワーズのスイーツに由来します。
河合さん:
「どこにもない味だなと。華やかで繊細で独創的で、パリの街そのもの。衝撃的でした」

まずは発酵バターを火にかけ、焦がしバターにしていきます。焦がしたバターと小麦粉、そして地元・岐阜県産の卵などを加えて混ぜ合わせます。
河合さん:
「全部手作業でやっています。グルテンは混ぜすぎると粘りが出てしまうので、生地をよく見ながら作っていきます」
手間をかけることで生まれる、こだわりの食感。生地の状態を見極めながら、繊細な加減で仕上げていきます。
河合さん:
「パリの特徴のバラの香りのローズウォーター。食べるとバラの香りが広がります」

優しく混ぜて1日寝かせます。
河合さん:
「寝かせると生地が落ち着いてグルテンがおさまるので、1日寝かせてから焼きあげます」
一晩寝かせた生地に加えるのは、ライチリキュールとフランボワーズ。型に流し入れると、オーブンへ。
河合さん:
「カヌレはすごく気難しいお菓子なんです。焼きが難しい。温度や時間で変わってしまうところがとても苦労しました」

およそ30分後。きれいに焼き上がりました。仕上げにフランボワーズのチョコを塗れば完成です。1つ496円の「パリ」。繊細で華やかな見た目と味わいは、芸術の都を思わせます。
■54歳で踏み出した第2の人生
午前11時。カヌレが店先を彩ります。秋の限定は、石川県のほうじ茶と栗を使った「加賀マロン」(529円)。いつ訪れても新しい味との出会いがあります。

客:
「世界観と材料にこだわっている。ほかにはないものがあっておいしい」
別の客:
「どんどん新作が。季節のフレーバーがあるので、いつも楽しませてもらっています」
独創的なカヌレを生み出す河合さん。現在60歳ですが、店をオープンしたのは54歳のときでした。
河合さん:
「保守的な家庭で育ったので、大学に行って、企業に勤めて、結婚して、と漠然と考えていたのですが、海外に行くと、女性でももっと自由にやりたいことをやっている。別にレールの上に乗っていなくてもいいんだと思ったのが大きかった」

2020に、大好きだったカヌレの店を多治見駅前にオープン。人気を集め、手狭になったことから、2022年に現在の店を開きました。
河合さん:
「自分が死ぬ間際に後悔するんじゃないかって。たとえ失敗したとしても、やらなかったよりいいかなって気持ちはありました。本当に小さくても一歩前へ出れば、そこからは歩けるかもしれない」
海外で気付いた「自分らしさ」を大切に歩む第2の人生。一つ一つのカヌレに思いを込めて、河合さんは今日も新たな味を生み出しています。

